三対一
急な再会に言葉が詰まる。
ある日を境に突如失踪した仲間が、何の前触れもなく現れたのだから無理もない。
だが等の相手はそんな事気にもならないといった様子で、コル達に語りかけてきた。
「フフ、久しぶりだねぇ……元気にしてるかい?いや、聞くまでもないね。元気じゃないなら天井を破って落ちてきたりしない」
無駄な言い回しも、無駄な動きも、間違いなくかつてのシーモだった。
しかし銀色の髪は乱れ、声色には覇気が無く、『彼らしさ』がどこか欠けている印象がある。
(本当にシーモなのか?前までのアイツは『笑ってるけど嘘っぽい』って感じだったけど……今のアイツは、『笑ってるけど絶対嘘』って感じがする……)
「いやぁ、キミ達が変わらず元気で仲良しなのは素直に嬉しいね。色々乗り越えてより親密になれたんじゃあないかな?……なあ?」
コルはこの時、仲間意識と警戒心が同時に存在する奇妙な感情を覚えた。
そしてそれはラニも同じで、望んだ再会であるにも関わらず直感が彼に近づくことを拒んでいる。
彼の真意が読めないからだ。
ただ一人、二人よりも付き合いの長いナノンだけは彼に歩み寄る。
「シーモさん……なんすよね?色々聞きたいことはあるっすけど、とりあえず帰りましょう。皆シーモさんを探してるんすよ」
「ああ、すっごいこっそり探されてるね。知ってるとも。ワタシの情報網はそりゃあもうスゴイからねぇ。まあキミ達が今日ここに来るのは知らなかったけど。いつもの表で暴れてるうちに裏から作戦、かな?」
変わらずヘラヘラと受け答えをするも、いまいち噛み合わないように感じる。
そしてシーモは、ナノン達に同行する動きを見せる気配がない。
「……シーモさん」
「フフ、そう不安そうな顔をしないでくれたまえ。ワタシはキミ達の味方だとも」
「シーモさん!」
「ただ先に、『やるべき事』がある」
シーモは一方的に会話を終わらせる様に目隠しを外す。
コルとラニどころか、ナノンすら初めて見る目隠しの下。
大きな、黒く淀んだ単眼。
彼等は知り得ない事だが、彼の目の色は本来黒ではない。
「自慢させておくれ。最近手に入れた『魔眼』さ」
彼の瞳にくっきりと焼き付いた白い魔術陣が魔力を帯びる。
その瞬間、ナノンとシーモの間にある床が、一瞬のうちに空間ごと切り裂かれた。
そこには白い裂け目のみが残される。
「気をつけたまえ、触れてもいいけど落ちると戻れないよ」
3人は道中にあった謎の正体がシーモであることの衝撃よりも、意図的、それも攻撃的に線を引かれた事に対する疑心が上回る。
「ああ、一つ質問をさせてほしい。一応ね。キミ達、『命無き命』を知っているかい?」
「命無き……命……?」
まるで聞き覚えのない単語に、首を傾げる。
その様子をみたシーモは歓喜することも落胆することも無く、ただ首をすくめて背を向けた。
「シーモさん!」
「っ……!待て!シーモ!今ノヤリスはミスタルと協力関係にある!お前が何しようとしてるのか全く分からないけど、一人でやるよりいいかもしれない!だから……」
コルが呼びかけても、シーモは振り返らず、再び姿をくらまそうとする。
「二人が待てっつってんだろ」
それを許すラニではなかった。
空間の裂け目はそれなりの大きさがあったが、ラニなら軽く飛び越えられる程度のものだ。
「おっと……」
そのまま襲い来るラニの蹴りは、さすがのシーモも反応を強いられる。
いつもなら間髪入れずに追撃を狙うところだが、相手が未知の能力を持つことや、シーモであることを加味し、一度様子を見る。
「危ないなぁ。話を聞いていなかったのかい?落ちたら危ない、だよ?わかる?」
「うるせぇ!お前があんなん出してどっか行こうとすんのが悪い!」
「やれやれ……それで?ワタシを捕まえて連れ帰ろうってかい?」
「そうだ!わかってんなら大人しくしとけよ」
「はぁ……できるとでも?」
悪寒がラニの背筋を走る。
殺気とは違うが、シーモは明らかに敵対心を露わにしている。
初めて向けられるシーモのそれは、冗談では済まないと一瞬で理解できる程の圧を感じさせた。
「キミの強さは知っているけど、実は一対一ならワタシも自信があるんだ」
「一対一……?ハッ、バカ言え」
「……っ」
対岸、裂け目の向こう側からの狙撃。
精密射撃を得意とするナノンロイド5号。
未だ討論が続き、名前の定まらないコルの新装備の形態変化の一つ、ナノンロイド5号を小型化したような狙撃銃形態。
その2つの銃口が、シーモに向けられている。
「三対一だ」
「シーモさん……こうなったら、もうふん縛ってでも連れて帰るっすよ……!」
「……ふぅ……どうしたものかねぇ……」




