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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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世界平和と八つ当たり

時は夕方。

強めの風が吹き始めたので、バハメロ達はカンパニーの倉庫の中に移動し、そこにテーブルと椅子を置く事にした。 


倉庫へ入った団員はバハメロと渡り月の四人、そしてリン。

木製の椅子が二つ、机を挟んで向き合う様に配置され、お互いの代表が同時に座る。

「……!っ……」

(ああ、団長……ほんとにこういうの知らないんだろうな)

王族が着席する前に、それも一切躊躇い無く座るった事か本来持つ意味を知るのは、純人であるコルとリラーテだけ。

しかしお互い口を挟まない。


「お茶とお菓子、持ってきました〜」

優しく微笑みながら2人分のカップにお茶を注ぐリン。

「どうぞ〜」

「ありがとう」

イーリスは一言礼を言うと、リラーテに毒見もさせずに口をつけた。


「……美味しいですね。葉の種類、保存、淹れ方……全てにこだわりが感じられます」

「あら、ふふ、うれしいです〜」

バハメロは誇らしげに胸をはり、リラーテ同様にそのお茶を味わう。

「ふふん、そうであろう。クッキーも食べてみよ。お国で食べる菓子と比べれば素朴であろうが、彼女のクッキーは絶品である」

「では」

美しい所作により、クッキーがイーリスの口に運ばれる。

「優しい味わいですね。お茶に良く合います……素材の味が十分に発揮されながらも纏まりがあって、更にこれは……アタカナッツでしょうか?」

クッキーを実際に食べたことのあるコル達が、そんな味したか?と後ろで首を傾げる。

リンは驚いた表情でイーリスを見つめていた。

「まあ……!初めて気づかれました〜。実は隠し味に砕いたアタカナッツを使ってるんです〜よくわかりましたね?」

「偶然です。以前国内の畑での栽培を安定化できないかという話になりまして、その時はしばらくの間お茶会のお菓子はアタカナッツでしたから。勿論クッキーに混ぜた物もありましたが、正直生地との相性の悪さが目立っていたので、とても良い配分をされていますね」

「むぅ、美味い美味いとは思っていたが、吾輩の思っていた以上に凄いことであったか」

関心しながら、バハメロはクッキーを口に放り込む。

「うむ、難しい事はわからぬ!しかしやはり美味い!」

「ふふ、美味しいって言ってくれるだけでも嬉しいのですよ〜」


それから少しの間、バハメロとイーリスはクッキーを食べながら雑談を交わす。

王と長としての対談の前の、立場を気にせず言葉を交わす時間。

所謂、様子見がお互い必要だったからだ。

バハメロはカップに入ったお茶を飲み干し、テーブルの上に置いた。

「さて……イーリス・リア・ミスタル……殿?」

「イーリス、で構いません」

「ふむ、ではイーリスよ。まずはそうだな……そちらの要求をはっきりさせたい。それについて、改めて問おう」

イーリスは頷く。

「私は国王として、ノヤリスに奴隷文化撤廃の為協力を要請したく思います。具体的には違法な誘拐犯、奴隷商の捕獲と亜人の保護。この二つに協力していただきたいのです」

「我々のこれまでの活動と同じであるな」

「はい、指揮系統はそのままに亜人解放の活動に専念していただく為、あなた方を王国公認の奴隷商対策部の地位を与え、支援します」

「ふむ……」

イーリスの出した要求は、ノヤリスにとってこれ以上ない程都合がいいものだった。

当然そこに何も思わない者はいない。

「ちょっと口挟んでも……いいですか?」

そんな中でもコルは特に、ノヤリス側の純人というこの場唯一の視点からどうしても聞かざるをえない事があった。

「……どうぞ」

女王に発言を許可され、緊張しながらも咳払いを一つ。

「我々は所謂『秘密組織』として活動してきました。ですが今の話を聞くに女王様は、我々を明るみに出そうとお考えですか?」

「はい」

「我々は亜人狩りから亜人を解放し充分な数が集まった時声を上げる、という方針のもと戦っています。もし国が協力してくれるのなら今すぐにでも行動を起こしたいですが……」

