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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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エミイvsオリセ

穏やかな昼下がり。

天気が良く、拠点を囲む迷路の森がそよ風に吹かれて木の葉を落とす。

襲撃作戦が完全に終了してからの数日間、ノヤリスの拠点は平和だった。


エミイは庭で一人、空を眺める。

程よく散らばった雲が太陽を隠し、暑すぎず寒すぎない。

外に立つにはちょうどいい環境だ。

「あ、エミイねえ、こんにちは」

そのためか、エミイは散歩中のミクノと遭遇する。

「ええ、こんにちは……あら」

ミクノの後ろには彼女と同年代くらいの少女が隠れている。

やせ細った彼女は以前、カトリス襲撃作戦で開放された亜人の一人で、一本の白い角と翼を持つ悪魔系。

ボスであるラッパーの抵抗により人質となり、その後全身が赤く染まる程の血を浴びて以来、極力人前に出ようとしなかった少女だ。

「……こんにちはシェリー」

「……に……は……」

ミクノが長らく同世代の友人として付き添った事で少しづつ心を取り戻していたシェリー。

今ではミクノの付き添いがあれば外を散歩するくらいであればできるまでには回復していた。

エミイが優しく頭を撫でると、シェリーは顔を赤くしミクノの陰に隠れる。

「ところで、エミイねえもおさんぽ?」

「人探しよ、二人共、ラニを見なかった?連絡用の鈴も忘れてどこかに行ってて……」

「ラニねえならばしゃにのってたよ」

「馬車?いつ?」

「きょうのあさ、きょうははやおきだったから、まだちょっとよるがのこってたくらいのあさ」

エミイは頭を抱えてため息をつく。

昨夜、コルから連絡があった。

じきに駅に着く、そこから迎えの馬車に乗って帰るという内容の連絡だ。

(おおかた、早く会いたくて迎えの馬車に乗り込んだんでしょうね……)

ふと、エミイが視線をそらす。

少し遠くから、同じくラニを探すため別行動していたオリセが向かってきているのが見えた。

「……二人共ありがとうね」

エミイはまだ少し大人の男に抵抗のあるシェリーを気づかい、小走りでオリセに駆け寄り、そのまま服を掴んで庭の拠点入口側まで引きずって歩いた。

「――という訳だから、少し待ちましょう。少ししたらコルに連絡するわ」

「……了解した……」

「はあ……全く、人騒がせなんだから……まあいいわ、オリセ、貴方、今日は暇よね?」

オリセは黙って頷いた。

「ならちょうどいいわ、私も暇なの、魔術訓練でもどう?」

「……賛成だ」


話し合いの結果、二人は実戦に近い形での訓練をすることにした。

とはいえ訓練用のレギュレーションが存在し、使用できる魔術は二詠唱以下の簡素で低火力の魔術に限定される。

一定の距離を取り、エミイが小石を上に放り投げる。

この石は訓練における暗黙の了解。

小石が地面につく事が、試合開始の宣言となる。

「地……石……『射出』……!」

「地、石、『射出』!」

奇しくも二人の作戦は同じ、小石の着地と同時にその小石を相手に向って飛ばす事だった。

異なる方向に向かう力を抑えきれず、小石はそのまま破裂してしまう。

「地……土……!」

魔術使い同士がこの距離で戦う時、最も求められるのは瞬発力だ。

相手の詠唱を聞き取り、理解し、発動までにそれを受ける魔術を発動するか、それとも発動前に攻撃の魔術を発動するかを決めなければならない。

だがそれは実際の戦闘での話だ。

「水、雫……!」

盛り上がる地面に足を取られ倒れ混むエミイは次の為の詠唱を始めていた。

魔術に置いて『二詠唱』でできることは限られているが、それ故にシンプルで発動までが早い。

エミイはオリセが使おうとしている魔術が次のための布石であり決め手ではないと理解した上で止める事が不可能だと悟り、追撃の妨害に動いた。

「……!」

エミイの魔術によりオリセの足元が水浸しになった。

直ぐ様散々魔術により掘り起こされた土と混ざって泥沼となり、抜け出す為に一瞬の隙が生まれる程度には深く足を取られる。

この時のオリセは冴えていた。

次のエミイの手を予測することができたのだ。

その上でオリセが選んだ選択肢は一つ、同じ魔術を用いて出力で押し勝ち、そのまま試合を終わらせる為の展開へと運ぶことだった。

「「風……!」」

一詠唱。

魔力を込めるに釣り合わない、攻撃と呼ぶには物足りない、足場の不安定な人間を転倒させるのがやっとといった火力の魔術を同時にぶつける。

本来、これは奇策と呼ばれる様なものであった。

それ故にエミイはこれを封じられるとは思ってもいなかったし、たかが一詠唱で起こせる風の出力で押し負けるとも思わなかった。

「きゃ……っこの!」

それでもエミイは少し後方に吹き飛ばされただけで体制を立て直す。

その時間はオリセが泥沼から抜け出し立て直すのとほぼ同時だった。

「……!」

「ぁ――!」

再び、詠唱をしようと二人が息を吸った時だった。

強い風に吹かれて揺れた木から、一匹の毛虫が落ちる。

そして不幸なことに、その毛虫はエミイの首筋に触れて服の中へと滑り落ちた。

「……ッ〜〜〜〜〜!」

鳥肌、涙目、青ざめた表情。

感情を表す情報すべてが助けを求めている。

オリセは訓練を一時中断して毛虫の排除に駆けつけた。


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