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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
一章 令嬢と侍女編
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9. ドローレスの慈愛に溢れた一日

 私が向かった先は、時々通っている孤児院である。

 柄にもなくちょっと泣きそうになっていた私だが、扉を開けた途端悲しい気持ちが全部吹っ飛んだ。


「あ、ロラお姉ちゃんだー!」

「ロラ姉、こんにちは!」

「ねえねえ、抱っこしてー!」

「僕にはチューして!」


 か、可愛い。天使か、こいつら。


 完全に目がハートになって蕩ける。あまりの可愛さに床に崩れ落ちてしまいそうなるが、頑張って体勢を維持した。


「こんにちは、みんな元気にしてたかしら?」

「元気だよ!」

「みんな好き嫌いしないで食べてるから!」

「ロラ姉が作るご飯も好き!」

「あら、嬉しいわね」


 子供の後ろから孤児院を経営する老シスターが顔を出す。


「おや、ロラじゃないの。また家出でもしたんかい」


 シスターペルサには全てお見通しだ。小さい頃から癇癪持ちの私は避難所としてここに逃げ込んだ。

 いつも優しく暖かく迎えてくれるので大変ありがたい。


「大人気なく、ちょっとね。悪いけれど泊めてもらってもいいかしら。家には帰りたくないのよ」

「ここもロラの家だよ。好きにお使い」

「恩にきるわ」


 会話を聞いていた子供達が一斉に声をあげた。


「やった! ロラ、泊まっていくの? じゃあ俺と寝よ!」

「だめ! 私のお姉ちゃんだもん。私と寝るの」

「ママ、……私のママだよ」

「うふふ」


 腰に抱きつく子供達一人一人にキスを送り、「じゃあ夜はみんなで一緒に寝ましょう」と提案した。遊び場となっているホールの机を退かして布団を敷けばきっとみんな寝れる。


「あ、そうだわ。これ宿代ね」


 カバンからにポーチを取り出してそのままペルサに渡す。しかし彼女は受け取ることなく顔を顰めた。


「いらないと言っとるだろ。そもそも普段から宿代だとか昼食代だとかと託けて寄付ばかりしおって」

「あら、寄付だなんてそんな善人じみたことしないわ。これはミラモンテス家の評判をあげるための賄賂よ。こっちだって利を得てやってるんだから深く考えないで受け取りなさい」

「相変わらず捻くれとるなぁ。しかしありがたいのは事実。半分は貰っておくよ」

「半分?」

「もう半分はロラの将来のために取っておいとる。お前、儲けたお金全部ここにまわしとるだろ。将来何もないのは心もとない」

「……何の話かしら?」

「いずれ家から独立するんじゃろ」

「…………」


 どこまでペルサはお見通しなのか。

 誰にも話したことはないし、そんな素ぶりを見せたこともない。けれど確かに独立願望は持っていた。

 貴族社会は楽しいし刺激的だけれど、私にはちょっと窮屈だ。育てて貰った恩を返したら家を出ようと思っていた。


 そこへ都合よく現れたのがアルマである。

 あの子はあっさりと両親祖父母の寵愛を掻っ攫い、学園中の支持を短期間で集めた。私の元婚約者もアルマに入れ込んでおり、アルマに手厳しく当たる私に愛想を尽かした。

 上位だった成績も彼女には敵わない。いくら頑張ってみせてもこの手はアルマの足元にすら届かない。

 この一年で彼女は私の全てを奪っていった。私の存在価値など塵となって消える。

 でも、誤解しないでほしい。別に自暴自棄になっているわけではないのだ。


「まぁ、いずれはね。でもまだその時じゃないわ」

「何かきっかけがあるのかね?」

「まあね。私、アルマに一つでも勝ちたいのよ」

「……アルマ?」

「何でも簡単に手に入れてしまう強欲な女よ。彼女に勝ったら家を出るわ。勝ち逃げの方が気分がいいもの」


 うふふ、と笑うとペルサが妙な顔をする。

「アルマ、アルマ」と記憶の糸を辿るようにその名を呟く。ペルサの瞳に一筋の光が宿り、けれど何も言わずに微笑んだ。


「ロラの人生はロラだけのものだよ。大切にしなさい」

「そうね。悔いのないように突き進むわ。あと家を出てもここには来るから追い返さないでね、ママ」

「戯言を。ここはロラの家だと言っているだろ」


 近い将来ミラモンテスの令嬢はアルマに変わる。その時自分の帰る場所はどこか。ペルサが優しく笑うので、「当然よね」と高飛車に鼻をならした。


「お話、終わった?」

「ママ、遊んで」

「抱っこして」

「ロラ、こっち来いよ」


 子供たちが思い思いに私の手を引いていく。孤児の数は年々増える一方だ。初めて来た時の倍以上の数が協会に収容されている。

 運営ギリギリの子供の数に、何とか劣悪な環境にならずやっていけているのは偏にペルサのマザーとしての力量である。

 私もペルサのように全てを包み込む母のような存在になりたい。その為にはこの高飛車で高慢ちきでどぎつい性格を直さなければならないのかもしれない。

 柔らかい性格になった自分が全然想像できない。


「ママ、チュー」

「ん」


 しゃがむと、小さな手が伸びてきて頬に柔らかな唇が当たる。その瞬間「あ!」と聞き慣れた愛らしい声が耳に届いた。

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