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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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ノイミュの王

三国が一つ、ノイミュ。

他国と比べ流行に凄まじく敏感な国民性は、悪く例えれば飽きっぽいとも言われる。

しかしノイミュが文化を作る国と評される理由は、ひとえにその技術力の高さにあった。

興味を持った物に対し熱心なのは国民に限らない、国の上層部すらみな何かしら突出した趣味を持つ者がほとんどだ。

それは国王、ライゼル・フォン・ノイミュも例外ではない。

機構に魔術に変わるポテンシャルを見出し、投資を惜しまず、自らも発明家として先陣を切り、結果として大陸全土に機構技術を広めるに至ったのだ。



コル達は使用人の案内を受け、ノイミュの王城の一室にたどり着く。

長い机に、多数の椅子がずらりと並べられており、正面には黒板のようなものや何かしらの機材も置かれている事から、普段は会議室として使われているものだと想像がつく。

(てっきり謁見の間的な所に連れてこられるものだと……)

「王が来られるまで、おかけになってお待ち下さい」

そう言って使用人はコル達を残して部屋をあとにした。


各々が選んだ席に座っていると、そう時間もたたぬ間に部屋の扉が開かれ、一人の男が杖をつきながら入ってくる。

小柄な老体でありながらも、その表情や瞳から活力が溢れている。

彼こそがこの国の王、ライゼルである。

「ほっほっ、これはこれは。まさに錚々たる顔ぶれですなミスタル殿。サナダも久しいのう、元気そうで何より」

「ええ、ライゼル様におかれましても息災で何よりです」

(おじさん敬語使えたんだ……)

コルは社交モードの親戚に違和感を覚えつつ、王を前に背筋を伸ばす。

「もしや彼が……?」

「ええ、ですがライゼル様。まずは順番に……」

「ああ、そうであった。どの御仁ですかな?」

「吾輩である」

バハメロが立ち上がり、ライゼルの前に立つ。

背丈の高めなバハメロが前に来ると彼の小柄さがより際立つ。

「話はある程度聞いておるよ、しかし機密に共有できる情報にも限りがある。まずは各々型の名前を聞かせてもらいましょうかの」

器の広いライゼルは物理的に見下されている事に対して何一つとして言及しない。

先代の死去により王位を継いだミスタルとレマンの若い王達にはない、ベテランの風格とでも言うべきか。

疑い深いパッケンは、後から来て場の流れを掴む巧妙さを直感的に悟る。

流れに乗ることで不利益は生じず最もスムーズに話を進められる為、主導権を気持ちよく渡してしまうのだ。

(あーあー、してやられてんなあ。わかってんのは女王サマくらいか? 今回の交渉は基本こっちが利益物量で優勢なはずなんだが、こりゃあ厄介な相手になりそうだぜ……)

円滑に、そして友好的に全員が名乗りを上げ終わる。

全ての自己紹介を聞いたライゼルは微笑みながら老眼鏡を身につけ、手元の資料に目を落とす。

「では、改めて確認をさせてもらいましょうかね。イーリス殿、今回の主題、我が国への要求は何でしたかな?」

「……では単刀直入に、先に要求だけを申し上げます。ライゼル・フォン・ノイミュ殿。此度は貴殿の国に、我が国の『亜人保護法』と同様の法を適用する事。及びレマン王国にも同様の要求をする際、署名による助力をしていただく約束……この2つを要求します」

「ほう、ほうほう……随分と大きく出ましたな。保護法についは聞き及んでおりますとも。古い風習との決別はわしとしても望むところ。しかしそう簡単に実行できるものでもない。まず前提として我が国の兵力はレマンは勿論、ミスタルにも劣るのです」

ノイミュは技術者の数は三国で最も多いが、兵士の数は極端に少ない。

魔術文明の盛んだった時代から地域によっては兵士ではなくゴーレムが警備を務める文化があったからだ。

ゴーレムには自我はなく、与えられた役割、それこそ簡単な警備と巡回程度ならこなせるが、残党を探して適切に処理する等の複雑な事はできない。

ともすれば、兵力を使って国境を張り亜人狩りの国外逃走を阻止したミスタルの様には行かず、『中途半端』になってしまうのだ。

しかしその懸念は、ノヤリスの尽力を知らないからこそのものである。

「そこで、吾輩達の出番である!」

「……ふむ」

「実を言うとミスタル国内の亜人狩りはほとんどノヤリスの構成員によって逃亡を阻止していたのである。それと同様に動けば、ミスタルの国力を他国に派兵する、というよりも融通が利く事であろう」

「加えて、ノイミュからミスタルに逃亡する者そういないでしょうが、こちら側の国境警備も強化する予定です。よってライゼル殿におかれましては、ミスタル兵とノヤリスの方々の手が及ばない地区のみを担当していただければと」

「……なるほどそうでしたか。では『可能である』という前提を踏まえて……こちらの都合を聞いていただきましょうかな」

ライゼルは相変わらず優しく微笑んでいる様に見える。

しかしライゼルは考えていた。

これまでの話のみならばイーリスとバハメロ、そして仲介人としてサナダがいればいい。

コルとラニ、そしてナノンがこの場にいる理由は何か。

(つまり、彼等が交渉材料になりうるものを持つのでしょう……パッケン・ブレッツ関しては十中八九『アレ』……!彼等の提示する何かしらにも興味があるが、最低でもアレだけは何としても引き出したいのう……)

イーリスがあえて手札を見せ、ライゼルが勝負に乗る形。

ここからが『始まり』なのだと、既に理解を超え、逆に自身有りげに座っているラニ以外の全員が思った。



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