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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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帰り道セラピー

ノヤリスの拠点までの帰り道。

先程まで真上から髪を焼いていた日が沈み始め、空を紅く染める。

行きのラッシー号を地獄だとたとえるなら帰りのこれは極楽。

帰りの馬車はこれ以上ないほどに快適なものだった。

綺麗な馬が、綺麗に手入れされた荷台を引く。

蹄の音、荷台の揺れる音、そして馬を操る猫の亜人の鼻歌、そのすべてが心地よい。

仮にも秘密組織、人気の少ない場所を最低限の速さで通り抜けているが、もし誰かが見ても遠目であれば、どこかの貴族が乗っているのだと勘違いしてしまうだろう。

それほどに、安全第一を信条にするナッチーの馬車での移動は落ち着いた時間だった。


「帰るまでが仕事だって言うけど、これは落ち着くな……あれ、ナノン?」

コルが視線をずらすとナノンは赤毛の亜人の膝枕で安らかな顔で寝息を立てていた。

「寝ちゃった~、あらまた煤だらけ……ナノンちゃん今日も沢山頑張ったんですね~よしよし」

(すごく無防備だ、疲れていたとはいえあんな一瞬で寝るなんて、よほどこの人のことを信頼しているんだろうか)

「コラ~?寝てる女の子をそんなにじろじろ見るのはいけませんよ~?」

「それもそうだ、後で謝っと……きます」

コルは自分と年はそう変わらないであろう相手に軽く叱られ、つい敬語になってしまった。

「そんなにかしこまらなくてもいいですよ~、あっいけない、私はリン、あなたのことは聞いてるわ、コルちゃん……ね?合ってる?」

「ちゃん……?あ、ああ、合ってる……何故そんな誇らしげな表情を……?」

「よかった~、新しい人が来るといつも名前を間違えて覚えちゃうのよ~……」

リンはナノンの頭をなでながら話をつづけた。

「私これでもナノンちゃんと同じノヤリスの幹部だから、しっかりしないとなぁって思ってるのに、こういう失敗が多いから~……今回は正解できて嬉しいなぁ」

「幹部……ナノンが言ってたな、創設メンバー8人の事だって」

コルはナノンの寝顔を見つめたが、すぐに先程言われたことを思い出し目をそらす。

「正確には団長のバハメロちゃんと、バハメロちゃんが最初に解放した7人ってことだけどね~、それに幹部って言っても私は戦うのは得意じゃないから、いつもはお部屋の掃除したり、みんなのご飯を作ったりしてるわ~、むしろこっちが私の戦場なんだから、このお仕事は誰にもゆずらないの」

「だからメイド服を?」

「ええ、機能的でかわいくて、気に入ってるのよ~……まあ『奴隷になる運命から逃げることができたのにそんなことしていいの?嫌じゃないの?』とはよく言われるけども~……好きでやっているのよ?なかなか伝えられないけど……えーとね……」

「いやわかるよ、俺の母も家事炊事が好きでさ、私がやるから!って言って使用人を一人残して全員解雇するくらい。すこし前に死んじゃったけど、最後に言ってたんだ『愛する家族の住む家を綺麗にして愛する家族の食べるご飯を作る人生はすっごく満たされて幸せだった』って、俺もうまくは言えないけど、そういう感じなんじゃないかなって」

「そうそう、そういう感じです~……すこし話をしてみたかったわ~……」

「ああ……なんか懐かしい気持ちになったな、まあ帰ってももうその母はいないし、親父とはあんまり顔合わせたくないし、あーあ……」

小さくため息をつくコルにリンは一瞬ばつの悪そうな顔をしたのち、優しい声色で声をかけた。

「コルちゃんもお疲れでしょう?ほら横になって、ナッチーちゃんの馬車は荷台がふかふかだからぐっすりできるわよ~、あ~膝枕は定員オーバーだけども……」

「き、気持ちだけ受け取っておきます」

コルが横になると荷台の床は布団のように柔らかかった、蹄の音、馬車の揺れ、鼻歌。

すべてが寝るのに丁度いいリズムで、ふと目を閉じたコルは瞬く間に夢の中へ沈んでいった。

「おやすみなさいコルちゃん……お父さんにはいつか手紙だけでも出してあげてね」

「あら?お二人ともお眠りになりましたか」

「ええ、ナッチーちゃんも適度に休憩してね~」

「わたくしはまだ大丈夫ですわ、安心なさって、休憩を一度挟んで明日中に到着するペース配分で考えてますわ、リン様こそお休みになられてくださいまし、このあたりは異獣も夜盗も出ませんわ」

「そうね~、それじゃあお言葉に甘えて……」

ナッチーが鼻歌を再開する、そこに鳥のさえずりが加わり、虫の鳴き声が加わり、最後には木の揺れる音までが加わる。

コルは心の底から癒された、翌日も心地よい音を聞きながらナノンとリンと話をした。

リンはとても聞き上手でナドスト周辺であったことを完璧に話すことができた、そのまま文字にすれば100点の報告書が出来上がるだろう。

拠点に帰り着いた頃には疲れは消え去り、それどころか出発した時より元気な気すらする、そして完璧な報告書のおまけつき。

ナノンの言った通り、最高の帰り道だった。


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