赤い思い出
エミイは自分の過去、そして先程発覚した、自分の祖父が魔人会の長であることを渡り月の3人に話した。
また背中の翼が服を押し破らない様気をつけながら、本当の姿も見せる。
異形へと変貌したエミイを見ても、コルとラニはいつも通り受け入れた。
しかしそれはそうと、本人にとってはこの姿で居続ける事は好ましくない為、すぐに姿を変える。
「……とまあ、これが私が隠していた全て」
「自分で変わったり戻ったりできるんだな」
「さっきはどういう訳か勝手に……溢れ出るみたいに姿が変わって、しばらくそのまま戻れなかったけれど……」
「もう体調は平気?」
「ええ、寧ろ色々吐き出せてスッキリした感覚すらあるわ」
服の襟を正し、ベッドに座りなおしたエミイは一呼吸置いてから、再度話し始めた。
「初めて貴方達と会った時、私が言ったことを覚えているかしら」
全員、少し頭の中で記憶を遡った後、ラニは元気よく答えた。
「覚えてねえ!なんか態度悪いヤツだな〜って思ったのは覚えてるぞ」
「チッ……いや、まあ事実ね……それはもういいわ。あの時私は『目的の邪魔をするな』って言ったの。両親を殺した集団への復讐。それが人生の目的だった」
「話を聞く限り、いきなりアバロム家を襲撃しにきた謎の暗殺集団……だったよね」
直後、考え込んでいたオリセが何かに気がついたかのように顔を上げる。
しかしその表情は確信ではなく、あくまで疑惑の域を超えない程度に閃いた、といった様子だ。
「私も貴方と同じ考えよ、オリセ」
「あ?なんだよ」
「……似ている部分があるの、今日と」
そこまで言われて、コルとラニも気がつく。
「……!魔人会!」
しかし疑念が残るこの推察にたどり着いたコルは異議を唱えた。
「いや、でもだとしたらどうしてアバロム家を襲撃するんだ?長はエミイの祖父なんだろう?」
「……前に、とある本で読んだ……事故や事件で死んだ事にして、歴史から名を消す手口があると……」
「っ……だとしたら、魔人会のボスはその為に息子を殺したってのかよ……!」
「コル、落ち着いて。ごめんなさい、私が奴らの服装の一つでも覚えていればまだ違ったでしょうけど……」
短い静寂。
「三人共聞いて。私は例え両親を殺したのが魔人会であろうとなかろうと、どちらにしても魔人会を潰すわ。血の繋がりも関係ない。知らない親族なんかより貴方達の方が大切だもの」
「エミイ……」
「賛成だぞ、私はアイツらをもう許せねえ。正直誰の知り合いでもぶっ飛ばすつもりだった」
コルとオリセも頷く。
もはや魔人会と敵対する事に躊躇いは無く、エミイと魔人会の繋がりに関して邪推する様な事をする気も一切無かった。
「ええ……ありがとう。皆」
エミイは安堵したのか、隣に座っていたオリセにもたれかかる。
(……んっ??)
ここまであまりに自然だった為、気に留めていなかった事にコルが気づく。
部屋についてからというもの、見るからにエミイとオリセの距離が近い。
そして思考時間僅か2秒、コルは感づく。
(さてはこの二人、デキたな?)
脳内によぎる『吊り橋効果』という文字。
実際今回の事件は親しい人との繋がりを意識するには充分すぎた。
そうでなくても、先程エミイから聞いたオリセの勇姿にはコルも思わず心を震わされた程。
元々相性のいい二人だ、きっかけがそこだったのだろうとコルは予測した。
(……いや、違うな。これは『まだ』だ、タイミングがあれば行けるけど今は状況が状況だから最後の半歩が踏み出せないでいる!分かる……分かる……でももうそこまで行ったならだよ!このままじゃ曖昧なまま変に拗れる可能性もある……でも二人は10代後半繊細な年齢、年上としてここはあまり突かず、慎重に扱うべきだな二人のペースを大切――)
「そういや、お前達今日はいつもより仲いいな!……ああ戦場で更に絆を深めたか。うん、良いことだな!」
「ちょっ、ラニ!?」
コルの思惑を知らずに、ラニが切り込んだ。
しかし結果的に、コルのその思惑は『ズレて』いた。
エミイとオリセの気持ちまでは予想通りだったのだ。
しかし――。
「え?……ぁ、あっいや!これは!」
「……っ……っ!」
二人は今の状態を自覚していなかったのだ。
ラニに指摘されて初めて、自分達の感情と距離に気がついた二人は顔を真っ赤に染め上げ、もはや色々と言い訳の効かない状態だった。
そんな中、ラニだけが首を傾げている。
「あっっっ!ちょっとロッサ号の中を散歩したいかも!ああしたいしたい!ラニ、行こう!」
「え?あ?いいけど、なんか変だぞ?そういやさっきもそんな感じだったし……なあエミイ、コルがおかしくなっちまっ――」
「ああほら後で説明するから……!エミイはオリセの怪我を見てあげて!それじゃあ行ってきます!」
「あっ!おい!コル!?」
もはや気を利かせるどころではないコルが、不審な言動をしながらラニを引き連れて宛もなく飛び出した。
「……」
「……っ〜〜〜」
赤らめた顔を手で覆い隠すエミイと、見たこともない動揺っぷりを見せて落ち着きのない様子で自分の尻尾を触るオリセ。
いたたまれなくなったエミイはこのまま部屋を飛び出して仕切り直そうかとも考えたが、唾を飲み込み、そっとオリセの右手に左手を重ねた。
「ねえ、オリセ……貴方にはもうバレてるでしょうし、流石に私ももう気づいてるけど……」
「……ああ、今すぐという訳にはいかない……と、思う……」
「ええ、そうね。属する組織の危機に直面して、仲間を失ったばかりだもの。これからどう転ぶかも分からない……」
気まずい空気が部屋に流れる。
その空気を断ち切る様に、オリセはエミイの手を握った。
「ノヤリスは必ず歩み出す……だからその……環境が落ち着くまでは……少しだけ……その気持ちのままで待っていてほしい。その時は……自分から…………言う……」
様々な感情が渦巻く声色で、オリセは一言一言確実に呟く。
エミイはそんな彼に微笑み、再びもたれかかって目を閉じた。
「全く……私も同じ考え。でも私、あまり気が長くないから。なるべく早くお願いね?」
「……了解した」
その後コル達が戻るまで二人がどんな会話をしたのかは当事者である二人しか知らない。
しかし後に知れ渡る事だが、この事件をきっかけにお互いの関係を強める団員達は少なからずいて、この二人もその中の一組であった。
後に、オリセがエミイを泣かせたという噂が流れ、手を繋いで誤解を解きに回る未来が待っているのだが、それはまだ少し先の話。




