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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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ラニは感覚派①

ロッサ号の着陸から約二週間。

進捗は少しづつ報告されているが、やはり国を動かすのには簡単ではないと実感させられる。

それでも着実に計画は進んでいる様子だった。


諸々の事情から行動範囲を城の庭の一部に制限されてはいるが、それでもある程度走り回ったり、鍛錬をする程度のスペースは充分に確保されている。

天気も良く、穏やかな昼下がり。

時を待つ亜人達は思い思いに過ごしていた。

新たな工房に籠もる者や、綺麗に整った庭を駆け回る者もいれば、ロッサ号の中でいつも通り過ごす者もいる。


そんな中、ラニは少し離れた場所で拳を突き出しては首を傾げて唸っている。

「んー……っ駄目だぁ!」

彼女はここ数日、戦火の中で咄嗟に編み出した『技』に思いを馳せ、物にしようとしているのだが、どうにも再現できずにいた。

力む拳を緩め、芝生の上に倒れ込み、空を見上げながら考える。

迷路の森にあった拠点と違い、空を覆い隠すような大木の無い庭は、空が良く見えた。

ゆっくりと流れる雲を眺めていると、『戦闘』という文字を忘れそうになる。

「……一旦、飯食うか」

飛ぶ様に起き上がったラニはロッサ号の中にある食堂へ向かった。


着陸から数度、リラーテが物資を運んでくる事があった。

食料などの消耗品を始めに、工房で使えそうな物資や廃品まで、幅広く用意してくれたのだ。

どれも供給を安定させるのに苦労した様な物達が比較的簡単に渡された事に、団員達は驚愕しながらも事の大きさを理解し始めていた。

その一方で、新たな工房と資材を手に入れた鋼華の隊員達の様に、目を輝かせながら『記念すべき新工房で一番最初に作る物プレゼン大会』の設計図を叩きつけ合う光景も見られる。

食堂もそれに近い。

森で取れる山菜や魚、狩りで手に入れる肉、拠点の畑で育った野菜達で生きてきた亜人達に、革命と言っていい程の衝撃が走る。

質、量、種類。

どこをとってもこれまでの食材より充実している。

その事に一番興奮していたのは他でもない厨房担当のリンだった。

これまでリンの作る料理は非常に安定して高いクオリティを維持しており、それ故にノヤリス内で『おかわり』が報酬や交渉材料と成り得たし、団員のモチベーションとなっていた。

そんな彼女の料理が、新たな食材と調味料の力を得てしまった今、食堂は連日大賑わいだ。

リンの管理能力の賜物で支給された食材が尽きることはないが、試食したバハメロがこうなる事を予測してポイントカードによるおかわりを一時的に停止したのは正解だっただろう。

