我々の敵
作戦は驚くほどにうまく行った。
元々一枚岩でない亜人狩りは、他の亜人狩りが奇襲を受けて国外に出ることに失敗したと知る事も無く、次々に身柄を抑えられた。
確認された中で、ノヤリスの襲撃を受けた亜人狩り組織は計21組。
報奨金目当てに保護区を訪れた疑わしい人物を合わせれば、大小合わせて50を超える数の亜人狩り組織から亜人が解放されたと考えられている。
保護した亜人の名簿が山積みになり、その数が3桁を超える頃には、保護法の適応が2日後に迫っていた。
その日の昼下がり。
コルは城内の離れにある建物の一室に呼び出され、ラニとともに向かっていた。
人払いがされているとは言え、荘厳な作りの廊下はコルの背筋を正し、歩き方をどこかぎこちなくさせる。
予定より数分早くたどり着いたにも関わらず、呼び出した張本人であるイーリスは既に椅子に座って待っていた。
「お待たせしてしまい申し訳ない」
「いいえ、急な呼び出しに応じていただいたのです。むしろ感謝を」
コルは簡単な挨拶を済ませると、部屋の隅にパッケンがいる事に気がついた。
後ろでリラーテが目を光らせているとはいえ、自然体なままの辺り、イーリスにパッケンを引き渡した後の『話し合い』による関係の構築は良好だったのだろう。
その事について疑問を投げかけるより先に、パッケンが口を開く。
「よく来たな、ご両人。まあコルしか呼んでねえけどな」
「ああ、呼ばれてない。だが今日は私が先約だったからな。安心しろ、邪魔はしないしどうしても聞かれたくないなら外で待ってる」
「構いませんよ。むしろ急な呼び出しに応じていただき、感謝します」
「……それで、一体なんの要ですか?わざわざこんな場所を選んだ理由は想像つきましたが」
コルはパッケンに目線を向けながら改まってイーリスに問いかける。
「もう少しだけお待ち下さいますか。もう二名お呼びしておりますので」
イーリスがそう言うと、間髪入れずに部屋の扉が開かれ、鼠の亜人が二人現れた。
「そのうちの一人が私っす!」
「ミクノはちがうー」
「ナノン、それにミクノちゃんも」
「おいおい、今日は一人相方を連れてくる決まりでもあったのか?」
「あー、申し訳ないっす。今日はミクノちゃんと遊ぶ約束をしてて……って、誰すか?あの髭のおじさん」
その後、大胆にも5分遅れてやってきたバハメロを含めて、ようやく本題に移る。
ラニとナノンが外で遊んで時間を潰してくる事になった現在の風景は一見、これまでに何度も見た作戦会議のようだが、どうにもこれまでにいなかった髭の長い男が浮いて見える。
「ふむ」
誰よりも遅く到着したバハメロだったが、状況を把握し、今回がどういった集まりなのかを理解するのは一番早かった。
その上でバハメロはあえて本題より先に、パッケンの前に手を差し出した。
「話は聞いたのである。吾輩はバハメロ・フラオリム。コルが世話になったそうだな。長として礼を言わせて貰う」
「ヒュー、コイツぁイカした嬢ちゃんだぜ。受け取れるもんは病気でも受け取るぜ」
「……さて、イーリス。『あの件』か?」
「はい。今回は2つの件で皆さんをお呼びしました。まずは先の作戦に置ける功績に感謝を」
「ああ、大成功と言って差し支え無いであろうな。あれだけ多くの亜人を解放したというのに、こちらの被害はゼロである」
「情報統制も順調で、ここまでくれば外部にノヤリスの存在が漏れる事はほぼ無いでしょう……つきまして、計画を第二段階に以降します」
「うむ、残党狩りである。リラーテ、『ある』のであろう?」
「……失礼します」
バハメロの想像通り、リラーテはやや驚きながらもテーブルにいくつかの資料を広げる。
「『ライフラ』……『ピックル』……『ズィルド』……これは……」
「これらは未だ逃走の動きを見せていない亜人狩り。法を知らない訳でもないでしょうから、正面から反抗する勢力……と言ったところでしょうか」
「うむ、既にある情報だけでも、それぞれ各々の理由で『自信のある』連中である……しかしイーリスの情報収集能力は並外れていると感心するばかりである。まあうちの情報部も負けてはおらぬがな」
不完全な部分がありながらも構成員の数やボス格の顔の写しまで容易されたその資料は、『弾犬』のそれとはまた違う形の資料だった。
もし此度の作戦に時間的余裕があれば、この資料を弾犬が補う事で完璧なものとなったであろう。
「こほん……話が逸れたが、2日後朝日が昇ると共にこの者達は『ノヤリスの敵』だけでなく、正式に『ミスタルの敵』となる。ずっと動きが無いからこうなると踏んであらかじめ計画していたのであるが、この三組織は同時に攻撃する」
「同時にって……そんな事ができるっすか?」
ナノンの疑問は最もだった。
並べられた組織の一つはかなりの数構成員がいると予想され、また一つは強力な力を持つとされるボスと幹部の少数精鋭。
そして最後の一つに関してはイーリスの情報収集能力を持ってしても穴だらけで、『使い魔を探知できるものがいる』という情報が全てを物語るかのような不穏さのあるもの。
「可能である!先程も言ったであろう。奴らもはや我々だけの敵では無いのである」




