無能だと言われてパーティを追放された僕、実はガチで無能すぎてどうしようもないけどダメンズ大好き激甘爆乳お姉さんだけはめちゃくちゃ甘やかしてくれます
「ユウタ、おまえは追放だ」
所属するEランクパーティのウェンの言葉に、僕は度肝を抜かれて目ん玉ひん剥いて顔の穴という穴から液体を垂れ流しつつギルドの床に転がってしまった。
「なんで!? 僕のなにが悪いって言うのさ!?」
「いや言動ッ!?」
剣士でリーダーのウェン、魔術師のロッテンゲート、弓使いのガブル、斥候のセッコーが気味悪いものでも見たかのような顔をして、僕から三歩くらい離れた。
みんな、この二か月間ずっと一緒に冒険していたのに、どうして遠ざかっていくんだ。
僕は悲しい。心の距離が開いてしまったようだ。
「あら~ユウタちゃん、お顔ぐしゅぐしゅでちゅね~。
ほらお姉さんが拭いてあげる、は~い」
「ありがと、お姉さん」
「いいのよ~、ユウタちゃんのお世話はぜんぶ私がやったげまちゅからねぇ~」
「えへへ~」
そして、床でじたばたする僕にスッと膝まくらをして、いい匂いのするハンカチで顔を拭いてくれているのが、"ジ・エンド"、"絶望の果ての魔女"、"世界の終わりを見る者"、"大銀河"、"男の趣味終わってる"の異名でおなじみ、激甘爆乳お姉さんのニグラスさんだ。
膝まくら状態だと爆乳が僕の顔の上にのって、とても柔らかい。
悲しさで傷ついた心が癒されていく……。
「で、ウェン。僕のなにが悪いって言うのさ」
「立てや!!!!!!
まず立ち上がってから言えや!!!!!!」
「諦めろ、ウェン。
コイツはもう魔に魅入られて戻ってこれな――ぐうぇっ」
「うふふ」
おっぱいで視界がふさがれているからよくわからないけど、ロッテンゲートの声が途中から消えた。
なにが起こったんだろうか。謎だ。
「ユウタちゃんがダメンズなのは認めるけどー、ていうかソコがいいんだけどー、次にお姉さんのことを『魔』だなんて呼んだらぁ~……ね?」
「ロッテンゲート!? おい、ロッテンゲート!!」
「な、なんてひどい……!!
なにも肺をエラに変身させることないじゃない!!」
「魔術師なら簡単に解除できるわよ、そうね、SSSSランク程度の実力があれば五年で解けるわ」
「しっかりするセコ! だれか、だれか医者を呼ぶセコ!!
魔術師ならって、詠唱もできない体にしておいてよく言うセコね!?」
「あら、真の魔術師なら詠唱なんて不必要よ?
お姉さんみたいに、ね」
なにかが起こったらしい。
冒険者にとって危険は身近。ロッテンゲートは警戒を怠ったのだ。
やれやれ、僕のように常に警戒心を持ってもらわないと。
僕は体を起こすためにおっぱいを持ち上げようとし――持ち上がらんわコレ。
持ち上げようとしても指が沈んでいくだけだわ。
なんとか持ち上げようと四苦八苦したけど、どうにもならなかった。
「ふぃ~……疲れた」
「なんでいま天国を味わっているおまえがそんな『やりきった』感出せるんだよ……!!
ていうかお前!! なにが悪いのかわからねえってのか!?」
「わかんない」
「今日のおまえのミス!!
なんで荷物持ちのおまえがポーション持ってくの忘れてんだよ!!」
「ついうっかり」
「何回目だよ!! この二か月ほぼ毎日忘れてんじゃねえか!!
あと遅刻も毎日だよな!?」
「朝起きようとはするんだけど、つい二度寝しちゃって」
「いいのよ~、ユウタちゃんはいくらでもおねんねしていいの」
「クソが!!」
だんだんだんッ、とウェンが地団太を踏んでいる音がする。
視界はおっぱいだらけなので想像だけど。
「つか荷物持ちのくせに大して荷物も持てねえし!」
「だって重いんだもん。
戦闘に支障が出るよ、あんな重いもの持ってたら」
「だから荷物持ちのてめぇに持たせてるんだろうが……!!
戦闘に支障が出るから荷物持ちのてめぇに持たせてるんだろうがよぉ……!!」
「でも、いざとなったとき僕の力が必要かもよ?」
「スライム一匹も倒せねえくせになんだよその謎の自信はよッ!?」
「スライムくらい倒せるよっ!! 五時間くらいかかるけど」
「いいのよ~、ユウタちゃんはなにも倒せなくていいの。
お姉さんがなんでも倒してあげるからね~、ユウタちゃんの敵だけだけど。
アンタらの敵は勝手になんとかしとけば?」
「クソが!!」
ウェンの地団太が激しくなる。
「あと毎回罠を踏み抜くのはなんでなんだよッ!
