二度寝の夜
雨粒が窓を叩く音で目が覚める。
辺りは暗く、カーテンの隙間から僅かに差し込む月明かりだけを頼りに状況を確認する。
コルは自分が医務室のベッドに寝かされていた事に気がついた。
(そうか、確かシーモに……そうだ!)
意識を失う直前の出来事を思い出す。
現在の状況を正確に把握できずとも、なにはともあれこのまま寝ては居られないと、暗闇の中で慌てて体を起こす。
コルが足をベッドの外に出したところで、何かを蹴飛ばした様な感覚がし、それと同時に足元から声が聞こえた。
「……起きたか、ネボスケめ。中々起きないから流石に心配したぞ」
「ラニ!?よかった……じゃなくて、ごめん気づかなくて……!」
「いい、それより体調はどうだ?」
薄暗いとは言え、本心から心配そうな表情がほんのり見える。
恐らく目が覚めるのを待ってくれていたのだろうと思うと、ラニにとって大したダメージではないと分かりつつも寝起きに一発蹴りを入れてしまった事が申し訳なくなる。
体を起こしたり、腕を軽く回したりしてみるが、これと言って問題があるようには感じなかった。
「大丈夫そう。そうだ、ナノンは?」
「もうとっくに起きてリラーテ達と一緒に今回の件とシーモの事を報告に行ってる。ちなみに、ボスはリラーテ達がシバいたってよ。コルも私も、今やる事は無いらしいから、寝ていいぞ」
安心、とも言えない微妙な感覚を受け、そのまま倒れ込む様に横になる。
「……ラニ、俺達以外のチームがどうなったかって聞いた?」
「どこも文句無しの成果、ってロナザメトが言ってたから、上手く行ったんだろ」
「っふぃ〜……よかった……組織としてはこれで一歩前進だな」
「ああ、これで少なくともミスタルは亜人が最低限無事に暮らせる場所になったはずだ」
細かい部分で言えば、大小問わず問題は他にも山積みだった。
とは言え、今できる最善を尽くし、少なからず良い方向に進んだという自覚が二人にはあった。
「イーリス達がこっからどうすんのか知らねえけど少しは休めるだろ。つーわけだからコル、明日は二人でゆっくりだな……?」
コルとしてはシーモの事が気が気でないのだが、ラニが慣れない素振りでぎこちない誘い方をしてくる時は、大体の場合気分転換を推奨している時なのだと理解していた。
普段であれば恋人からの気遣いを断る理由もない。
しかし、コルの記憶の片隅には、この後コルがやるべき事がはっきりと示されていた。
おそらくだが、1日ゆっくり過ごす暇は無いと思った方がいいだろう。
「……その顔、なんかあるか?」
「う、実は次にやる事を伝えられてて……明日からすぐに、かは分からないけど」
「そうか……」
ラニは見るからに落ち込んでいる。
コルとしても、それは本意ではない。
「あ……あー……じゃあさ、今日は一緒に寝る?少なくとも今夜はまだ忙しくない訳だし」
「!」
先程までの表情が嘘のように明るくなる。
ラニは有無を言わさぬ速さでベッドに潜り込み、まるで最初から自分が迎える側だったかの様にシーツを持ち上げ待機した。
「よし来い!ほら!」
恋人関係にあるとは言え、こうも堂々とされると一抹の恥ずかしさも消えるというもの。
招かれるままにシーツに入り、横並びになる。
その後、少しばかりじゃれ合ったり、寝物語がてら少し昔の話をしたりしている間に、二人は自然と眠りについた。




