コナギ鳥に罠
火は熱い、そんな子供でも知っている当たり前の常識。
当然ラニも火は何度も使ってきた、幼き頃には近づきすぎてやけどをしたこともある。
しかし今この狭い廊下を飛び回る白い火はそうではなく、ほんのりと暖かかった。
扉を塞ぐバリケードが容易く押し破られて数分、狭い倉庫に亜人狩りが押し寄せてこないのはこの白い火が道を阻んでいるからだった。
自分の魔術を信じているのか、それとも慢心からか、シーモは火を出した後、椅子に足を組んで座っていた。
「火……じゃない、光だな」
「正解、ワタシの得意分野さ、魔術は詳しくないと言っていた割に察しがいい、もしかしたら始めて見れば才能があるかもしれないよ?」
「いや、あいつらと違って落ち着いて近くで見たからだ」
ラニが目を向けたのは部屋の外、そこには必死で白い火、いや、火のように見える光の魔力を、なんとか消そうと必死で水をかける亜人狩り達の姿があった。
「ああ、完全にパニックだね、少し落ち着いて見れば熱くも息苦しくもないし、煙すら上がってないのに、まあ狭い空間の炎っていうのは不安の種さ、もうしばらく持つだろうね」
シーモは指でぼんやりとした光を弄って遊んでいる。余裕の表れだろうか。
(シーモはこう言ってるがそれまでに本命ってのは来るのか……?何か状況を変えるような何かは……)
ラニが痺れを切らして、突撃も視野に入れ始めた時、扉とは反対側の壁が音を立てて開いた、隠し通路があったのだ。
シーモはそれを見て瞬時に弄っていた光を投げようとしたが、隠し通路から出てきた男がラニを引き寄せたのを見て構えるだけに留まった。
「おや……それは計算外かな」
ラニも当然抵抗しようと拳を振り上げたが、その拳は振り上げたまま降りなかった。
「……コル!?」
出てきたその男はコルだった、数分前まで付近を血眼で彷徨っていたのだが、シーモの光を見て拠点の位置を掴んだのだ。
いつもより余裕のない様子で警戒心をむき出しにしている。
「魔術使い!あんただな、ラニを連れてったのは……!」
コルはシーモに持ってきた道具、『武器』を向けた。
「おお怖い、落ち着き給えよ優しそうな青年、それは銃……なのかな、やけに小さいようだけど?」
シーモは突然のことに驚いていたが、両手を上げながらも落ち着いて思考する。
この世界における銃とはすべて手順を踏んで弾を込め、両手で構えて初めて意味を成す兵器、今向けられている小さな武器は脅威ではないと判断したのだ。
(それにあんな青年が銃や弾なんて高価な物を買えるとは思えない、もしや自分で作ったのか?だとすればなお武器としての性能は低いは――)
その想定は半分当たり、半分外れていた。
危険を察知し体をずらす、小さく空を切る音がしたかと思えば、すぐ後ろの壁に雷を纏った針のような物が刺さっていた。
動かなければぎりぎり肩をかすめていたという位置だった。
「コルそいつは!」
コルはラニを必死に隠し通路に押し込む。
「逃げるんだ!その通路は外に繋がってる!こいつは俺が……!」
シーモの表情から余裕が消えた。
(……いい技術力だ、精度は低いが威力はある、銃口を向けたままということは次弾装填済、そしてあの目、本気だ)
「前言撤回だ、恐ろしき青年よ」
「ッ!?」
次の瞬間、コルが目を閉じた、否、閉じさせられた。
シーモがコルの目前に小さな光玉を出したのだ。
一瞬の目くらましだがここは狭い倉庫、確実に無力化する間合いに着く為には、一瞬の隙で十分だった。
あまりに急な事で銃口を向けなおす事もできず、コルはただ死を覚悟して詠唱を聞くことしかできなかった。
「光、閃こ――あだっ!」
だがそれはラニの手によって止められた、物理的に、頭への手刀によって。
そしてそのまま唖然とするコルに近づき、こちらにも手刀を振り下ろす。
「いったあ!?なんで……」
「すぅーー……はぁー……話!!聞け!!」
数分後
ラニは二人を並べて正座で説教、手短に紹介と状況説明をし、コルとシーモを和解させた。
「シーモは亜人だったのか……でもこいつが魔力ぷにぷにやってたのが悪いよ、紛らわしい!」
「手持無沙汰でね、許しておくれ、それとやはり君はよく見るとやっぱり優しそうな顔だようん、あと良い匂いだね、初恋の果実の匂いだ、家が果樹園だったりするかい?」
何こいつ怖くない?と目で訴えるコルに知らん慣れろと目で返す。
「それよりそろそろ亜人狩りがそっちの扉から来るからそのよくわからん銃?で……」
ラニはコルの登場シーンを思い出し何かが引っかかる。
「なあコル、それ隠し通路って言ったな、じゃあここの連中が知ってるんだよな……?」
「そらそうでしょう、俺もここに入ろうとしてるやつ見つけたからこの最高傑作『アロルの小銃』でぱしぱしと……あっ」
ほんのりと暖かかった部屋に悪寒が走る。
「君たちが思ったことを代わりに言おうか、これ、最悪挟み撃ちじゃね?かな」
その最悪はすぐに訪れる、隠し通路から足音が聞こえた。
それと同時に廊下から「これ炎じゃない!」「熱くないじゃないか!」「騙しやがって!」という怒号が聞こえ始めた。
「果ての国ににこういうことわざがあるそうだ『コナギ鳥に罠』ってね」
「俺が知る中でも一番弱い動物の代表が出た時点で嫌な予感しかしないけど、一応聞くな、どういう意味?」
「フフ、『死ぬかも☆』っていう」
膝から崩れ落ちるコル、大きなため息をついて全員殴り倒す計算をするラニ、再び椅子に座るシーモ。
それぞれ別の方向を向いたが誰も上は向かなかった、天井しかないのを知っていたからだ。それ故に三人はその天井が揺れ、ひびが入ったことに気づかなかった。