そのかいあって、食堂にはいくつか席が空いていた残っていた。

「あら〜いらっしゃい」

「おうリン!肉入ってるやつ頼む!」



ラニは受け取った新メニューを持って、ウキウキしながらどこに座るか考える。

皿から立ち上る香りが食欲を刺激し、一番近い席でいいかと思ったその時。

視界の端にエミイとオリセが写り込んだ。

二人で食事を摂りながら何か小声で話したかと思うと、不意に顔を赤らめて離れる。

『邪魔してはいけない空間』がそこにはあった。

普通ならばそれに気づいた者はそっとその場を去るところだろう。

しかしラニはそれには当てはまらない。

「なーにひそひそ話してんだ?」

「ひゃぁっ!?」

驚くのも無理はない。

しかしエミイの隣の席が空いていたのが運の尽き。

ラニは不思議そうにしながらも遠慮せずそこに座った。

「いただきます……あむ」

「……ラニ、貴女ね」

「?」

「はぁ……いいえ、なんでもないわ。美味しい?」

「おう!やっぱりリンは天才だな。ああそう、なあ二人共、これ食べ終わったらちょっといいか?」

「「……?」」



しっかりと噛み締め、時間をかけて味わってから食堂を後にしたラニは、エミイとオリセを率いて先程の庭に戻ってきた。

そして例の技について話す。

「……紫の光、自分達にも見えていた……」

「そうなのか?結構距離あったと思うんだが」

「皆見えたと思うわ。雷でも落ちたかと思ったもの。それであれはなんなの?あんな魔術は教えてないけれど」

あの時の光景を思い浮かべる。

これまでの戦い方が通用しない強敵を前に急遽編み出したそれは、感覚としてまだ体に残っている。

「なんか、あの時思いついた」

「……エミイ、今のどういう事か分かるか……?」

「ええ、魔術を馬鹿にしてるんでしょ?」

「してねーよ!ほんとだって!」

エミイは心の底から出たであろう深い溜息をつく。

「貴女ね。素人がそうポコポコ新しい魔術……それもあんな出力の物を土壇場で作れるなら魔術時代の終わりなんて言われてないの」

「嘘じゃね〜って!ああわかった!なら見せてやる!」

「出ないから相談してるんでしょう!?」

「うるせー!オリセ!木生やすやつで的作ってくれ!」

「……わかった」



「針、拳、雷鳴……『紫鬼砕』ッ!」

ラニ監修の元作られた『バーディー・ンー人形』が木っ端微塵に砕け散る。

しかしそれは例の技に依るものではなく、ただ単にラニの腕力によって殴り飛ばされているだけだ。

「だぁぁ……出ねぇええ……」

「……」

「んぅ……なんかアドバイスとかねえの?」

「しようにもオリジナルの魔術なんだから無理でしょう?でもそうね……感覚的に産まれた術なら、その時の感覚を思い出してみるとか?」

「……なるほど……ラニ、体の感覚だけでなく……頭の中の感覚も合わせるんだ。その時考えていた事をできるだけ……詠唱は、ただ口に出すだけでは意味がない……」

「……わかった、やってみる」

オリセが改めてバーディー・ンー人形を作る間、目を閉じて脳内の感覚も可能な限り調整する。

(あの時は……そうだ、あいつを炎の中にぶっ飛ばして……鈍ったパンチにカウンター。でもクソ固くて効かなかった……)

人形を前に、大地を踏みしめ、構えを取る。

(そうだ、『魔力』で『殴る』イメージをしたんだ、あの時は……それでもう一つの、『貫く』イメージ……)

「針、拳、雷鳴――」

バチバチと音を立て紫電を纏う拳。

成功に高鳴る気持ちを抑えつつ、魔力と力を拳に集中させる。

「――これだ……『紫鬼砕』ッ!」

以前よりも激しい、紫色の稲妻が迸る。

力のみで砕いた人形とはまた違う形で粉々になった人形を前に、ラニは息を切らしながら二人にピースサインを送った。

「できた……ありがとな!お陰で前よりいいのが入った気がするぞ!」


上機嫌なラニに対し、エミイはごく些細な事に疑問を抱き怪訝そうな表情を見せる。

「どうして木に雷の魔術が通るの?」

「なんか変なのか?」

当然ラニはその疑問への答えは持っていない。

「わからないなら少し黙っててちょうだい。少しオリセと話すから……で、どうかしら」

「自分の予想だが……雷魔術ではなく……ラニの魔力操作が生み出した攻撃の形が……雷に見えるのでは……ないだろうか」

「……ああ、納得できたわ。『イメージ』が具現化した結果があれなのであって、やってることは拳に乗せた魔力放出にすぎない。けれどそれにラニの筋力と潜在的魔力が加わることでああなる、と。はぁ~……全く、感覚派のやる事は意味がわからないわ」


「???つまりどういうことだ?」

物分りのいい有識者と比べ、やった本人が一番理解していないこの状況。

説明する事で無駄に意識を割く可能性を考慮し、エミイは説明を放棄した。

ただ一つ、説明せざるを得ない事もある。

「ラニ、『護鉄塊』を使ってみて。今」

「?おう。ニッシッシ……もう慣れたもんだぜぇ?」

得意気に詠唱を始め、護鉄塊の発動を試みる。

ラニの言う事に偽りはなく、実際に何度も護鉄塊を使った硬質攻撃を使っている為、難なく発動ができるはずだった。

「……あれ?」

しかしこの日は、それができない。

「やっぱりね。貴女、もう魔力無いわよ」

「へ?」

「……そうか……ラニの筋力に加えて、残りの体内魔力を全て放つ事で出力されている……だからこそのあの威力……ということだな」

「そう、話を聞く限り。先に護鉄塊を使って魔力が減っていても使えた……でもその時にありったけ全部放出したから、ありったけ使うのが癖になっちゃったんじゃないかしら」

「ええー……?じゃあなんだ?これは1日1回しか練習できない上にとっておきって事か!?せっかくコツが掴めたのに?」

ラニが魔力の枯渇に伴う多少の気だるさを感じながら少し項垂れるのを見て、二人は軽く微笑んだ。

「……ふふ、感覚派の短所ね」

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