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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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とある亜人の回想『色』

「――と、いうわけで、空を飛ぶ船を作るっす」

数年前のある日、ナノンがあまりにもあっさりと言い放ったことを彼女は今でもずっと覚えている。

団員番号9番、白い悪魔系亜人の女、アリッサ。

創設メンバー8人を除く団員の中で最も古参の団員である。


「……冗談?」

「いやいやマジのやつっす!団長直々の!」

団員の数も30人を超えた頃、遙か先を見越して企画が始まった、『移動拠点計画』。

諸々の事情から内密に進める事となっているその一大プロジェクトに、アリッサは巻き込まれていたのだ。

「そりゃそんな物があったら色々助かるさ、でもナノンはともかく、なんであたいまで?こう言っちゃなんだけど、そんな大事な話に加われるような女じゃないよ。今だって……んん……」

「また何か無くしたんすか?」

今でも変わらないことだが、アリッサはよく落とし物をする。

当然のことながらわざとではない。

ただ何故か彼女の持ち物が少しづつ彼女の元を離れていくだけなのだ。

「お気に入りの上着がちょっとね……」

「どうやったら上着落とすんすか!?」

「あたいにもわかんないんだよなぁコレが……ほら、あたいこういううっかりしてるとこあるからさ。まあもう極秘任務として聞いちゃったしやれることはやるけどね」

アリッサは一言、上着を探してくると言って工房を出た。



ため息が溢れる。

お気に入りの上着が見つからないから、だけではない。

(空飛ぶ船……あたいにゃまるで想像もつかないね)

これまで鋼花の工房でナノンの発明を見てきた彼女は、ナノンならば時間さえあれば廃材をかき集めて空を飛ぶだろうと確信していた。

年下の天才を前に僅かな劣等感を感じてしまう。

ナノンが巨大な発明を見上げている時、アリッサは落としたものを探して足元を見ているのだ。 

「……はぁ、やめやめ。子供相手にみっともない……それより今は上着――んぶっ……!」

足元ばかり見ていたアリッサは曲がり角で人にぶつかってしまい、そのまま後ろに倒れそうになる。

しかしその後頭部が地面に打ち付けられるよりも早く、相手がアリッサを抱き寄せるように受け止めた。

(っ……!これって……!前にカロロから教えてもらったやつ……?運命の――)

淡い期待をし、ドキドキしながら目をゆっくり開く。

「んもう、危ないコ♡」

そこにいたのが珍妙な格好をした派手メイクの男でなければ、恋物語の一つでも始まっていたのかもしれない。

これがアリッサとベーズの出会いであった。



「……その、怒ってる?」

「ふん!怒ってないわよ!アタシのプリチーフェイスをみて「うおっ……」って反応されたくらいで!全然よ!」

「あー、ほんと悪かったって。ぶつかったうえに助けられたのにあれは失礼だった自覚あるから……」

誠意が伝わったらしく、ベーズは矛を収める。

「ところであんた、前回の襲撃作戦の時来た人だよね」

「あーらやだ、アタシったらまだ名乗ってなかった!はじめましてお嬢さん、ワタシはベーズ。見ての通り、幸せの青い鳥の亜人」

「たいはアリッサ。見ての通り悪魔系」

ベーズはアリッサの角を少し見てから続ける。

「悪魔ってもっと黒いイメージがあったわ。アリッサちゃんはお肌も髪も白くて素敵ね〜!でもススがついてちゃキレイな角も台無しよ」

ポケットから取り出したやけに花の匂いがするハンカチで、アリッサの角についた汚れを拭き取る。

アリッサはほんのり花の匂いが頭からするのが少し気になったが、嫌いな匂いではないのでそのままにしておいた。


「ありがと、でもあたいはそういう仕事だからね。拭いてもらって悪いけどまたすぐ汚すよきっと。気に入ってる服もすぐに汚れて……」

そこまで言って、アリッサは自分の目的を思い出した。

「そうだった、ベーズとか言ったね。あんたどっかで白い上着見なかった?あんま綺麗じゃないやつ。探してるんだけど」

「んー……アレのことかしら」

「見たの!?どこ!?」

「えーっと、この拠点来たばっかりだからどこっていうのが難しいわねぇ……案内するわ、ついてらっしゃ〜い!」



ベーズのあとに続き、拠点横にある作りたての畑近くにたどり着く。

上着は木の上の枝にかけられていた。

「そうだ!畑を作る時に脱いだんだった!あ〜見つかって良かった……」

「お力になれたなら良かった」

「ありがとう、助かったよ。あたいすぐ落とし物するんだ。こういう大事なものを落とすのは珍しいんだけどね……」

「少し汚れてるわね、一度洗ったほうがいいんじゃない?」

「これでも時々洗ってるんだよ、それに……」

アリッサは上着に腕を通す。

全体的に白い彼女が、黒い汚れのついた上着を着ることで、それ自体がどこか様になっているような、最初から一つのファッションであったかのような印象を与える。

「……あなた、素敵だわ」

「ふふっ、何目線?」

角からほんのり香る花の匂いが気になって、嫌でも視線が上を向く。

照りつける太陽に視界を遮られながらも、そこには青い空が広がっていた。

「あたいとしたことが、ちょっと落ち込んでたみたい」

「?」

「ベーズ、あんた鳥の亜人だろう?空を飛びたいって思ったことはあるかい?」

「そうねぇ、青空を舞うワタシはさぞ美しいのでは?と思ったことならあるわ!……何よその目」

「別に、それよりあんたまだ所属決まってないでしょ、ウチに来なよ。今回のお礼ってことで、あたいが面倒見てやるからさ」


それから二人はあらゆる現場を共に駆け回った。

その日から、アリッサの落とした物がそのまま行方不明になる事は無くなったという。


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