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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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ある純人の回想『夢』

現在から約20年前。

ラフムと呼ばれる田舎の村に一人の男の子が産まれた。

今となっては産業の4割を機械が支えているが、この当時はまだ人の手による農業が盛んなこの村。

村に広い果樹園を持つ両親から愛情をもって育てられた男の子は、母が好きだったおとぎ話に登場する心優しい主人公にあやかり、『コルトリック』と名付けられた。


それからコルと呼ばれる様になった彼の人生最初の転機は、8歳の頃だった。

コルは両親の願い通り心優しい少年に育っていたが、そのせいか年上には遠慮をし、年下には世話をやく。

田舎故に同世代の子供もおらず、友人と呼べる関係になれる相手がいなかった。

この日もいつも通り、他にすることもないので庭に置かれた机で一人、積み木を使って遊んでいた。

「……?」

ふと気配を感じ、玄関の方を見る。

そこには見知らぬ筋骨隆々の大人が立っていた。

見たこともないシルエットの服装、薄汚れた大きな四角の手提げ鞄。

反対の手には何かのメモを持っている。

そしてその顔はまるでコルの母、マユラをそのまま逞しい男にしたようだった。

「お、お客さんですか?」

コルは恐る恐る男に話しかける。

「ん……?」

男はコルを見るや否や眉間に皺を寄せたかと思うと、しゃがんでコルと視線の高さを合わせてからコルの顔をジロジロと見つめた。

「名前は」

「……こ……コルトリック・ルーンタグ、です」

「……」

「……」

男は視線を反らさず、まっすぐコルを見続ける。

威圧感な表情と低い声。

コルは少なからず恐怖していたが、ここで泣き出しては客人を困らせるかもしれないと思いぐっとこらえた。

それでも涙が零れそうになった時だった。

玄関の扉が勢いよく開き、そこから現れた母、マユラが男を突き飛ばしコルを抱きかかえる。

「ストーップ!うちのこが怖がってるでしょ……ってあれ?」

「いったぁ……違うんだよマユラ……『甥っ子』の顔が見たかったんだけどついさっき眼鏡ぶっ壊しちゃってえ……」

そこそこの距離を飛ばされた男は腰を擦りながらフラフラと立ち上がる。

「お兄ちゃん!?」

「そう!君のお兄ちゃん、サナダ・イプ・ライトさ!久しぶりだな私の妹、そしてはじめましてだ私の甥っ子」




急な訪問だったにも関わらず、兄のサナダを部屋に通したマユラはひとまず突き飛ばした時に受けた傷の手当をすることにした。

「ごめんねお兄ちゃん」

「いやいいんだ、子供ができたとは手紙で知ってたけど、見に来るのが8年も遅れたオレにも非がある」

「そうよねやっぱりお兄ちゃんが悪いわ」

「ウン、いくつになっても変わらないな!お前は!」


手当を終えたマユラはサナダの座る場所とは反対の方向に向かって話しかけた。

「コル?出てらっしゃい」

扉の隙間からコルがひょっこりと顔を出す。

まだ少しサナダに対して警戒心があるのか、それ以上近づいてこようとはしない。

「ほら、すっかり怖がっちゃってる。大丈夫よコル、このおじさんはお母さんのお兄ちゃん。無害よ」

「……ミグライネズミとどっちが無害?」

「全然このおじさん」

ミグライネズミ。

果物を主食にするネズミに近い種の害獣。見た目が気持ち悪く、農家や女性に嫌われている。

「今オレ妹に害獣以下って言われた?」

サナダは軽く凹んだものの、サナダとコルの物理的な距離は少し縮まっていた。

「くぬぬ……ちょっと近づいたのは判るけどやっぱ顔が見えないな……」

眉間にふたたび皺がより始める。

「また目悪くなったの?」

「このままじゃ顔見るために近づきすぎて甥っ子のファーストキス奪ってしまう、ちょいと机借りるよ」


サナダがぼんやりとした視界で四角い鞄を机の上で開ける。

少し離れた位置からそれを見ていたコルには鞄の中身が見えないが、カチャカチャと何か硬いものが触れ合うような音だけが聞こえた。

サナダが椅子に座り、眉間の皺を更に深くしてそれを弄りだす。

