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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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手札①

(ライゼル殿は顔色一つ変えていませんが、恐らくすでにこちらの手札には見当がついているでしょう)

(真面目で聡明なイーリス殿の事、こちらの考えもある程度は予想した上でプランを練ってここまで来たのでしょうな……)

これは互いに利益を生むための話し合い。

その前提がある以上、あとはその利益をどこまで互いに納得できるものにするかだ。

主導権を握っていたライゼルが先に切り出す。

「我が国での亜人保護と亜人狩り撤廃については、わし個人的としては概ね賛成できる。先程の、ノヤリスの団員方によるレマンへの抜け穴の封鎖ができるのであれば、我が国の少ない兵の使いがいもあるというもの……と言いたいところなのじゃが」ライゼルは肯定的な雰囲気を見せながらも、あからさまに、わかりやすく渋ってみせる。

「ああ……正直なところを言うと、近年ノイミュの治安は悪化の兆しを見せておってのう。少ない兵は今そこに割かれておるのです。それを動かすとなると少なからず不満を煽る事になるやも。更に言うならばその、亜人を保護し亜人狩りを排除した後に予想される国力の疲弊も鑑みると、ここで簡単に首を縦にふる訳にもいかんのですよねぇ……」

無論、これは本心であり、偽りのない事実である。

しかしそれと同時に、これを承知の上で何かあるのだろう、というライゼルからイーリスへのパスでもあった。

「……でしたら、こちらに考えがあります」

当然、そのパスを受け止める準備もイーリスはしている。

「順序が少し入れ替わってしまいますが、先に後の国力についての話をさせていただきます。ミスタルにて保護した亜人の方々には現在、正当報酬で仕事を与えている状況で、結果として我が国の生産性、経済は向上。保護法発令後の混乱で低下した分と差し引きでプラスといって差し支えない状況でしょう」

ライゼルはリラーテが静かに差し出した書類に目を通し、僅かに眉を動かす。

「……ほほうこれはこれは、保護した亜人を正式な労働力として雇う。イプイプカンパニーと同じ形式、その拡張版、といったところですかな?サナダ殿」

「ええ、そうなりますね。現在様々な分野で結果を残し始めています。……工場内で従業員のコミュニティがある程度完結しているカンパニーとは違い民の理解や受け入れの問題はありますが」

「それに関しては、一朝一夕でどうにかなる問題でもないと考えており、適切な対応をしていく方針です。そしてここからがライゼル殿の懸念の前半である、兵力に関するお話となりますが……ライゼル殿とその前に一つ確認をさせてくださいますか?」

「ほう、なんでしょう」

「ライゼル殿はカンパニーの亜人従業員をその目で見た事があるのですよね?」

「ええ勿論。会社設立から間もない頃、技術者仲間としてサナダ殿に案内された日を今でも思い出せます」

「世間一般の亜人への理解はとても低く、亜人は貧弱であると言われる事があると、私はノヤリスの方々や保護した方から聞きました。しかしかの従業員達を見たライゼル殿であれば、充分な補給を得た者とそうでない者の差であるとご理解いただけるはずです。そこで更に……バハメロさん」

イーリスは目配せをして、バハメロに合図を送る。

「うむ。吾輩達ノヤリスはこれまで亜人狩りと長く戦ってきたのである。先日それで培った対人戦のノウハウをミスタルの騎士団に実戦形式で共有した際に判明した事であるが、我々ノヤリスにはミスタル騎士団の小隊を相手に勝利を収めるだけの力がある者が、多くいる」

「……ほほう……」

「騎士団長である私からも事実であると保証します。」

「一応その者は我々の中でも実力者とされる上、兵達も訓練用の装備であった。形が違えばより接戦となるであろうが、それでも戦闘訓練を受けた亜人が一般兵と同様か場合によっては以上の力を持つことの証明にはなるであろう」


バハメロが目配せでイーリスに返す。

「……ミスタルでは現在、ノヤリスとは別に、亜人で構成された国家公認組織の設立を計画しています」

「……なるほど、話の流れからするに、騎士団に亜人兵士の部署を作る、といったところですかな。」

「さすがはライゼル殿、ご明察です。これは亜人保護の一環であり、他の仕事と同様、志願者に与えられる仕事の1つとして志願者を募るのです。既に志願者が予定数に到達しているので、彼らを試験的に訓練兵のような形で警備に加えてくだされば、ノイミュの兵力への負担は更に軽減されることかと」


イーリスは更に続けた。

「亜人兵士には力の事だけでなくもう一つの理由があります。それは彼らに力を求める際、正式な兵として扱うという事の証明。彼等の並外れた力を生物兵器として扱うべきではないという、私の考えでもあります。」

それを聞いてライゼルは思考を巡らせる。

(ふむ……理に適っておるのう。結果的に亜人保護を進めることで生産性と兵力の点でプラスをもたらす。その上でその過程の我が国への負担も許容範囲内。倫理的にも蓋をされた以上この件でゴネる事はできんのう……では)


「……ほっほ、充分に実現可能な案ですな。それほどのご支援もあるのでしたらこちらとしても反対する理由はありますまい」

「では……」

「しかし、それはあくまで我が国で亜人保護を進めるのであればの話ですのう」

「……ライゼル殿」

「おっと、話を最後まで聞いてくだされバハメロ殿。確かに此度のイーリス殿の案を受け入れれば国は結果として豊かになるでしょう。しかし我が国には我が国のやり方で国を豊かにする算段もついており、亜人保護を敢行すればその方法は遠ざかる。果たしてどちらのやり方が最終的な結果として良き結果を招くやら……」


ライゼルのその反応にノヤリスの三人、とくにコルは密かに奥歯を噛み締めた。

(戦闘力の話は最終的に協力関係を結びつける事を前提に出した話……ここで終われば最悪、亜人は兵器になりうるという情報を与えて帰るようなもの……そうすればこの国の亜人がどうなるか分かったもんじゃない……!)

しかしここで下手に動いて事を荒げる事は出来ないし、コルはあくまで『手札』の1枚であり、プレイヤーであるイーリスの采配を待つことしか出来ないのだ。

(今回は基本的に隠し事はなし、誠実な姿勢で立ち向かうという方針、とは言っていたけど……っ、イーリスさん。頑張ってくれ……っ!)

「……それは……っ」

イーリスが生唾を飲む。

その時、閉ざされるかのように見えた道を切り拓いたのは、最初から伏せられていた一枚のカードだった。

「はっは、国王サマよ。そんな回りくどいやり方で危ない橋渡る必要はないぜ。もっとシンプルに言えばいいんだ。『その男は何のためにここにいる?いつになったら口を開く?』ってな」

「……パッケン・ブレッツ。一応確認をしておきたいのが、貴殿はあの手配書の男で間違いないのだな?」

「ああ皆まで言うな。それを知ってて俺をつまみ出さなかったのは女王の御前、何か理由があると考えた……ってのは言い訳だってわかってるぜ。内心ずっと、『俺と』話したくてウズウズしてたんだろ?」

僅かに眉を潜めるライゼルに対し、パッケンは王城の一室にふさわしくないニヒルな笑みで答えた。




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