借りを返させろ
「ところでさっきのは悪かったなコル、ゴニーは俺の事が好き過ぎてな」
「もっかい縛ってやろうかてめえ……」
ゴニーはそう言ってパッケンを睨みつけながらも、巻き付けられた拘束ベルトをナイフで切って落とす。
そしてナイフを鞘に収めてから、頭に巻いたバンダナを外し、腕に巻いた。
「さて、色々聞きたい事はあるけどまずは……悪かったな。船長の知り合いだとは思わなかった」
「あっ、おま」
「船長?」
「……あちゃー……」
亜人狩りを荷車に詰め込むと、先程の戦闘に乗じて馬が逃げ出していた事に気がつく。
するとパッケンが闇の中に潜んでいた『部下』に探してくるよう命令した。
辺りを囲んでいた人間が散開するのを気配で感じる。
「ま、バレちまっちゃしょうがねえ。改めて名乗らせてもらうぜ。俺の名はパッケン・ブレッツ!トレジャーハンターってのも嘘じゃねえが、本業は『海賊』だぜ」
「似たようなもんじゃねーの?」
「うーんどうだろ……言葉にするのが難しいけど、海賊の方が悪い気がする」
「ハッハ!まあ俺も似たようなもんだと思ってるぜ?俺達は略奪より宝探しの方が好きな野郎の集まりだからな!……まあちょっと他の海賊と揉めてやんちゃした時期もあったが……昔の話だぜ!」
「チッ……そのせいであんたに懸賞がかかったから開き直って海賊やってんだろうが」
コルは記憶の中のパッケンが、必要以上に素性を明かそうとしなかった事を思い出し、合点がいった。
「なるほど、お尋ねだったわけか。でもパッケンの手配書なんて見たことないぞ?」
「そりゃあ海賊だぜ?海辺の街や港なら俺のハンサム顔だらけさ。それにこの国にもあんまりないだろうな。ミスタルの海域は荒すぎて旨味が少ない。俺達の隠し港があるのもそれを逆手に……」
背後から『話し過ぎだ』という意味のこもった咳払いを聞き取り、パッケンは慌てて口を塞ぐ。
「あー……ってなわけで!次はお前さんだぜ、コル。もうお互い素性を隠し通せるって感じじゃねえだろ?」
「……そうだな」
コルは口外厳禁であると念を押してから、ノヤリスの事を話した。
今回の様に亜人を解放して来たことから、現在イプイプカンパニーと王国と協力関係である事までを、話せる範囲で伝える。
パッケン達は最初は驚きながらも、国が今こうして亜人解放に動いている事から、それが真実だと認め聞き入った。
「と、こんな感じだ。今待ってもらってる亜人達は信用できる仲間に受け渡して保護区まで送られる手筈になっている。だから……」
「ああ、わかってるぜ。ちょうどだ」
パッケンが視線を向けた先には彼の部下が馬を見つけてここまで引いてきた。
パッケンは部下にそのまま、荷車と馬を繋げるよう指示をする。
「だが、まだ聞きてぇ事がある」
ゴニーの持つ魔術灯に妖しく照らされた彼はそう言った。
「……ラニ、待ってる人達にもうすぐ出発できるって伝えて来て」
「わかった」
ラニがその場を離れ、二対一の構図になる。
先程刃を向けた相手、それも海賊とはいえ、彼がこれからするであろう話にコルは察しがついていた。
「さっきの話だが、お前さんの組織……ノヤリスっつったか?魔人会に襲われたってのはホントか?」
「ああ」
コルの予想は的中した。
ノヤリスがミスタルと手を組むに当たって、魔人会の襲撃については避けて通れなかったのだが、その名を出した時、二人が明らかに動揺するのが見えたのだ。
「俺は今奴らを探してる。俺がこんなチャチな亜人狩りに捕まったのは、コイツらが魔人会と繋がりがあるって情報を耳にしたからだ。簡単だったぜ?コイツらは俺の賞金を知ってたからな。……まあ結局大した物はでなかったから、計画通り脱出しようと思ったら、偶然お前さんらとカチあったってわけだが」
「その様子だとそっち……海賊団にも何かあったみたいなだな。それもいいことじゃない。そうだろ?」
パッケンは葉巻に火を付け、煙を吐きながら答えた。
「ああ、お前さんと別れてコイツらと合流した後。俺達が持つ宝に目をつけたのか、急に現れて襲ってきやがった」
「お宝を?」
「ただの宝じゃねえぜ?古代の遺物だとか魔道具とかもある」
「……私のせいだ」
「馬鹿野郎、ゴニー。お前さんは悪くねえよ」
「私が魔術に関する宝を集めていたせいで狙われたんだぞ!そのせいで船員のほとんどが殺された!」
「全部、船長である俺の責任だ。それにアイツらが最後、宝を守る為に死ねて本望だって笑ったの、聞いてなかった訳じゃねえだろ?」
「っ……クソッ、馬鹿な男共だよ……!」
「悪いなコル、話が逸れちまったがこの通り。俺には魔人会に返さなきゃならん借りがある」
「……復讐か?」
「ああ、俺の女の宝を3割、部下を半分奪いやがったんだ、倍返しで財産を全部奪い取った後、全員ぶっ殺して晒し首にする」
パッキンの瞳に曇りはなかった。
彼は本当にそうするだろう。
しかし彼の持つ戦力が減っているのも事実で、魔人会の全体像が不明瞭であることも含め今すぐそうできないだけの理由が、彼をもどかしくさせている。
そしてパッケンは海賊としてのプライドと仁義があると同時に、その為ならばどんな事でも利用してやるという覚悟があった。
「コル……お前ら、魔人会ぶっ潰すんだよな?」
「最終的にはそのつもりだ」
「なら話が早いぜ。もっぺんだ。戦力と情報をやるから、魔人会を一緒にぶっ潰そうぜ。長距離移動機車での借りを返させろ」
まるで提案の様な物言いだが、彼らの放つ圧は『断れば殺す』と言わんばかりだった。
コルにとっては頼もしい限りだが、この場においてその決定をするのは彼ではない。
「……という訳ですが、どうですか。イーリスさん」
「あ?」
コルの背後から、奇妙な生物が顔を覗かせる。
それはイーリスの使い魔で、解放した亜人を誘導する為にこの場に訪れていた。
使い魔はイーリスと繋がっている為、ラニが離れたあたりから会話は全てイーリスの耳に入っている。
「パッキンは強いですよ。俺が保障します」
「……っ、ハッハッ!コイツぁしてやられたぜ。まさか女王様が聞いてんのか!?前も鈴で仲間とやり取りしてたもんな!それもその類か?」
「いいえ、これは私の使い魔です。初めまして、パッケン・ブレッツさん。お話を伺いました。ですが……少し話をする必要があります。これから迎えを送りますので、彼らと共に来ていただけますか?勿論、秘密裏に」
「へっ……寛大なお心に感謝を、ってな」




