刀を持たない者が、大波を切る話。
あれから1ヶ月。
私は冬の海の見える崖際で、ただその時が来るのを待っていた。
狙うは大物。海神波。
それを切った時、私の剣は全てを超える。
ただ、何も持たずに。ひたすらに切る。
それが二天一流を超えた、私の無刀流。
荒波はいっそう華々しく散るようになり、海の底が見えるようになった。
海神波は私の事を岩の上に在るただの生物としてでは無く、一人の挑戦者として認めた。
海神波は雲すらを巻き込みながら向かってくる。波の音はただの轟音と化し、耳には崩れた形のまま届く。
そして私に触れようとしたその時。するりと私の腕は自分の体から離れた。
刀を持たずして切る。
その刀を持つ腕は、その負荷からこの世に存在することはできない。
だから一度この世を去る。
そして切った後、再びこの世に黄泉帰る。
腕は空となり、波と一体化し、そして腕へと形戻る。
その頃に波は、跡形もなく切られていた。
波は私の体の中で今も渦巻いている。