セッコーがしっかり『ここ罠ある』って教えてくれてんのによ!」
「ちょっと待つセコ、そんな言い方してないセコ。
『ここ罠あるセコ』セコ。
ついでに言うなら今日は『ここセコい罠あるセコ、施工したヤツはセコい性格してるセコ』セコ」
「セコセコセコセコうっせぇなぁおまえもッ!?」
「セーコッコッコッコ!
作者がキャラの書き分けだるくなって『なんかもうこれでいいや!』と思ったからセコ」
「クソが!!」
ウェンは時折こうしてとても口が悪くなる。
どうしてだろうね。心が狭いのかも。
「ともかく!
お前みたいな無能、追放だ!
追放!! これ以上はおれらの命にかかわる!!」
「そうよそうよ!!」
「そうセコ!!
命にかかわるというのはコレまさに正鵠を射た意見セコね!」
「お姉さん、その言葉のチョイスと語尾、うっとうしくて嫌いだなぁ~」
「ぐうぇセコ」
「セッコーッ!!!!
セッコーまで肺がエラに!!!!」
「でも正直コレは自業自得だと思うわ私!!」
お姉さんがたぽんたぽんと胸を揺らして笑う。
ひゃー。やわらけえ……!!
「なによりもッ!!
付き纏ってるニグラスがキツすぎるッ!!
Eランクパーティにかかっていい呪いじゃねえだろ!!」
「そうよ!! なんでアビサル・ホラーにびくびくしながら生活しなきゃいけないのよッ!!」
「はい、そっちの弓使いアウトね~」
「ぐうぇ」
「ガブルーッ!!!!」
くっ、とウェンが悔しそうな声を漏らす。
「そういうわけだ!
じゃあ追放!!
頼むからもう関わらないでくれッ!!」
「え? ごめん、おっぱいに気を取られて聞いてなかった。
なんて??」
「クソがぁ……!!!!」
ともあれ、僕がおっぱいの下から抜け出したとき、四人はいなくなっていた。
というかギルドからヒトが消えていた。
街からも。
なんでだろうね?
「ううん、最近はお姉さんが来るとみんな隠れちゃうのよねぇ。
世界の裏側にいようが星系の反対側にいようが五秒で滅ぼせちゃうのに、人間って愚かねぇ」
「よくわかんないけど、お姉さんはすごいや!」
「うふふ、ありがとね~。
今日もたっくさん『いいこいいこ』してあげるわね~」
「やった~!」
僕は『いいこいいこ』が大好きなんだ!
その日の夜、お姉さんのおうちでたくさん『いいこいいこ』されたあと、僕は突然悲しくなった。
「どうしたのユウタちゃん、そんなに悲しそうなお顔をして」
「お姉さんにふさわしい男になるのが目標なのに、ずっと無能なままで……僕、これでいいのかなぁ」
「いいわよぉ~、ユウタちゃんはずぅっと無能でいいの」
「でも、これで追放されるのは……ええと、十回目くらいだよ?」
「うふふユウタちゃん、数を数えるときは足の指も使っていいのよ~」
「あ! じゃあ、ええと……二十回目くらいだ!!」
「数を数えられて偉いわねぇ~。
でも指で数えるならあと百人くらい人間が必要かしらねぇ~」
「よくわかんないけど、僕やっぱりまたパーティを探すよ!
そしてお姉さんにふさわしい男になるんだ!」
「やぁん、ユウタちゃんったら健気でかわいいっ!
もっと『いいこいいこ』しちゃうっ!」
僕はなんかもうすごいことをされながら、硬く決意した。
明日からは無能と呼ばれないよう、本気を出すと!!
翌日、起きたらお昼過ぎだった。
あとロッテンゲート、ガブル、セッコーの家族とやらが怒鳴り込んできた。
三人とも地上で窒息死してしまって、なぜかその責任が僕とお姉さんにあると憤っているらしい。
地上で窒息死って。冒険者なのに警戒を怠るから……。
「うふふ、この街のエラ人間のお墓がどんどん増えていくわねぇ~。
家族も送ったから寂しくないでしょ、あの変な語尾の子たちも」
「エラ人間!? 世の中にはいろんなモンスターがいるんだね!」
ともあれ、昼過ぎだけどギルドに行こう。
きっと僕でも受け入れてくれる、いや僕の実力を正しく活かしてくれるパーティがあるはず!
なんせ僕は、冒険者歴……いち、にい……ええと、二十年のベテランだからね!!
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魔女ニグラス。
星が生まれて間もないころに隕石と共に飛来したとされる悪魔。
数億年前、気に入った男の寿命を引き延ばして花婿として娶り、無限に近い生に男の精神が崩壊してもなお溺愛し続けている。
もっと普通にえっちなコメディ考えてたのに命の価値低くしたらなんかこんなんなった。なんで?