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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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アリッサの作戦

リラーテの意思に関わらず、加速的に激しさを増していくベンのラッシュは確実に鎧にダメージを与えていく。

その分、彼女の体にまで届くダメージは本来の半分程に抑えられているのだが、それでも限界は近い。

ベンがラッシュを止め、右の拳を思い切り振りかぶる。

これから繰り出されるであろう拳骨は、無抵抗に受けて生存できるものではない。

「グチャグチャにッ!してやりますヨ〜ッッ!!☆」

「……」

だからこそ、リラーテは確信した。

彼女達が来るならここだ、と。



「この隙を待ってたんだぜ……!」

パッケンが虚空から姿を現す。

前回と同じ背後からの奇襲、しかし今度はより高く、より鋭い刺突がベンを襲う。

(……!馬鹿の一つ覚え――いや、前より速い!でも……結局避けられない速さには届いてないネ!)

ベンの頭は冴えていた。

記憶を辿るまでもなく、先程の奇襲で攻撃を躱されたパッケンには大きな隙があったのを彼は覚えていた。

「ッ……クソッ!」

ベンの思惑通り、地面に向かって飛び込むパッケン。

より鋭さを増した分、勢いも増しており、ここから態勢を立て直すのにはどんな人間でも2秒はかかる。

今日ここまでパンチファイターとして戦い続けたベンの脳はこの時、初めて『蹴り』の判断を下した。

自ら足元に近づいてくる相手を蹴り上げるだけで戦況が有利になるのだから、本来その判断は間違えていない。

しかし前提として、相手が無防備に転がり落ちてくるならば、である。

「なーんて……なッ!」

ほんの一瞬の曲芸であった。

腕の力か、足の力か、その場の誰も理解できない技。

人体の構造と物理法則を嘲笑うかのような身のこなし。

パッケンはほんの瞬き程度の時間で、態勢を立て直したのだ。

これはベン相手にまだ見せていないパッケンの特性である、驚異的なバランス感覚が織りなす技術。

どんな足場、どんな体勢からでも重心をフラットな状態に戻せる彼の特技だ。

(ノヤリスの連中がこれに気づいてたのにゃビビったぜ……けどよ……)

超低姿勢からの切り返し。

身長が異常に高いベンにとっては、弱点とも言える足狙いの斬撃が接近する。

「相手にバレてねえならいいんだぜぇ!」


ベンは避けること自体は不可能だと早々に判断し、この瞬間『被害を抑える術』を考えていた。

その答えが弾き出される直前、ベンの視界にあるものが写る。

(……っ!?なんだアレは!?)

その瞬間に全ての思考は真っ白に吹き飛んだ。

先程まで自分がタコ殴りにしていたはずの甲冑の騎士はそこに居らず、ただ全ての防具を脱ぎ捨てた軽装の女戦士が、巨大な大砲のような物をこちらに向けていたからだ。

これこそ、『捨てて得るもの』の完全攻撃特化形態。

またの名を、『穿つためにあるもの』。

(何か纏っている!魔力?大砲?発射する?威力は?……違うブラフだ!なぜなら射線上に仲間が……っ、それも違う!彼等は一枚岩では――)

「ナイスだぜ、騎士団長サマ」

結論から言って、『穿つためにあるもの』はブラフである。

それも作戦を知らされていないリラーテが、騎士として長年培ってきた戦場の勘を頼りにした、自らの身を危険にさらすアドリブ。

それをブラフだと断定する事が出来ず、持ち味である思考を鈍らせたベンは、パッケンのカトラスによって右足を切り抜かれバランスを崩してしまう。


そしてトドメの一撃、足が鈍り回避ができなくなったところに、虚空からベーズの貫手が飛び出す。

(負ける?このスマイリー・ベンが?こんな惨めに?そんなの……そんな事ぉ……ッ)

足を切られ、迫る貫手を満足に避けることもできない、生涯最大級のピンチ。

だがそんなピンチが、ベンを冴え渡らせた。

「断じて認めないィィィィッ!!!フンッッッ☆☆☆」

「っ!?」

ベンは自らの右足、膝から下を、自らの脚力で押しつぶした。

結果その分体が右によろけ、倒れ込む様な形にはなるが、ベーズが半身をかすめていくのを見る事が出来た。

(回避成功ッ☆ここで生き残れれば片足でもなんとかヤれるッッ☆まずはこの勢いで体を捻りッ!拳を振り抜けば!この男とその先のもう1人は殺せるッ!……もう……1人……?)



「当たらないとは思ってたけどそんなやり方をするなんて、馬鹿なヒト。でもその根性……嫌いじゃないわ!!」

ベーズの貫手は既に解かれていた。

突き出したその手は優しく、その先のアリッサに差し伸べられている。

「ったくもう……一曲だけだからね」

そう言いながらアリッサは手を取った。

その瞬間、ベーズがふわりと舞う様に身を翻し、アリッサと共にベンの振り抜く拳を飛び越える。

「ああ素敵っ……いいや、無敵ね。やっぱりアリッサちゃんが一番しっくりくるわっ……」

「いいから前見な、あんな足でもきっと強いよ」

ベンには知り得ない事だが、ベーズの戦闘スタイルは、踊るように敵を葬る『武術の舞』。

基本的にはベーズのテンションが上がるほど強く、激しくなり、ペアで踊れば更に技も力も増す。

そしてこれはノヤリスの中でもあまり知られていない事だが、滅多に踊ってくれない一番相性のいいペアと踊れば、最高のモチベーションで戦う事ができるのだ。

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