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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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英雄なんかじゃない

シーモが声高らかにその名を宣言するとコルがすぐさま反応した。

「ノヤリス……シタ神話、藍色の英雄?」

「ああ、藍色の英雄が悪魔に飼われる怪物の鎖を断ち切り、怪物と数々の冒険を繰り広げるお話、その鎖を断った斧、『ノヤリス』、団長はそこからつけたんだそうな、コルくん君神話詳しい?」

シーモが瓦礫から軽やかに飛び降りる、どうやら名乗りで満足したらしい。

「まあ多少は……アロルの小銃もシタ神話から名付けたんだ」

「フフ、そうかそうか、団長とネーミングセンスが近いようだ、後で紹介してあげよう!」

「下だの上だの言ってないで、早く続き話せ、解放とか世を変えるとかってなんだ!」

無駄話の気配を感じ取ったラニがすぐさま軌道修正する。

「おおっと失敬、じゃあここからは真面目に、そして手短に話そう」

そこからは無駄なく簡潔な説明が行われた。

付き合った時間の短い二人でもわかる、実にシーモらしくない真面目な説明だった。

シーモ自身もとても不満そうな顔をしていた。


ノヤリスは真っ先に突撃した龍の亜人の女、バハメロが創った組織で、現在団員は非戦闘員を合わせて46名、そのすべてが亜人である。

長い月日をかけて少しづつ亜人狩りの拠点を潰し、囚われの亜人を保護し、拡大してきたという事。

ノヤリスの目標は純人と亜人の対等な世界、そのために一般人を巻き込まず、亜人狩りの殺害も最小限に抑える方針と言うこと。

そして保護された亜人はノヤリスの拠点で非戦闘員として生活するか戦闘員として開放の為に戦うかを選べると言うこと。

それらを聞いてようやくラニが口を挟んだ。

「全部話すって事は、私達も保護の対象ってことか?」

「もちろん、亜人にとってどこよりも安全な場所が我々さ、悪い話じゃないだろう?キミにはぜひ戦闘員として参入して欲しいしね、それよりも問題は……」

シーモが視線を横にずらした。

「俺……だよな」

「そう、君は連れていけない」

そう、コルは純人である、亜人狩りではないにせよ、亜人の組織に入ることなど到底できない。

「コルは私の相棒だ!こいつが行けないなら私は行かないぞ!」

(いや……ラニにとってどっちがいいかなんて、考えるまでもないな)

ラニの考えに反し、コルの意見は別のものだった。

「……今聞いたことは全部忘れる、だからラニはシーモ達と――」

コルがラニを想って別れを切り出そうとした途端。

「いいや、湿っぽい話は嫌いだね!」

シーモが大声を出した、次は周りを気にぜず、むしろ聞かせる様に、戦闘が終わって帰ってきた者、作業中の者、それら全てに聞こえる声で。

「んっんん!いやぁしまったなあ!純人にワタシ達の秘密を知られてしまった!でも迷い込んだ一般人だから殺すわけにはいかないなあ!そうだ!一旦持ち帰ってから考えようそうしよう!」

周りの亜人達は揃ってため息をついたり首をすくめたりしたが誰も反対の意見を出しはしなかった。

「またなんかやってる……」という声だけが聞こえたが、すぐにそれぞれの作業に戻っていった。

「「……どういうこと?」」

「お、息ぴったり、今日は疑問ばかりで申し訳ないね、コルくんは友達を助けに死地へ飛び込んだ、英雄みたいじゃないか、なのにお姫様はワタシが守るから帰りなって言うのは、なんというか気持ちが悪いだろう?」

「お姫様呼ばわりされるのも結構気持ち悪いんだが、それよりその……純人を憎んでるやつだって多いだろ、私だってそうだった、そんなところにこいつを連れてっても――」

「安心したまえ、団員同士での私闘はご法度だからね、なるべくするっとコルくんをノヤリスに入れる、我々はラニくんという貴重な戦力を手に入れる、そして君達も仲睦まじくやっていける、互いの為になるいい話じゃなあないか」



「ただし団長に話つけたり有用性を示したり、ある程度作戦はあるけど、それでも難しい道のりさ、英雄とお姫様、君達はこれからどうしたいかな?」

コルは唾を飲み込んだ、未だかつてないほど心臓が早くなる、体がこれから起こることへの覚悟を決めたのだ。

「俺は英雄じゃない、ただの平民だよ、ラニもお姫様じゃない、むしろラニのほうが戦士って感じだ……俺もせめて戦士になりたい、ラニと一緒に戦いたい!」

ラニがニシシと笑い背中を叩く。

「お姫様扱いより好きだぞ、それ。お前が私と肩を並べるまで、私が守ってやるからな」

目隠しの奥でシーモの目が輝いた気がした。

「よしよしよし!ああ美しい相棒への愛!燃える炎の様であり堅い岩の様でもあり!ああやる気が湧いてきた!さ、そうと決まればまずは……っと」

シーモは急に落ち着いたかと思うとどこからともなく取り出したロープでコルの手足を縛った。

「え?」

「形だけでもこうしとかないとネ、おーいチャシくん、この子荷台においてきて、割れ物注意でね」

「お?おお!よく分かんねえがいいぞ!」

鳥の頭をした灰色の大男が羽の様な太い腕でコルを持ち上げ、天井の穴から地上へ飛んでいった、羽は使わず脚力だけで。

「……あいつ世界一亜人に担がれた男なんじゃないか……?」

「ワタシ達も行きましょう、ほら団長がお呼びだ、さてこれから忙しくなるぞう!主にコルくんとワタシが!」


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