「……突如現れた組織への支援に民が納得するとは思えない、でしょうか」

「……はい」

国が世の為行動を起こすとなれば、それに使われるのは民の血税だ。

大なり小なり亜人差別主義が浸透しているのはどの国も変わらない。

「元一般市民としての意見なのですが、一国の王が奴隷制度の撤廃の為だけにそこまでするメリットがあるとは……」


ここに来て、イーリスの表情が僅かに曇る。

「イーリス、何か隠しているな?まだ我々に要求があるのだろう」

「……隠しているつもりはありませんでしたが……そうですね」

静かに、残ったお茶を飲み干す。

「未来の話をしましょう。コルトリックさん。亜人保護の法を大陸に浸透させ、亜人の生活を保証した後、世界はどうなると思いますか?」

「……平和になってほしいと思ってます」

「私もです」

イーリスは微笑んだ。

その表情の奥には深い悲しみのようなものが見てとれる。

「レマンが亜人のポテンシャルに気がつくよりも早く、あなた方と接触する必要がありました。亜人の力……少しづつ噂として各国で囁かれています。武力国家のレマンの耳に入るのもそう遠くないでしょう。そうなれば大陸中の亜人が集められ、強力な国の兵器として『運用』されるでしょう」

「ふむ……そうなれば我々の『解放』への道は絶たれ、国は戦火に見舞われる。なるほど、亜人解放だけでなく、亜人参入による戦争の激化に対する抑止力として、我々を味方につけたい、と」

「はい、『亜人も含む世界平和』。それが今、私の求める全てです」


後方でリラーテの目が丸くなっている。

恐らく彼女も聞かされていなかったのだろう。

「……何にせよ、戦争周り話は未来の話。国の抱える問題ですので、そうならないよう私が出来る手は尽くします。まずは目先の、『国全体に蔓延る亜人への差別意識』に対しての改善。これへの協力をどうか、お願いしたく」

一国の王女が、薄暗い廃倉庫で、木製の質素なテーブルの前へ頭を下げる。

沈黙を命じられたリラーテもこれには流石に声を上げそうになったが、先程彼女の述べた考えを誇りに思い、自分も黙って頭を下げることで彼女の思想への賛同を示した。


「頭をあげよ。ふむ……そうであるな……うーむ」

バハメロは意外にも即座に話を受けなかった。

ここにきてもまだ長として判断し、考え、信じるに足るかを見極めようとしている。

バハメロもいざとなれば国を敵に回してでも団員達を守るという覚悟の元ここにいる。

「結局のところそちらがどういう思惑であろうと、我々の活動は変わらず、支援を受けられる様になった。優秀な団員のお陰でカンパニーからの支援もあり、我々の活動はますます安定するであろう。うむ、それは良い……とてもとても良い事である」

「……」

「だがァ!!」

バハメロの拳により、ティーセットやクッキーの乗った皿ごと、机が砕かれる。

「っ!!」

それと同時に、リラーテが剣を抜いて斬りかかろうとする。

しかし――。

「止まりなさい、リラーテ」

「しかし……っ!女王様!お離れください!」

「止まりなさい、話の途中です」

「っ……」

バハメロは椅子に座ったまま、イーリスの顔を睨みつける。

「これは八つ当たりである。八つ当たりだとわかっている……っ!だが言わずにはいられんのだ……!何故、何故今更なのだ!」

「おい団長、落ち着けって!」

今まで話の半分も理解できず静観していたラニが、バハメロの肩を抑える。

「ああそうだ、抑えて置いてくれ。八つ当たりが行き過ぎてしまわ無いようにな……」

そういいつつも、バハメロの呼吸は落ち着き始めていた。

「吾輩は物心ついてからずっと鍛錬を重ね、16の頃にノヤリスを結成した。ずっと、ずっと大変な思いをしてきた。それから数年たった今!……そう、今更になってだ!犠牲者だって出たんだ!遅いと思って何が悪いのだ!」

「それについては……私が間違っていました。一国の王でありながら、根深い所にある差別意識という物を理解しきれていなかった私の落ち度です。ここで謝罪すると同時に、後ほど他の皆様にもお詫びをさせて頂きたい」

「ぐ……ぐ……うっ……ううう……!」

バハメロが苦しみ藻掻くように唸る。

彼女はそれ以上イーリスを責めたいとは思っていない。

だがそれでも、自分の中にある感情を処理しきれないのだ。

「っ……ラニ、もうよい。離してくれ」

「……ああ」

「……驚かせて悪かったのである。さて……イーリス。今ので協力を取り消したくなったか?」

「いいえ、あなた方の怒りは真っ当なものであり、私はそれを受け止めた上で、本件を持って真剣に対応させていただこうと考えています。そしてその後もあなた方が必ず必要になる。今でもその考えは変わりません」

「……そうか……では、返事の前に我々からの要求をいくつか聞いてほしい」

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