さらば最高傑作
思いの外工場を回るのに時間を使っていたらしく、話が纏まった頃には日が沈み空が赤く染まり始めていた。
夕陽を窓から眺めつつ、コルは鞄から自分の作った物をサナダに差し出すため順番に並べて行く。
直近の長距離移動機車で作った磁力を操る手袋、『ネアリールの掌』。
カノヒ棒を投げやすい様にナイフ型にし、伸縮機能を捨て目眩ましに特化させた、それ以上でもそれ以下でもなく、かなり飛んで光るナイフ『カトヒナイフ』。
他にもノヤリスに身を置いてから作って来たはいいものの現状、特に出番も無く名前すらまだ考えていない細かな物も取り出す。
これはコルに取って時間稼ぎの様な行為だった。
「……で、次はこれ」
大陸で一番小さく、命中率に難はあれど射出した針が刺さった生物を強制的に痺れさせる銃、『アロルの小銃』。
コルの自信作にしてこれまでこの武器を軸にした戦い方をしていた為出し惜しむのも無理はない。
更にコル自身、アロルの小銃を完成させたのは奇跡だと考えている程にある日偶然出来上がった物で、ここで渡してしまえばまた作り直すのは骨が折れると解っている事も理由の1つだ。
しかしその抵抗も空しく、サナダの目は確かだった。
「ははーん一目で解る、これが本命、『最高傑作』だろう」
「ぐ……」
「随分小さいが……銃?弾は……ふむ、ここが回る様になってるのか……」
サナダはアロルの小銃を持ち上げあらゆる角度から眺める。
「そんなじろじろ見ても……いや、おじさんならわかるか……ってちょっと!」
熱心に考えるあまり不用心に銃口を覗き込むのに危険を感じ、コルは一度銃を取り上げた。
その後、少し席を離れたサナダが鞄一杯の部品と手紙を持って戻ってきた。
「これだけあれば例の物には足りるだろうからひとまず、ほい」
「……!ありがとう!こっちは?」
「おっと、中を見るなよ?その手紙は組織の責任者に渡しとくれ、支給品の受取り方法が書かれてある……それよりコル、約束通り」
「ああ」
コルは扱いに気をつける様釘を刺した上でアロルの小銃を手渡した。
それだけ持ち帰っても仕方がないので発射される針も全て渡す。
「よし、それじゃあ名残惜しいけど」
「もう行くのかい、機車はまだ出ないだろう?」
「帰りは行きより短い分早めにいい部屋を取るって決めてたんだ、それに俺がいたらおじさんが仕事サボるからね」
アロルの小銃以外の荷物を仕舞い直した鞄を持って部屋を出ようとする。
そこでコルはもう一つ、ついでの用事を思い出し、首から下げたお守りの歯車をサナダに見せる。
「あっそうだ、ちょっとこれ見て」
「なんだお洒落なアクセサリーじゃあないか」
「詳細は省くけど、この歯車に不思議な力があるかもって言ったらどうする?おじさんならなんか知ってるかもって思ってたんだけど」
「ふむ……どれ、貸してみたまえ」
歯車を受け取ったサナダはアロルの小銃と同様にあらゆる角度からじろじろと眺める。
その表情は次第に険しくなっていった。
「うーん、凄いなこりゃ」
「凄いって?やっぱ神秘的ななんかが宿ってたりする?」
「……というより、相当古い。オレが産まれるより前の部品か?いや、時代的にも組み込まれてたって感じじゃないな?時代を先取りすぎた発明家がちょっとした機構もどきを作ろうとして失敗したか……なんにせよ中々の骨董品だ……どこでこれを?」
「ナドスト村跡地っていう所」
「危険地帯じゃないか!?通りで眠ってる訳だよ……しかし売れるとこ売ればかなりの値が着くぞ、なんならオレが買おうか?」
コルは一瞬資金調達のチャンスかと悩んだが、お守りを売るという行為に何処となく拒否感があり断る事にした。
「駄目、返して」
「冗談さ冗談……こういう仕事してると『部品の気持ち』がなんとなくわかる気がする。コイツはオレよりコルがいいって言ってる気がするよ」
「それも冗談?」
「はっはっは、それはどうだろうね」
サナダに見送られ、コルは疲労を感じながらも帰路についた。
長距離移動機車はチケットを買えば発車まで好きに出入りしても良い。
コルは行きがけにこっそり狙っていた部屋が既に購入されていた事に少し落胆しながら行きと同じ部屋に荷物を下ろし、ノヤリスの仲間達に思いを馳せながら発車の時を待つのだった。




