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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
171/185

度胸 愛嬌 熱狂

まさに『圧倒』という他ない。

ベーズがアリッサの手を取った瞬間から、戦況は一気に好転した。

苛烈に、そして情熱的な舞と共に繰り広げられる体術の数々がベンを襲う。

「ぬっ……ううう、ぁぁぁッ!」

勿論ベンもされるがままではなく、反撃をしようと試みてはいる。

しかしその拳がベース達に当たる事はない。

「ノンッ!パッションが足りないッ!」

これに関して、ベンが片足を負傷している事は、もはや関係は無く、例え健常であってもここまでボルテージの上がったベーズを止めることは誰であれ困難なのだ。

「あんたまたパートナーの扱いうまくなったね。他の女で練習したの?」

「やぁねアリッサちゃん、そんなナンパ者みたいに言わないで!アナタとこうしてまた踊れる日の為に、男女問わず練習したのよ」

「はいはい。なんにせようまくなったとは言え、あんたとこれやると体じゃなくて気がドットと疲れるんだよ」

「みんなそう言うのよねぇ……寂しいけど、そろそろフィナーレと行きましょう!」


ベースの戦闘技術、その究極奥義。

これまでの踊りを一つのルーティーンとし、その上でこれを理解したパートナーの補助があってようやく繰り出される必殺の一撃。

息の合った跳躍、まるで重力を忘れたかのように、まさに宙を舞うその姿を前に、ベンはこれから攻撃を受けると言う意識すら忘れてしまうほどだった。

(嗚呼、アリッサちゃん……ワタシ、今飛んでるッ……!)

それすらも作品の一部と言えるほどうっとりとしたその目は、突如として狩人の眼となり鋭く光る。

「いざ、全身全霊を賭けて!『キラメキ!そしてスターライッ!!!溢れんばかりのパッションにビューティーガールを添えて』〜ッッ!!!」

要は、高所から回転しながら勢いをつけた踵落としである。

本人がどの程度理解しているか定かではないが、冗談のような名前とは裏腹にパートナーの安全確保という縛りの様な行為、一種の儀式じみた条件、それら繰り出されるその体術は、ある意味で大魔術に近しい技術となる。

その結果としてこの技は、人の武術の成せる範囲を僅かに超えている。

大地に亀裂が走り、傍にあったベンの店が音を立てて崩れ行く。

地鳴りと強風の音が響き、土煙が巻き上がる。

クレーターの中心には、体の半分が地面に埋まったベンを背後に、フィナーレを迎えた二人が『美しく』立っていた。


パッケンは目を疑っていた。

これだけの事が起きているのだから、無理もない。

「……言葉もでてこねえ」

しかし、この時パッケンの脳裏によぎったのは、他の団員の存在であった。

(あの兄ちゃん姉ちゃんは古参ではあるが、戦闘力で言うならバハメロ達のが上って言うじゃねえか。亜人が環境で弱りやすいって話を聞いたが、それにしたってそこらの亜人とは違いすぎる。妙に引っかかるぜ……だが……)

「……だがよぉ、味方にすりゃあ心強いぜ。アイツらなら魔人界のクソ共だって――」

僅か1秒、パッケンは何かを感じ、カトラスを握って振り向いた。

それとほぼ同時に、リラーテ、ゴニー、そして残ったクルー達が地面に崩れ落ちる瞬間が視界に収まる。

その先には、目隠しをした男が1人、ぽつんと立っていた。


「おっと……余計な邪魔をされたくなかったのだけどね……」

「ッ……!」

パッケンは挨拶も無しに斬りかかろうとする。

「待ちなさい!」

地面から引っこ抜いたベンを引きずりながらようやくやってきたベースとアリッサがそれを静止する。

しかし一歩遅かった。

シーモの指先がパッケンに触れると同時に、彼もリラーテ達と同様、地面に倒れ込んでしまう。

「ッ……シーモ、あんた今までどこに……!」

「う……ああ……少し待っておくれ、目の使いすぎで頭が痛いんだ」

ベースは冷静に倒れている彼女達を見る。

(死んでない……魔術かしら……)

「シーモ、帰るよ。みんな――」

「ああ駄目駄目、その話はもうさっきコルくん達としたんだ。ワタシはまだ帰らない、ってね。彼らはまだ地下で寝てるから、お迎えに言ってあげ給え。それを教える為にきたのだよ」

そう言ってシーモは印をつけた1枚の地図を渡してきた。

「は?あんた何いってんの?」

「アリッサちゃん、コルちゃん達をお願い」

「ベーズあんたまで……」

アリッサは怪訝そうにベースを見る。

彼の視線は真っ直ぐにシーモを見つめており、視線が一切揺らがない事から、文句を受け付けていないとわかる。

「はぁ、わかった」

アリッサは拠点の瓦礫の中から地下への通路を見つけ出し、地図を頼りにコル達のもとへと進む。



「おや、いいのかい?キミはさっき『フィナーレ』を迎えた。次のダンスまでクールタイムがあるだろう?」

「ええ、ワタシはアナタと戦うつもりはないから。何か戻れない理由、やることがあるのでしょう?」

話している間、シーモは苦しそうに頭を押さえている。

「随分無理してるみたい。いい男が台無し」

「フフ……っ……今日は少し張り切ってしまってね。詳しくは彼らに聞くといい。それじゃあ、これで失礼するよ」

シーモは頭を抱えてふらふらと歩き出す。

「シーモちゃん。アナタが何をしようとしているのか言わないのなら、私は味方にも敵にもなれない。でも覚えておいて、『我々』はシーモちゃんの味方でありたいと言う事を」

「……勿論、ワタシもそうさ」

そうぽつりと言い残した彼は、瞬きと共に姿を消した

新章の準備と体調不良のコンボにより来週の更新は休みです

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