異獣の作り方
カロロはヨンヨンと共に、道に散らばる亜人狩りを頼りにしながらデールを追いかけた。
通路が一本道になった辺りでちょうど、気を失った亜人狩りが見られなくなったが、代わりに力任せに破壊されたと思われる鉄の扉がデールの行き先を主張していた。
「あ……やっと追いつきました……」
「……」
ようやく見えた背中は、青白い光の漏れ出す部屋を前に立ち尽くしていた。
「……?」
不思議に思い、二人も部屋の中を覗き込む。
「なんだいこりゃぁ……」
青白い光の正体は部屋のあらゆる場所に、無数に並び立つ柱が発光していたのだった。
そしてその柱の中には正常とは程遠い、異形の動物達が眠っている。
普通であれば思考を放棄しそうになる程壮大な光景、三人は同時にそれを飲み込み、理解した。
「異獣を……作っている……?」
「はー、この辺りの異獣がここで産まれたなら、彼らが襲われないのも納得だねぇ」
「し、しかし……!魔術の長い歴史においても、人工的に生物を産み出す事はホムンクルスや使い魔で精々のはず……自我や本能を持った生命をゼロから生み出すなんて……古式魔術でも聞いたことが……」
混乱混じりにブツブツと呟きながら柱を見上げるカロロ。
そんな彼女を見かねたのか、多少落ち着いたデールが口を挟む。
「どうでもいいけどよぉ、そんな気になるんなら持ち主に聞いてみりゃいいんじゃねえの」
「持ち主……ここのボス、ですか?」
「ああ……おい!聞こえてるよなぁ!?」
「ひぃっ……」
小さく聞こえた悲鳴はカロロのものだった。
しかしそれはそうと、遠くの柱から人影が一つ現れる。
前の柱の薄明かりのせいで、顔はよく見えないが、声色は中年男性のように聞こえる。
「見つかってしまっては仕方がない……貴様らが侵入者か?」
「ぁ……あっ……その……」
「……リーダー、ここはビシッと言ってあげなよ」
「ぅ……は、はい……!そう、そうです!私が侵入者です!」
「何用だ?」
「えっと……ボク達は亜人解放の法を……その……」
「ああ、その件か」
「わかってるなら大人しく投降したほうがいいよー。ここはもう包囲されてる。もう気づいてると思うけど外の龍を頼りにするのも諦めてねえ」
ヨンヨンは降伏を提案しつつも、壊れた扉の下に落ちていた床の欠片を投げやすいように後ろで握っていた。
敵の次の行動次第ではすぐさま投げつけ制圧するためだ。
「……貴様らはこのラボを見てどう思った」
「あ?」
「ここの維持にかかる費用は亜人狩りで稼いだのだ。私は幼い頃、異獣に殺されかけてな。その時から異獣の持つ力に興味が尽きない。しかし異獣はその時、既に減少傾向にあった。だから私は長い年月を賭け、異獣を産み出す技術を身に着けた。知っているか?異獣とは大気中の魔力が――」
「ああ待て待て!話が長えよ!」
(あ……ちょっと……というかかなり気になったけど……)
カロロは自分を律し、勇気を持って与えられた役割を遂行することにした。
「さ、さあ、選んでください!大人しく降参するか、ボク達に取り押さえられるか!」
「……答えはNOだ」
三人の後方にあった柱が、煙と音を立てて突如開かれる。
「しまっ……時間稼ぎかぁ!?」
「行っておいで、侵入者を殺せば褒美をやろう。……もっとも、動物である以上この言葉も理解できぬのだろうがな……」
柱からは猿の様な異獣が3匹飛び出してきた。
一見するとただの赤い猿だが、一匹は手が、一匹は尻尾が、そして一匹は顎が異常に発達している。
(反応が遅れちゃった……!)
ヨンヨンが隠し持っていた欠片を猿に向かって投げる。
やや不完全なフォームで慌てて投げたとはいえ、至近距離でヨンヨンの投石を避ける事は本来まず不可能のはずなのだが、顎の発達した猿は余裕の表情を見せ、あえて正面から攻撃を受けた。
具体的には歯で受け止め、そのまま噛み砕いたのだ。
「ハハッ!余裕かましてんな!俺とも遊べよ猿野郎!」
デールとカロロも戦闘に加わる中、亜人狩りのボスはゆっくりと階段を登り、薄暗い上から三人を見下ろしていた。
「亜人など……もはやどうでも良いのだ。どうせこれ以上は資金が足りない。計画の最終段階、この異獣生成技術『キメラ』をレマンに売り込む。どこの馬の骨か知らないが。実践データを取らせて貰うとしよう」
彼の名はコンドル・ドイル。
亜人狩り組織『ライフラ』の長にして、隠れた天才。
異獣の魅力に取り憑かれた彼にとって、亜人狩りは手段の一つでしかない。