コルは不思議とそれが気になり、警戒を忘れて近づいた。

机が高くよく見えなかったところをマユラに抱きあげられ、ようやく彼が何をしているのかを見ることができた。

しかし幼いコルに、それが何をしているのかは理解できない。

「何してるの?」

集中している様子だったので、マユラにだけ聞こえるように小声で問いかける。

マユラは少し微笑み、同様に小声で返した。

「眼鏡を作ってるの、それも自分専用の特別な眼鏡をね」

「特別?」

「ええと、なんだったっけ……遠くを見たり、距離を測ったりとか、光ったりもするんだっけ。お兄ちゃんは魔術を使わずに色んなことができる道具を作る『発明家』なの」

「発明家……」

眼鏡がない状態での作業には慣れているのか、サナダは形を確かめるように部品を触って判断し、組み上げていく。

最初はただの鉄だった者達が、とても器用には見えない太い指によって段々と形を作っていく。

その光景はコルにとってこれまでの短い人生で一番輝いて見えるものだった。

「よし、完成だ」

サナダが時間にしてわずか数分で出来上がった眼鏡をかけ、コルの方を見る。

その表情は柔らかく、眉間の皺は一本も無かった。

「……ははっ、いい面してるじゃあないか!お母さん似、つまりオレにも似てる。こりゃいい男になるぞぅ」

先程まで部品を繊細に扱っていた大きな手で、ワシャワシャと頭を撫でる。

この時既に、コルの警戒心は興味へと変わっていた。

「おじさん、あの、それもっと見たい……!」


明るく気さくなサナダが、コルと打ち解けるのは早かった。

サナダの手解きを受け、機械弄りの基礎を学んだコルは急速にその奥深さにハマっていった。

元々仕事が空いたタイミングで顔を見せに来たサナダはルーンタグ家に一週間滞在して帰ったが、コルはその後も機構を弄り続けた。

年に数回、サナダが家に来ては更に技術を教わった。

コルがそれらを完全に身につけた頃、少しづつ世界では魔術よりも工業技術のほうが優れているという認識が広まり始める。


この時のコルには将来の夢があった。

それは時計技師になること。

片手で持てる懐中時計も、数え切れないほどの部品で作られているという事にロマンを感じていたからだ。

コルの父、ゴムトは果樹園を継いでほしいと思っていたが、今まで退屈そうだったコルが目を輝かせて語る将来に、水を指すほど無粋ではなかった。


コルはのんびりと生きていたが、進む先はまっすぐ夢に向かっていた。

果樹園の手伝いをする時も、伯父の会社が新聞に乗っていた時も、母が病にかかった時もそうだった。

それでも20歳の夜、コルは少し寄り道する事にした。

例えその結果、自分がなりたかったものになれなかったとしても、自分が培った物が誰かの力になれるなら、それもまたロマンのある話だと、そう思ったからだ。


ここからは作者の独り言なので読まなくてもいいです↓


今回で亜人解放団ノヤリスは100話になりました

見てくれる人々のおかげです

誰に見せたくて書いてるって訳でも無いですけど誰か見てるって思うと頑張らなきゃってなるし

毎週更新直後に読んでくれる人が数人いるだけでも続ける理由になるし

1話から最新話まで一気見した人がいた日なんてもうビビリます

欲を言えば感想をください 未だに批評と誤字指摘が無いのは怖いです 

特に誤字なんて無いわけないんだから!


話の進み具合としてはもうすぐ折り返しの予定です

予定ですが相変わらず話作りが下手でまだまだ長引きそうです

サプライズニンジャ理論って知ってます?

突然ニンジャが現れてチャンバラした後話が終わった方が面白いならその話は不出来だって理論なんですけど

現状この作品で批評を貰ってない私の一番の敵はその理論です

だってニンジャがチャンバラするだけで面白いんだからハードルが高すぎるじゃん

何回も脳内ニンジャが『おっ?出番?全部終わらそか?』と囁くものだからムカついて作り出したのが白兎忍者のクド君です 

結果的にチャンバラより不意打ちメインのキャラになはりましたけどニンジャってそうだよね本来

もうどうしようもなくなって無理に終わらせたくなったら彼がチャンチャンバラバラし始めます

そうならないよう頑張りますのでもう少しお付き合いください

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