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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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女王の仕事

イーリスとリラーテによって家臣、及び兵士達にのみ、ノヤリスの存在が正式に明かされた。

城内の反応は正に賛否両論。

概ね予想通り、反対意見は王国の重鎮で、賛同する声は主に平民生まれの多い兵達だった。

しかし、若くして王位を継いだイーリスの手練手管は伊達ではない。

内戦の火種にもなりかねない様な状態を、約一週間かけてまとめ上げて見せた。

そこからノヤリスとの協力に関して、城内の人材からの賛同が半数を超えるのにはそう時間はかからなかった。


その日の夜、王座に座るイーリスの前に一人の男が現れ、跪いた。

「来ましたか、顔をあげて、楽にしてください」

彼の名はアスナウ。

先代からミスタルに仕える家臣の一人で、イーリスが王位を継いだ後も変わらず城に残り続けた男であった。

「このアスナウ、イーリス様直々の呼び出しに応じ参上致しました」

「ええ、貴方をここに呼んだのは他でもありません。例の話に関して、古参である貴方の意見を聞かせていただければ、と」

「それは……」

アスナウは言い淀む。

「先代を知る貴方の意見が聞きたいのです。言いづらい事もあるでしょうから、他の者は下がらせています。ここには私達しかいませんので、どうか遠慮なく」

それを聞いたアスナウは少し辺りを見回し、ようやく口を開く。

「無礼を承知で申し上げますと、私は反対です」

「……続けてください」

「我が国が亜人に頼る様な国であると他国に伝われば我が国の高潔なイメージが下がります」

「高潔……ですか……。亜人だからと老若男女問わず拉致監禁し、あまつさえ道具のように扱い、収益を得る。その様な悪党ののさばるこの国の、どこが高潔なのでしょうか」

「それは……っ、必要な犠牲です。社会は労働力で回っています!」

「ご尤もです。では、雇用の上での正式な労働者と、道具の様に消費される奴隷の、『生き物』としての違いはどこにあるのでしょうか」

「くっ……貴族から奴隷を取り上げれば反乱が起こります!それをどうお考えなのですか……!?」

「簡単な話です。道具として買うのではなく、人として雇えば良いではありませんか」

イーリスの言う事は最もだった。

その二つは結果的に、同じように見えて人権の適応や給金等に天と地ほどの差がある。

「実際調査によると、貴族の貯蓄には幾分余裕がある様なので、雇用費を払わないとは言えないでしょう。……思えば、これは国にゆとりができたのではなく、違法な労働力で浮いた分だったのでしょう。はぁ……全く、ここ数日は私の勘の悪さに嘆くばかりです」

「……し、しかし!それでは『拒否権』が生まれてしまうではありませんか!相対的に労働力は減ります!」

「はい、ですから貴方をお呼びしたのです」

「……は……?」

「貴方の仕事は代々『人材の管理』ですよね?貴方のご先祖様が創った『冒険者協会』は今でこそ役目を失いつつありますが、人材の紹介としての機能は今でも見張るものがあります」

「ま、まさか……」

「アスナウ、冒険者協会の人材派遣システムを応用し、正当な労働力と報酬のやり取りを潤滑にするシステム……『労働者協会』の設立を命じます」



遥か昔。

まだ異獣が『魔物』と呼ばれていた時代。

村に危害を及ぼしたり、魔術の触媒になる魔物の討伐依頼や、未踏の森や洞窟の探索、離島の地図を作る、等。

冒険者と呼ばれる者達が、スムーズに仕事の紹介を受け、スムーズに報酬を得る為の場所。

当時の若者言葉で『ギルド』と呼ばれたそれは、正式な名称を『冒険者協会』と言い、三国に渡って幅広く展開されていた。

魔術時代の衰退、未開の地開拓の進行と共に縮小し、今では各国に2.3個ずつ残された力自慢の集まる傭兵の紹介所の様になっている。

「依頼の受付と管理に便利な機構が既に、ノヤリスの技術者から上がっていますので、そちらを協会のシステムに合わせれば、適切な人材と資源で冒険者協会の全盛も超える程の効率も見えるでしょう」

「イーリス様それはっ、それは、しかし……しかし……っ……」

アスナウの顔色は悪く、一面寒色の玉座の間の中心に立ち尽くし、まるで凍えているかのように映る。

「何か、意見があれば聞かせてください。その為に、貴方を読んだのです」

アスナウは居心地が悪そうにしながら、パクパクと口を動かし、絞り出すような声を出す。

「ぼっ……冒険者協会は私が代々受け継いできた物……!それを私の代どうこうしろと言うのはその……!」

「アスナウ、貴方……先程から顔色が悪いですね。それに動揺しています。どうしたのでしょうか。今の貴方は亜人保護法に関してというより……冒険者協会のシステムが機械の手によって変化する事を恐れている様な」

そう言ったイーリスの白い瞳は、何かを確信したかのように、アスナウを冷たく見つめていた。

「は、はは、何を仰っているのやら……」

突如、からんと何かが落ちる音がする。

その正体はアスナウの腰にかけられていた時計で、円形の時計はイーリスの足元まで転がって行った。

「こ……これはとんだ失礼を……!」

「……ふふ、良いのです。少し空気が緊張してしまっていましたから。拾う事を許可します」

「いやはや本当に……年は取りたくないものです……はは……」

苦笑いを浮かべながら、アスナウは女王にこれ以上失礼のないよう足元まで近づき、時計を拾う。

そしてそのまま、腰を伸ばした瞬間だった。

音もなく現れたリラーテの体当たりが、アスナウを壁まで吹き飛ばす。

「ごふっ……な、何を……!」

「何を、ではありません!王に仕える身でありながら、王に刃を向けるなど……まさか本当に貴方が内通者であったとは……!」

甲冑を身に纏ったリラーテによる体当たりは、真正面から5頭の馬にぶつかる様な物。

真っ当に受けたアスナウの体はそれだけでボロボロになり、袖から覗かせたナイフを隠す事も出来ない。

「……っ……なるほど、イーリス様は認識阻害の達人であるとは存じておりましたが……よもや魔力感知すら通用しないとは……お見事です。一体いつから、私が内通者だと?」

イーリスは立ち上がり、アスナウに一歩、一歩と歩み寄る。

その瞳は相変わらず、全てを見通している様だった。

「……始めからです。私が王位を継承した時、貴方の心は我が国には無かった。どこの組織と繋がっているかを調べるために、かなりの間泳がせましたが……ここまでです。これ以上、魔人会の人間を置いておく訳には行きません」



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