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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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社長の顔

客室に通されたコルは出された紅茶を一口飲んでからサナダに問いかけた。

「良かったの?」

「ん?ああ予定の事か、心配ご無用。こういう時に無理を通す為に散々働いているのだからね!」

サナダは自分用の紅茶も用意しコルの対面に座る。

客室はどこを見てもそれなりに値の貼りそうな家具やソファーが並んでおり、本来それに見合うだけの人物が通される場所であると伺える。

詰まる所、サナダ自身もまた『それに見合う人物』であるという事だ。

しかしサナダはあくまでリラックスしたプライベートといった雰囲気でコルに接していた。

「あとはミツルギちゃん……あ、さっき後ろにいたオレの秘書の事。彼女がうまいことやってくれるから」

「ああそういう関係か……」

「ん?」

「いやごめん、俺と同じくらいっぽかったから、おじさんの娘でもおかしくないな〜ってちょっと思っただけ」

サナダが顔を引き攣らせる。

「オレは未だ独身だよ、なんだが……」

「……?」

サナダの表情は自分の境遇に関して気まずく感じているだけでなく、何か関連した別の問題があるかの様な雰囲気を醸し出している。

コルがそれを感じ取った時、サナダは既に話を逸らす為に早速本題に入ろうとしていた。

「それで、そんな独り身おじさんに何の用だい?」

「ああそれは……」


コルは鞄から設計図を取り出した。

ここに来た目的は、ノヤリスで制作中の空飛ぶ船、移動拠点『ロッサ号』。

その一部の機構に使う部品が廃材から集めた部品を使う事ができず。

負荷の大きい機構に耐えられるイプイプカンパニーの作った高度な部品をそれなりの量入手しなければならない。

取り出した設計図はその部品周りの物だ。

「……ほー、こりゃまた凄い物作ろうとしてるなぁ……ドデカい何かの一部分だろう?コレ」

(流石に空飛ぶ船の操舵室に使われるとは思わない……よな?)

コルは一度ソファーから立ち上がり、紅茶を置いた机の横の床に座り直した。

「お?」

「すう……ふっ!」

そしてそのまま手を付き、頭を思い切り床に打ち付ける。

古より伝わる頼み事をする際、最大限気持ちを伝える方法の一つ。

土下座である。

「それを作る為に足りない部品をください!」

「やっぱりそう来たか、確かにこれを完成させるにはうちのパーツが結構必要だろうね……とりあえず一旦頭上げて?」

言われた通り頭を上げると、そこにいる伯父の雰囲気が少し変わっていた。

どこがどうという変化ではないが、間違いなく心境の一部が『1企業の社長』のモノに切り替わっている。

「わざわざここまで機車で来た……それだけのお金はあったのに他国に出店されてる店で買わなかったってことはそれなりの理由があるはずだ、『必要部品が多く機車代より高くなる『店に入れない事情がある』それか、『作ろうとしてるものに事情がある』……コル、一応聞くけど、コレ、何に使う機構?」

「えっとそれは……」

コルがノヤリスの事、ロッサ号の事をどこまで開示していいものか一瞬考えている間に、サナダは設計図を読み込む。

「ふぅむ……うちのパーツレベルじゃないと負荷に耐えきれない……そしてこの導線この構造、魔力以外のエネルギーを流そうとしている?このサイズ感でそれができるなら開発者は天才だな……エネルギー源次第では船が空を飛ぶレベルの動力だ……にしても字が可愛いすぎる、お前が書いた訳じゃないんだろう?」

「言えない……何に使うかも誰が書いたかも……」

「お前なあ」

「わ、わかってる!これだけじゃおじさんにメリットが無い、でもコレはどうしても必要なんだ……お願いします……なんでもする、全部終わったら俺の全てを支払ってでも……」

コルは再び頭を床に擦り付ける。

今はただ、自分がどうなってもサナダの善意に縋るしか無かった。

「だったら尚更さ、何故そこまでするのかが気になって仕方ないじゃあないか」

「ぐっ……」

「第一、オレはこれでも一企業の社長。コルに限ってそんな事はないだろうが、社長が流したブツが悪さに使われたら信頼も何もなくなってしまうだろう?」

「ぅ……」

「その上で改めて質問なのだけど、コレ、何に使うつもりだ?」

コルもサナダの言うことはもっともだということを理解できない程子供ではない。

頭を下げたまま脳を回転させ、どう言いくるめたものかと考え込む。

しかしまるで案が浮かばない。

強奪や脅迫という手も無くはないが、相手が親しい親戚でなくともコルがその手を選ぶ事は無いからだ。

「……と、ここまでがカンパニー代表として。そしてここからは親戚としての意見。オレは心配なんだよ、家を出てなんか悪い連中とつるんでるんじゃないかって」

「っ……ぅ……」

コルはうめき声を漏らしながら深く考え込んだ。

理由を話し筋を通すまでサナダは折れないだろう。

だがこのままでは埒が明かない。

何が何でも部品を手に入れることこそ自分に任された務めだ。

ロッサ号が完成すればノヤリスは確実に一つ前に進む事ができる。

コルはどうしてもその未来が欲しかった。

「……わかった、少し長くなるかもだけど、聞いて欲しい」

コルは震える声で、ラニと出会った日からこれまでの事をなるべく細部を濁しながら話し始めた。

親しい叔父が亜人に対しどんな印象を持つかは知らない。

差別的感情に関する話は心情に大きく踏み込んだ話で、これまでした事がないからだ。


ラニと出会った事、父を殴って家を出た事。

ラニと暫く放浪し、解放団に出会った事。

拠点での鍛錬や生活。

次なる目的の為にロッサ号を完成させ技術力を知らしめなければならない事。

そしてコルがここにたどり着いた所で話を区切った時。

サナダは本を一冊読み終わり、その余韻を感じている様な表情でソファーにもたれかかり天井を眺めていた。

「ふう……大きく出たな……国を味方につける為に船を飛ばして見せつける?そんな技術どこの国だって欲しがるに決まってるじゃあないか……技術力だけじゃない、今の話がほんとならそのノヤリスを傭兵に雇った国が他国に武力で優位を取れる……武力国家のレマンをミスタルやノイミュが武で抑える事だって……」

「今話せるのはこれだけ……亜人であることは悪じゃない、だから国と話をして平穏に生きられる場所を確保する。その為にもまずはロッサ号を完成させなきゃいけないんだ」

唾を飲み込み、サナダを見つめる。

ここからサナダがどう動くか次第で、コルは次の行動を即決しなければならない。

(こればかりは祈るしかない……頼むおじさん……わかってくれ……っ!)

ようやく体を起こしたサナダは深く息を吐いてから立ち上がった。

「……少しついて来とくれ、工場見学をしよう」


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