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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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そう認識してしまったせいで

リンは即座に前に向かって飛び出した。

背後に気配は感じていない。

それでもチャシの緊迫した表情、『後ろ』というシンプルな言葉。

それらから背後を確認する余裕はないと悟り、一か八かの緊急回避を行った。

背後から空を切るような音がし、その行動が正解だった事を理解すると同時に、振り向く。

「……完全に不意をつくつもりが、ついてないな」

奇妙な声だった。

男とも女ともとれる不思議な声。

身にまとうローブすら不気味な造形で、表情以前にどこから前を見ているのかすらわからない。

「新手……ですか……」

先程の魔人会に続き、二人目の刺客。

しかしその刺客はチャシを担いだナノンロイド0号がリンの隣に立つまで追撃しようとはしなかった。

「ッ……ミクノ、そっから出てきちゃ駄目だぞ……おいテメェ!3対1で勝てると思ってんのか!?」

それは『ハッタリ』だった。

チャシは今、とてもじゃないが万全の敵と戦える状態ではない。

その上でリンとミクノの安全を確保する為、相手に撤退して貰うのが一番いいと考えた。

「……はあ、まあいいさ。君に挑んでも勝ち目はない。ワタシの目的はこれだからね」

そう行って刺客はヤカの死体を抱き上げる。

「待ってください、彼女をどこに連れて行くんですか?」

「……ああなるほど、『せめて埋葬してあげたい』、か……悪いけど、計画は最終フェーズに入った。こっちにも余裕がないのさ」

「最終……?」

リンが眉を潜めたその時、強い風が吹いた。

大地は大きく揺れ、突風によって火の粉と灰が舞い上がる。

「君達も、ワタシを追う余裕はない。なぜなら最後の『兵』がやってくるからさ」

リン達の正面を遠く指さす。

確かに音と風はその方角から向かっている。

そしてその方角は拠点のある方角、現在数名の団員が最終防衛ラインを敷いている場所だ。

「『それ』はこの森林火災の原因、最後にそれ自らが拠点にぶつかり、ここいら一帯は文字通り全て燃え尽きる。だから『一人』でも多く連れて帰らなきゃいけないのさ……せいぜい気をつけたまえ。怪物という意味では『骸骨』と似ているが、あれと戦ってそのザマじゃあ歯が立たないよ」

刺客は僅かな隙を見て去っていった。

まるで自分は無敵だとでも言うかのように、堂々と火の海を歩いて消えた。

その者の言う通り、リン達は追うこともできず、急いで拠点の方角へ向って走り出す。



その頃、最終防衛ラインでは先んじてその『気配』を感じていた。

ここまで漏れ出てきた雑兵は現時点で14体。

そのほとんどはオリセとエミイのみで対処できていた為、少しづつ防衛の人数を減らして避難を進めていた。

「余裕ができたと思ったのだけど……まだ何か来るわ……あれは……」

『最終兵器』は、突然現れた。

否、魔人会からすれば作戦通り、時間通りの投入であって、それが突拍子もないと思ったのはノヤリスの者だけだった。

それは火を放ち、火を喰らい、蓄え、ただ暴れる。

そんな名前のない火を吐く巨大生物を、彼等は自らの知るものに例える事しかできない。

「……虫……蟻か……?」

オリセが言うように、見た目は限りなく蟻に近い。

だがその大きさはとても虫とは言えない、ざっと見ても豪邸一軒の数倍。

まだ遠くにいるのに、近くにいると錯覚する程で。

オリセが今まで見た中で最大の生物、洞窟で見た針鼠の異獣よりも数段巨大な生物が、燃える木々を押し倒し、踏みつけながら進んできていた。

(この状況で現れた怪物……味方とは思えないな――)

「――エミイ、足止めを……」

背後にいる筈のエミイから返事が返ってこない。

冷や汗を垂らしながら振り返ると、予想通りエミイが震えている。

オリセは彼女が虫嫌いな事を知っていた。

パッと見て『虫』に見える得体のしれない生物もその対処なのだろうと思った。

「……っ……あ……あああ……」

ただ今回は、いつもの比ではなかった。

地べたに座り込み、呼吸が止まりそうなほど浅い呼吸を繰り返し、全身の水分が抜けそうな程の汗を流し、力の入らない足を引きずって情けなく逃げようとしていた。

「エミイ……?」

「……嫌……蟻……蟻は……」

「……わかってる、大丈夫だ……自分が戦うから一旦引いて代わりの増援を――」

そう言って、エミイを起こそうと肩に触れた、その瞬間だった。

「ッ……!嫌……!ああ、ごめんなさい!ごめんなさい……!ごめんなさい……!私……私は――」

突如、エミイが大声で泣き始め、蹌踉めきながら立ち上がる。

その時に、ゆっくりとこちらに向かってくる『虫』が見えたのだろう。

エミイはそのまま、大声を出しながら燃える森に向かって走り出した。


一瞬の葛藤。

防衛人数を極限まで減らした今、『虫』の対処はオリセがやるべき事だと自覚していた。

それと同時に、錯乱して燃え盛る森に単身逃げ出したエミイを放置する事はできない。

迷ったのはほんの一瞬だった。

「……エミイ!待つんだ!」

後を追って、森の中へ走る。

(どっちも守る……急いでエミイを捕まえ後方に送り、戻ってあの虫を自分が食い止める……あの前進速度なら……間に合うはずだ)

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