ひそひそと怪しいもの
団員達は城内の一部で行動が許可されている。
その一部に関して、存在が隠されていた時は他の城の関係者の立ち入りが制限されていたが、ノヤリスが『協力者』として公にされ始めた今は団員以外にも衛兵から国の重役までが普段通りに行動している。
とは言え威厳ある城の作りに萎縮してか、基本的に団員達は用もなくここを通る様な事はない。
「やっぱりお城って凄いよなぁ……庶民だった頃は想像もしなかった。外見だけなら新聞や本の挿絵で描かれがちだけど、中身まで精密に書ける人なんていないからね」
コルは前を歩くバハメロに気持ち小声で話しかける。
バハメロは足こそ止めないが、それを聞いてクスリと笑った。
(……まあ、『気持ちよく』って感じではないけど)
先程から、常にすれ違う誰かが二人を見てヒソヒソと話している。
その視線はどれもバハメロに注がれているが、誰一人として直接突っかかっては来ない。
(流石に国王のお膝下で石をなげたりする奴はいないか……いや、そもそも石とか落ちてないか。なんなら埃一つ落ちてない)
とは言え、逆にはっきりとしないままこそこそと陰口が並んでいるのもそれはそれで不快ではある。
それが表情に出ていたのか、バハメロはコルの眉間を軽く小突いた。
「コル、もっと堂々とするのである。吾輩達は侵入した賊では無く、女王に正式に許可されてここを通っているのだ」
「……うす」
「しかしナノンのやつめ、一体どこに行ったのだ?」
「……っ!もしかして……いや、それは大丈夫か……」
コルは一瞬最悪の想像をしたが、すぐに冷静になり非現実的だと片付けた。
しかし途中まで口から勢いよくこぼれたせいで、バハメロの気を引いてしまっていた。
これでは説明の義務が生まれてしまう。
「言って見よ」
「……悪い想像をしただけだよ。その、良く思ってない人に連れて行かれたってね。でもこれまでの感じから、この国の人はみんな女王様への忠誠心が高いのは分かってる。城内で揉め事を起こすことも無いだろう」
「うむ、その点は案ずるな。万が一そういう事がないように『対策済み』である。機密事項であるがな。それに、ナノンの方も揉め事を起こすタイプではあるまい」
「ははは、それもそうか。工房を爆発させるくらい?」
「そうであった!工房が時折爆発するくらいであったな!よもや城内で発明でもせぬ限りそんなことにはなるまい」
「じゃあ城内のナノンは普通のいい子だ!」
「「ハッハッハッ……」」
(……大丈夫だよね?)
別の意味での最悪の状況が脳裏をよぎり、僅かに冷や汗が垂れる。
恐らくこの廊下から先には使われていない部屋等があるだろう、いつの間にか人気が少なくなっており、道の先にいる何者かの声が聞こえてくる。
『コ……だ……』
「……コル」
バハメロのハンドサインに対し、黙って頷く。
くぐもった声だが、人気の少ない場所。
人探しの途中ではあるが、見過ごすわけにもいかなそうな雰囲気がその場にあった。
二人は息をひそめ、扉越しに聞き耳を立てた。
『まいど……これが約束のブツだ』
『うひひぃっ……!こ、こんなにもらっちゃっていいんすか?』
『ああ……欲しかった情報をちゃんとくれたからねぇ……その褒美ってことで。ノヤリス内での事を公に探るわけにもいかないし』
「……!」
『じ、じゃあ、また別の話したら他にも報酬が貰えちゃったり……?』
『勿論だとも。キミとの距離感ならオレの知らないあの子の事も知れる……』
「団長、これって……」
「うむ……吾輩の合図で開ける。お前は銃を向け威嚇、ひとまず撃つな。逃げようとしたら吾輩が取り押さえる。ゆくぞ……」
バハメロが3本指を一つずつ折り、ゼロになると同時に扉を勢いよく開け、突撃する。
『それじゃあ今日は話ししてくれてありがとう。この事はコルには内緒に――いいっ!?」
鍵は掛かっておらず、椅子の2つある明るい部屋には二人の男女がいた。
「動くな!怪しい奴め……何をこそこそ……と……?」
コルは構えた銃を下ろし、唖然とする。
「コル君!?これはその、違っ……」
「そうだよぉコル、これは誤解なんだって」
入って速撃つように指示されていなくて助かった、そう心から思った。
何故なら、部屋の中にいたのは友人と親戚だったからである。
「ナノンと……お、叔父さん……!?」
「久しぶり……あはは……」




