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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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お弁当(温)

「我々の仕事は亜人狩りの国外逃亡の阻止である!保護法の適応前に国境の兵の目につかない土地から国を出てしまえば良いと考える亜人狩りを我々が叩かねばならない!」

そう言ってバハメロは保護区域の説明に使った地図に、いくつかの赤いマーカーを貼り付けた。

ミスタルの国民が少なからず保護法に対し不安を感じている現状、無闇に国境付近に兵を配置するのはその不安をさらに煽ることに他ならないとイーリスは考えた。

よってバハメロ達はあえて警備の中に『抜け道』を作ることにしたのだった。


「奴らはまだ我々が連携していると知らないのである。ミスタルの支援はまだ、『表向きには』受け取れないが、イーリスの魔術を用いれば抜け道を我々のみで塞ぐ事は容易である」

バハメロは更に、地図に青いマーカーを貼り付けた。

それらが今回ノヤリスが担当する、亜人狩りの国外逃亡ルートを表している。

「『抜け道』となるポイントはいくつかあり、十分な連携の為にも戦力を分散する事になる。よってこの作戦は『総力戦』である!配置と日時は後程通達される為、戦闘員は心の準備をせよ!」

「……」

団員達から再びざわめき出す。

不安そうな声が多く聞こえたが、それを聞いたバハメロはハッとし、付け加えた。

「安心せよ!ロッサ号により移動、撤退、援軍も問題無し!故に交代あり、自室での休憩あり、そして今回は作戦中には温かいお弁当を届ける事も可能である!」

「!?うおおおおおお!!」

団員達は熱狂した。

作戦中の食事は保存の利くものを持っていくのがほとんどで、1つでも温かい食べ物があればと思った団員は少なくない。

実際温める手段も無くはなかったのだが、持ち運びの不便さ等課題が多く、半ば諦めていた彼らにとって、これほど嬉しい事は無かった。

「マジかよ団長!」

「うむ!毎食……とは流石にいかぬが!ロッサ号だけでなく、国との連携の結果、作戦においてあらゆる改善が見込まれている!とは言え、楽な戦いではない!舐めてかかるな!最高のコンディションでいつも通りに戦い、そしていつも通りに帰るのだ!」

「「「了解!!」」」

「ならば良し!一度解散!配置に関する通達が来るまで各自備えよ!」



上機嫌な団員達が捌けガランとした甲板の上、残った団員達は使ったボードや地図を片付ける。

そんな中、バハメロは片付けを手伝うリラーテと目が合った。

「ノヤリスの方々は食事が好きだと聞いておりましたが、想像以上の情熱でしたね」

「む、美味いものは皆好きであろう?それが新鮮で温かいのならなおさらである!」

「……それも、そうですね」

「うむ!リラーテは何か好きな食べ物はあるか?」

「私はそうですね……好きな味、というのは特に無いのですが、硬い食べ物は好きです。硬いパンや厚い肉……後は氷等でしょうか」

「歯応えという奴だな」

二人は雑談しながらも手は止めず、テキパキと片付けを終えた。

「これでよし……よく手伝ってくれた、感謝である。特別にポイントをやろう!」

「ポイント?」

「……?ああ、そうであった。イーリスは団員ではないからノヤリスポイントカードは持っていないのだったな」

バハメロは簡潔にポイントに関する説明をした。

「なるほど……ノヤリスの報酬システムですか」

「うむ!吾輩は団長である故に持っていないが……それを作ったのが、イーリスに人探しを頼んだ男なのである」

「『シーモ』ですか……女王様の使い魔をもってしても手がかりの掴めない謎の男……もう少し計画が進みノヤリスの存在を公にできれば捜索も進むかもしれませんが……」

「うむ。ここまで順調である。これからの一連の作戦で我々が手柄を上げ、いち早く『表向きに』手を取り合う為に、吾輩も頑張らねばな!」

「そうですね。こちらも最善を尽くします」

バハメロは自信ありげに微笑み、使った資材を入れた大きな木箱を軽々と持ち上げる。

リラーテは甲板の隅にある椅子に座っているイーリスをこれ以上待たせない様にとその場を離れようとするが、ふと気になっていた事を思い出し、バハメロに問いかけた。

「そういえば、今までシーモについて『シーモ』という名しか出さないのには理由があるのですか?」

「む??」

「失礼、妙な言い方をしてしまいました。シーモのフルネームを未だに聞いたことがないな、と」

「……?シーモの名はシーモである」

とぼけている様子は一切ない。

リラーテは自分が再び妙な言い方をしてしまったのかとも思ったが、そういったことも無く。

ただどこか、話が食い違っていないような感覚を覚えた。

「なるほど……ありがとうございました。姓が判れば捜索時に役立つやもと考えただけですから、お気になさらず」

「ふむ、よくわからぬが任せるのである。ところで姓とはなんだ?」

「バハメロさんにもあるではないですか、『フラオリム』という姓が」

「……?それが姓というのか?」

バハメロは首を傾げる。

どうにも納得いかない、といった様子を見せるバハメロに、リラーテはさらなる違和感を感じていた。

「……えっと――」

その違和感について言及しようとしたその時、少し離れた場所からロナザメトがバハメロに呼びかける。

「団長!何をチンタラ……ではなく、一体何をしているのですかー!?」

ロナザメトは普段であればこうして会話を遮る様なことはしないのだが、今回はイーリスが持ち上げたままの木箱の陰になり、鎧もつけていなかった為、ロナザメトからは丁度見えなかったのだ。

「いや!すぐに行く!……よくわからんが、こちらも新しくわかった事があれば伝える。……シーモの件、任せたぞ」

「あ……はい。お任せください」

「うむ、ではまた後程!今度一緒に食事でもしよう!イーリスも一緒にな!」

そう言うとバハメロはロナザメトのいる方に向かって小走りで去って行った。

(……この感覚……女王様に報告すべきでしょうか……?)

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