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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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新たな力達

ミスタルとレマンを跨ぐ、ツキ山と呼ばれる小さな山がある。

その山には不思議な特徴があり、ミスタル側から見れば穏やかな緑の山だが、レマン側からは急な傾斜の白い岩山に見える。

道自体は馬車が通っても問題ないほどの広さがあるとはいえ、他に整備された道は幾らでもある。

わざわざここから過酷な岩山を登り、または降って国を越える理由はなく、後ろめたい事があるにしても他にいくつか道がある。

と、そう思われている事を好機と見て裏をかくつもりでも無い限り、夜中に馬車を引いてこの山に訪れる者などいないはずなのだ。


「――いないはず、らしいけど?」

「いるな、少し離れて馬車五台……それぞれに三人ついて……全員、武器を持ってる……」

ミスタル兵のいない国境付近。

イーリスの宣言を受け国外逃亡を図る亜人狩りにあえて抜け道を残す事で、それらをノヤリスの団員が殲滅する作戦は、速やかに実行に移された。

ツキ山に配置された渡り月は穴を掘り、イーリスから支給された小さなテントも使ってちょっとした拠点を作り、魔術も使って山全体を見張る。

そこにまんまとやってきた亜人狩りの集団を、オリセは見逃さなかったのだ。

「んー……肉眼でよくそこまで見えるなぁ……遠いし暗いのに」

コルが目を凝らして同じ景色を見ようと試みていると、テントから仮眠中だったエミイが小さく欠伸をしながら這い出てくる。

「ふぁ……ん……来たのね……」

「ああ、15人。中にいるとしても20人くらいの小規模チームだ」

「そう、ならラニ一人で充分ね。起こしてくるわ」

「いや、俺も出るよ。試したい事があるんだ」

「?……ああ、例の『あれ』?」


エミイに叩き起こされたラニが、目を擦りながらコルを抱えて亜人狩りの元へ移動する。

「ちゃんと使用感をまとめて鋼華の皆に持ち帰らないと……」

「それで、私はどうすればいい?」

「ラニが好きに戦って、俺がサポート」

「つまりいつも通りだな!」

「ああ、でもこれまで以上に色んなやり方ができるから、いつも以上に好きにやっていい」

コルにとってこの作戦は新たな装備品の試験も兼ねていた。

以前まで使っていた愛用の銃に近いデザインを踏襲しつつ、見るからに部品の増えた銃を腰から下げ、ラニに抱えられたまま木々の隙間を抜ける。

「ははっ、でもまだ高速移動する機能はついてないんだな。奴らは目の前だ」

「よし!このまま行け!俺が合わせる!」

「了解ィ!」



隊列の最後方、暗く不気味な茂みに怯えていた亜人狩りが、突如現れた亜人の飛び蹴りによって弾き飛ばされる。

その悲鳴は一瞬のうちに前の亜人狩り達を振り向かせた。

「!?なんだテメェ――」

「おっと動くな」

コルは早速銃を取り出し、まっすぐ正面に突き出す。

コル自身も驚くほど様になっているその立ち姿は、まるで物語のダークヒーローのようであった。

「……?何者だお前ら!」

しかし時と場所が相応しくなかった。

灯りを持っていた亜人狩りを蹴り飛ばしてしまった上、曇り空の夜の山では二人組の影の輪郭を捉えるので精一杯だったのだ。

「なっ……せっかくの新アイテム登場シーンが……」

「なんだかよくわからんが……お前達は敵って事でいいのか……?」

「あ、はい……そうなりますね」

「……」

亜人狩り達は、お互いのきょとんとした顔を見合って、再び暗闇の奥にいるコル達に目を向ける。

「や……」

「やっちまえーーッ!」

「来たな……!行くぞラニ!」

コルは向かって来る亜人狩り達を前に引くこと無く、暗闇の中手元の銃についた機構に触れ、再度正面に向ける。

銃はガチャガチャと音を立て、銃口の周りが傘の様な形状に変形した。

質量保存の法則を無視した変形に亜人狩り達が気づくよりも早く、銃の引き金を引く。

変形からそれまで、僅か数秒。

しかし弾は発射されていない。

代わりに一瞬、コルの正面を扇状に閃光が覆った。

「うわっ!?」

夜闇に慣れていた視界が、突然白く輝き、暗闇の奥にいる二人をまっすぐ見つめていた者ほどその視界が封じられる。

そしてラニを前に僅かな隙を晒す事がどれだけの事か、その場にいる亜人狩りの半数が身を以て体験する事になる。


「ははっ目眩ましばっかり上手くなるな!」

「なに、機能の一つだよ。これなら味方に目を閉じるよう合図しなくてもいい。それに暗いところで戦いがちな俺達にはピッタリだ」

「他には何ができんだ?完成した時は多すぎてどうこうって言ってたが」

ラニは話しつつも片手間に亜人狩りを殴り倒す。

コルはラニがそうしている間に、離れた位置で馬車に乗って逃げようとする亜人狩りに向かって、形状の戻った銃の引き金を引く。

以前までと同様に大きな音を立てながら放たれた『針』がまっすぐ背中に刺さると、亜人狩りは震えながら荷台の足元に倒れこんだ。

「さしあたり……命中精度は意味わからんくらいに向上した。ちゃんと狙えばちゃんと当たる。ここはベーズの調整技術の賜物だね。そして……!」

この時コルは銃の事で頭がいっぱいだった事もあったが、いくつかの修羅場を目の当たりにしてきたコルにとって、冷静でない亜人狩りの対処程度であれば少しくらい会話に脳のリソースを割くことができる。

「守ってもらう負担もちょっとは減らせる」

新たな銃はもはや、コルにしか扱えないほど多機能であり、どこをどう触ったのかは開発に関わった者にしかわからない。

しかしコルは今確かに、銃を瞬時に盾へと変形させて亜人狩りの攻撃を受け流した。

「一体どこから取り出しやがっ……ぐあっ!」

そして不意に流されて体勢を崩した脇腹に、盾型のまま引き金を引いて針を打ち込む。

「この辺の展開ギミックは全部ナノンロイドの応用……それで……」

コルは辺りを見回す。

今痺れさせた亜人狩りが最後の一人だったようで周囲にはラニが作った亜人狩りの山しかない。

「……まだ二個しか試してないのに」

「全く……そんなの無くても私が守るってのに……なあその盾もっかい銃に戻してくれるか?」

コルは言われた通り、盾をしまい基本状態となる銃型に変形させた。

「うーん……???」

「はは、いいたい事はわかるよ。明らかに質量が変わってるからね。凄いよねこれ」

「しつりょー……まあ多分そういう事だ。どうなってんだ?」

不思議そうに首を傾げるラニを微笑ましく思いながら、まだ名前の付いていない銃をそっと撫で懐に収納する。

「説明が難しいな。逆に小さいからできるっていうか、機械で魔術を再現したとでも言うべきなのかな……?とにかく、全員の技術の集大成さ」

「うーんよくわかんねえ!」

「なあに、幸いしばらく機会が沢山あるんだ。俺が使ったやつだけでも覚えてくれればこっちもやりやすくなるはず」

「おう!それならわかりやすくていいな!」


二人は鈴を使って拠点のオリセ達に連絡してから馬車を見る。

荷車は鍵がかけられる奴隷や罪人を運ぶ目的でのみ使われる物だった。

コルが新機能で解錠しようと提案する頃にはラニの指先が鍵を引きちぎっており、中に多くの痩せ細った亜人がいるのが見えた。

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