我々は!
「さてコルトリックくん、そのアロルの小銃?すごい発明だね、弾はあと何発残っているのかな?」
シーモは座ってくつろいでいた。
薄暗い部屋とは思えない、まるで休日の朝のような穏やかな声色だった。
ティーカップと新聞が見える気すらしてくる。
「残り5発、弾……というか針を飛ばすんだ、弾丸はコスパが悪くてな、あとこれは火薬を魔力で補うから丸より棒のほうが伝わりやすくて、それに――」
「二人揃って楽しそうなところ悪いな、現実が来るぞ」
前門の亜人狩り、後門の亜人狩り。
出口への正規ルートである廊下と、抜け道の通路、その両方から亜人狩りがなだれ込んでこようとしている。
「ああ……あっ!そうだ、急に居なくなるなよ心配しただろ!焦って最低限の武器だけで来ちゃったし!こうなるんだったらもっと色々作って持ってくるんだった!」
「うるせえ悪かったよ!準備は次からそうしてくれ!私はもう捕まんないけどな!」
外れた扉を力づくで抑えて最後の抵抗をする。
「そりゃ良かった!」
「同じ部屋に隠し通路が2個ある訳はないな、しょうがねえ、突っ込むぞ!……おいシーモいつまで座ってんだお前ぇ!」
シーモはまだ座っていた、そしてとても勝ち誇ったような顔をしていた。
目隠しで顔の半分が見えないのになぜこうも表情豊かなのだろうと2人は思う。
「ン?ああいやね、ワタシだって現実逃避してたんじゃないさ、君達が仲良ししてる間に何かないかなぁと辺りを見ていたのだよ」
シーモは重い腰を上げて天井を指さした。
「少し下がったほうがいい、そして喜びたまえ二人共、『我々』の勝ちだ」
天井が大きな音を立てて崩れ落ちる。
狭い部屋に瓦礫の雨が降り、そして光が刺す。
天井があった場所に現れた大穴は外まで続いていて、まるで空から何かがここまで落ちてきたかの様だった。
「到着だー!」
「ガハハハハ!団長はやりすぎだ!だがそれがいい!」
土煙と埃が舞う、しかしそれはすぐに吹き飛んだ、何故ならその何かが勢いよく飛び出したからだ。
「状況は全部わかった!吾輩に任せるのである!よし!ゆくぞゆくぞゆくぞー!」
亜人狩りの波に突撃するそれは人の形をしていた、そして角があり、尻尾があり、翼があった。
落ちてきたのは亜人だったのだ、それも数人。
「いまのって……龍……の亜人……!?」
「お?この小僧は……ガハハ!これは良くない!迷子だろ!死にたくないならどいてな!」
「あの穴塞いじゃっていいのー?」
「帰りに使うかもしれないとのことなので……それよりあっちの隠し通路らしき方を――」
突如騒がしくなったかと思えば龍の亜人の女、鳥人間としか呼べない大男、さらには自分らより幼い亜人の少女。
大暴れの彼らとは真逆に、唖然とするコルとラニ、そこに眼鏡をかけた犬耳の亜人の男が寄ってきた。
「この方々は保護したのですかシーモ、どちらも捕まっていたという雰囲気ではありませんが、僕たちは団長と違って見ただけではわかりませんので状況報告を」
「お疲れロナザメトくん、3日ぶり?相変わらず堅物だねえ、二人は協力者だよ。ワタシのピンチを助けてくれたのさ」
「ピンチ?だから無茶な潜入はやめなさいと言いましたよね、これで三度目ですよ、貴方は一度死なないとわからないのですか?……いや、今のは言い方が……ええと、危険ですから、僕は仲間に犠牲になってほしくないのです、ですから!」
「おおっとそれはさておき」
「ちっ……おいコラシーモ!話を最後まで――」
説教ムードを感じ取ったシーモが二人と肩を組む。
「この勇敢な協力者とその相棒がぽかんとしている、我々の事を説明してもいいかな?」
ロナザメトと呼ばれた男はコルに冷たい目線を向けたが、なにかにハッとし優しい雰囲気の目に変えた、しかしどこかぎこちない。
「はぁ、わかりました、その男のことは後にしましょう、僕は団長が暴れているうちに最下層の亜人を保護してきます、ちゃんと説明しておいてください、無駄話をしないよう、すぐにすませて待機してください!」
ロナザメトは階段を降りていった、下から今のも悪い言い方だったのでは……?と声がした。
「これが本命……シーモの仲間か、今の全員亜人だったな?」
「それも説明するさ、静かに聞いてネ、しかしどこから話そうか……っといけないいけない無駄話をしそうだった、怒られてしまう」
「じゃあ俺から質問するよ、あんた、いや、あんたたちは何なんだ?」
「たしかに、これは紹介から入るのがよさそうだ、こういうことはリーダー格に言ってほしかったから黙ってたのだけども」
コルとラニを椅子に座らせ、瓦礫の上に登り、咳払いを一つ。
シーモは両手を広げ声を高らかに、しかし他の亜人達の作業や戦いを邪魔しない程度の声で宣言した。
「我々は!亜人が虐げられる世を変えるため、こっそりと戦力を拡大してきた!不条理と戦う秘密の組織!そして隷属の鎖を断ち切る斧!!」
近くで物が壊れる音がする、恐らく『団長』と呼ばれた亜人が壁でも壊したのだろう。
普通であれば聞くに堪えない騒音だが、椅子から瓦礫の舞台を見上げる二人にとっては、それも演出のような物だ、演劇を見たことのないラニですら胸が高鳴る。
「我々の名はノヤリス!『亜人解放団ノヤリス』さ!」




