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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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進み始めた感情

「け、喧嘩とかは別に……」

ナノンは咄嗟に反応したが、次の瞬間には失敗したなと思った。

その気になればもっとさりげなく誤魔化すこともできたのだが、何せ自分に後ろめたいことがある為そうもいかなかったのだ。

そこから無理やり誤魔化す権利もナノンにはあったのだが、自分としても理解できない感情がそこにはあり、第三者の見解を聞くことで解決のきっかけになるかもしれないと考え、話してみることにした。

「……おじさんは既に聞いてたみたいっすけど、今コル君の隣にはラニさんって人がいて……実はつい昨日、二人が仲良くしてるとこに遭遇したんす」

「ああ、よく聞いてるとも。数少ない手紙でもよく登場する人物さ。普段は仲良くないのかい?」

「いえそんな!凄く仲良しっす。ラニさんなんてコルくんと一緒にいる時はもうべったりで……いつも通り……なんすけど……『二人きりの雰囲気』っていうか、特別感?があったんす」


いざ口にしてみると、その時の事を思い出して顔が熱くなる。

「べ、別にそれの何がどうって訳じゃないんすけど!なんか、なんか……頭から離れなくて……あはは、すみませんっす、意味分かんないっすよね」

妙な汗を垂らしながら狼狽えるナノンに対し、サナダは頬杖をついて穏やかに笑っていた。

「ナノンちゃん、コルの事は好きかい?」

「そりゃあ好きっす!コルくんもラニさんも、仲間であり友達で――」

「はっは、そういう『同志』みたいな安心する感じじゃなくてだね。もっとドキドキ、或いはドロドロの……そういう気持ち、無い?」

「そんなの……」

ナノンは否定しきれなかった。

いつものように、『コルは友人である』と言葉にしようとしたにも関わらず、口がそれを拒んでいる様な感覚がある。

それが何故だかナノンにはわからない。

「……そんなの、あんまりじゃないすか。私はコルくん達の邪魔はしたくないっす……」

『何か』を理解し始めたナノンの声が、僅かに震える。

それに応じ、今度はサナダが慌てて動揺し始めた。

「うぇっ!?あっ、違っ、そういう感じに着地したいんじゃなくて……どちらにせよ『相手を大事に思ってる』事に違いはないんじゃないかっておじさん思うわけ」

「大事に……」

サナダは思い出したかのように懐からハンカチを取り出し、ナノンに差し出す。

「この歳で独身の俺にゃ荷が重い話だったな。でも動力が分かったなら進み方も見えてくる。それがオレたち技術者だろう?」

サナダが少し自信なさげに違うか……?と呟いた。

(この気持ちは、今はどこにも行かない……でも……)

ナノンはハンカチを握りしめる。

「今は一歩前進、ってことなんすかね」

「そんなところさ。踏み締めなさいな、若者」

「……っす!」


「さて、話が逸れたけど。コルの話はほとんど聞けたかな。では君が少しでも前向きになれるようにこちらをご覧くださ〜い」

サナダはやや冗談めかして、荷物からケースを取り出し、蓋を開ける。

「こ、これは……!イプイプ式動力起動装置……!こっちはイプイプ式魔力伝達系補強鉄骨……!」

「詳しいねえ」

「っす!実はこの前ポイントを使って最新のカタログを買って貰って眺めてて……ふひっ……!国の予算である程度部品も買って貰えるんすけど流石に個人的な趣味の為にってのは無理なので、眺めるだけで我慢してて〜ッ……」

「わが社の製品をそんなに求めてくれるとは嬉しいねえ、どれ、こいつもおまけしちゃおう」

サナダは上機嫌にもう一つケースを取り出した。

そちらには細かい歯車等の部品が綺麗に整えられ、ずらりと綺麗に並んで明かりを反射し輝いている。

「一度言ってみたかったんだ。こほん……『まいど、これが例のブツだ』」

それは本や活劇でよくある『一度言ってみたい小悪党のセリフ』でありながら、『一度言われてみたいセリフ』でもあった。

「うひひぃっ……!こ、こんなにもらっちゃっていいんすか?」

「ああ……欲しかった情報をちゃんとくれたからねぇ……その褒美ってことで。ノヤリス内での事を公に探るわけにもいかないし」

「じ、じゃあ、また別の話したら他にも報酬が貰えちゃったり……?」

ナノンは先程までの気分を一度奥にしまい込み、すっかり目の前のお宝に見惚れてしまっており、扉の外から僅かに聞こえる物音は気にもとめていなかった。

「勿論だとも。キミとの距離感ならオレの知らないあの子の事も知れる……それじゃあ今日は話ししてくれてありがとう。この事はコルには内緒に――」

次の瞬間、扉が勢いよく蹴破られ、バハメロとコルが突入してくる。

その時、ナノンとサナダは一瞬で自分達の行動を顧みて、疑われるに値する怪しさがあったと自覚した。

「コル君!?これはその、違っ……」

「そうだよぉコル、これは誤解なんだって」

その結果として、揃って言い訳じみた事を口にし、最後まで本の中の小悪党を演じてしまった、と思う二人であった。


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