静かなる鍵
数日後。
ミスタルの紋章のついた大型のものを含む馬車数台が、ノイミュ王城にたどり着く。
現状でこの件に関与できるのは、ノイミュの王に選ばれた一握りだけ。
人払いをしてまでの来訪。
何かしらの機密事項だろうと、国の中枢に近い彼らは見当をつけていた。
が、その見積もりは甘かった。
先頭に立つのはミスタルの女王イーリスと、その右腕の騎士団長。
それに続くのは大陸屈指の影響力を持つと言われる大企業、イプイプカンパニーの社長。
どちらか一方ならともかく、両者揃っての登場。
彼等は静かに雰囲気を悟り、それぞれの思考を巡らせた。
更に彼らはその衝撃から一瞬見逃しかけたものがある。
更に続く者達だ。
「……なあ、あれって……」
女王と社長に続く男女。
その中の1人は彼らのよく知る人物。
大陸全土に高額手配書が広がっている中でも、ミスタルでは有名な賞金首『嵐のパッケン』が、女王の後ろを堂々と歩いているのだ。
「あれって捕らえるべきですか……?」
「……いや、よそう。ああやって拘束も無しについている以上、何か我が国の王に考えがあるはずだ」
「ではその隣のも……?」
パッケンの周りには、コルとラニ、ナノン、そしてバハメロがいる。
彼らからしてみれば国王直々の許可があるとは言え、女王と騎士、社長とその秘書ときて、指名手配中の海賊、亜人の女が三人、そして見知らぬ一般人と続くこの光景は目を疑うしかない。
しかし彼らは知らない。
今回呼ばれた者達の中で『鍵』を握るものは、女王でも社長でも無く、1人の亜人だと言うことを。
「っ……っ……〜!」
王城に着いてからというもの、ナノンはどこか落ち着きがない。
無理もない、ノイミュは『時代を作る国』。
この国の王は技術者でもあり、機構時代を切り拓いた者の一人。
城にはまだ世に出回っていない様な機構が張り巡らされており、扉が自動で開閉したり、照明が移動して道案内をしてくれたり、他にも何に使うのかわからないものが取り付けられていたりと、ナノンの知的好奇心を満遍なく擽り続ける。
しかしナノンには今回、招かれた者としての自覚があった。
出先で下手な事をするわけには行かないという理性が彼女の精神をギリギリで抑え込んでいる。
「ナノン、大丈夫?」
「だいじょばないっす」
「俺も……後で王様に話聞けないかな……」
他人を気に掛ける余力があるだけコルはマシに見えるが、目線は歩く足以上に激しく動き続けている。
「うぅ……なあバハメロ、この二人ちょっと外しちゃ駄目か?こっちまでそわそわしてきたぞ」
ラニもまた二人を気遣うが、バハメロは首を横に振る。
「悪いがそれは無理である!この件に関してその二人は凄く、とても、かなり重要であるからな」
「だよなぁ、で?結局こんなとこに何しに来たんだ?無理言って私も護衛って形で付いてきたけど、そういやまだ詳しいこと聞いてないよな」
「うむ、言ってないな。まあ簡単に言えば過去一番の交渉……『大交渉』である!」




