罪人の檻
捕らえられていた亜人達はラニが力任せに鍵を壊した事で発生した大きな音と、少しばかりの振動に驚き、怯えた表情で開かれた扉の方を見つめていた。
「安心しろ、私達はお前達を助けに来たんだ」
「ああ、耳に入ってるかわからないけどこの国では今、亜人狩りを禁止し亜人を保護する動きがあるんだ。だから今から俺達の仲間が皆を安全な場所に連れていく」
「……安全……?」
「お、俺達は助かるのか……?」
コルは質問を投げかけた男を見た。
男は首筋の骨が浮かび上がるほど痩せ細り、今にも倒れてしまいそうなほど不健康な顔つきをしていた。
「ああ、まずはあなた達を保護区に連れていく為に、少し移動しなきゃならない。ラニ、残りの鍵も壊して来て」
「おう」
「あ、でも一つは残しておいて。ちょうどいいから亜人狩り達をそれに詰めて行こう」
「ああ、リラーテからの『おつかい』か」
今回、団員達は作戦において亜人狩りはなるべく捕獲し連れ帰るようにリラーテから追加の依頼を受けている。
亜人狩りについて、これまで以上に調査をする必要があり、その為に他でもない亜人狩りから言葉を聞き出すつもりなのだ。
コルがここぞとばかりに新武装の『鍵開け』モードを試している間に、ラニは他の鍵を素手で壊す。
彼女の語彙は拙いながらも、痩せ細った亜人達を安心させるには充分だった様で、コルが解錠を終える頃にはぽつぽつと、安堵の混じったすすり泣きが聞こえて来た。
「ぐすっ……そういえばあんたら、彼の仲間かい?」
「あ?誰のことだ?」
「髭のおじさんだよ。純人なのに私達と同じ所にいたんだ……名前は確か……」
コルは鍵を取り外し、扉に手をかけた。
そしてその取っ手を引こうとした瞬間、自分の首元に冷たくて薄い物が当たっている事に気がつく。
「……っ誰だ?」
迂闊に振り向けないコルには見えないが、赤いバンダナを頭に巻いた金髪の女が、どこからともなく現れ、コルに刃を向けている。
亜人達と話している間も、ラニは気を緩めてはいなかった。
それでも彼女の気配察知力をすり抜けてここにいるその女は、まさしく『突如現れた』と言って良いだろう。
「お前どこから……!そこを離れろ!」
「離れるのはアンタの方だよ。アンタも、そのその玩具に手掛けようとしたら――」
ラニが背筋が凍るような感覚に気が付き、身震いをすると、あたりに複数人の人影が『突如』として現れた。
「……どんな手段使ったかも、誰かも知らねえけどよォ……!」
「おいコラ!離れろって言って――」
ラニにとって、この程度の距離でコルを助ける事等、造作もないことだった。
「がっ……!」
想定外の速さを前に、人質という利を活かしきることも無く、雑に殴り飛ばした女を睨みつける。
一瞬の出来事とその形相の恐ろしさを前に怖気づいたか、周囲を囲む人影は動揺を隠しきれない様子であった。
「いきなり現れて人質とか、卑怯なマネしやがって!」
「クソッ……!野郎共!まずはコイツらから――」
ラニの拳を受けたにも関わらず、ふらふらと立ち上がり戦おうとする女を前に、二人も戦闘態勢を取る。
コルは彼女が亜人達を人質に取れば、先程の様にはいかないと思い、まずは彼らを守るにはどうすればいいかを考える。
しかしひらめきかけたその案が、実際に用いられることは無かった。
「やめな、ゴニー」
コルの開けようとしていた扉から、低い声が響く。
「ああん!?急に喋ったと思ったら寝ぼけた事言いやがって!ホントに寝てたんじゃないだろうなゴラァ!」
「うおっ、声だけで怖い顔してんのがわかるぜ……とりあえず全員武器は下ろせ。あと早く開けてくれ。真っ暗で、それこそ眠っちまいそうだぜ」
「……はぁ」
響く声はゴニーと呼ばれた女の戦意を消した。
武器を鞘に収めた彼女は扉に一番近いコルにジェスチャーで『開けろ』と伝える。
ラニが彼女を見張っている間に、コルはどこか聞き覚えのある声のする声の主がいる荷車を開けた。
「ははは!まさかこんなところで再会するとは思わなかったぜ!」
中には拘束された純人の男が一人。
髭が長く、どこか胡散臭い。
以前見た時よりも少しだけ綺麗な格好になっていたが、コルは彼の事を知っていた。
「それはこっちの台詞だ。こんなとこで何してんだよ、パッケン」
声の主、パッケン・ブレッツ。
しばらく前、長距離移動機車にてコルと共に魔人会と戦った男で、トレジャーハンター。
そして、コルの友人である。




