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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
四章 アリビア編
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20. エピローグ

アルマンド視点

 プロローグがあるのだからエピローグもあるだろう。


 僕とドローレスの美しい愛の日々を原稿用紙一万枚にしたためたいが、生憎中々そう言う展開にならない。

 彼女的にはいつでもウェルカムな雰囲気を出してくれているが、実際そう言う場になると僕のあれこれがパンクしてしまうのだ。

 主に涙腺とか、鼻腔とか、脳汁とか、心臓とか。

 未だに朝起きたら全部夢でした、とかそんな悪夢すら見てしまうくらい。


「こうなったら、一旦初心に返ろう」


 徐に公務服の内ポケットからあの分厚いリストを取り出す。あの、『ドローレスとやりたいことリスト』である。

 メモ帳では収まりきれなくなってきたので、もう本になってしまった。これ以上増える前に消化せねばならない。


「どれどれ」


 と、ページをめくると、圧倒的な活字が目に飛び込んできた。


「ドローレスと手を繋ぐ・腕を組む・城下で買い物・ペアルックを着る・ペアリングをつける・ペアのカップを買う・ペアストローでソーダを飲む・劇場に行く・カップルシートに座る・カフェでデート・互いの洋服を選ぶ・花火を見る・暗闇で手を握る・アイスを食べさせ合う・海に行く・大胆な水着を着てもらう・紐を解いて驚かせる・イルカに触りたい・ダイビング・シュノーケル・ピンクの貝殻を拾う・波の音をのんびり聞く・夕焼けを眺める・そのままチュー・川に行く・水切り石を投げる・魚釣りをする・変な虫を捕まえる・笹舟を作る・葉っぱでお化けを作って驚かせる・水遊び・キャンプ・焚き火をする・野外炊飯はカレー・鮎の塩焼きも食べたい・山に行く・登山をする・疲れたらおんぶをする・抱っこもいい・熊を倒す・あるいは手懐ける・崖から落ちる・危ういところで助ける演出・雨に降られる・視界が悪く帰れなくなったふりをする・雨で冷えた体を温める・雷が鳴り驚いたふりをする・抱きしめる・一晩ギュッってしながら過ごす・何となく遭難から脱出・湧き水を飲む・山頂から国を眺める・そのままチュー・温泉に行く・当然混浴・当然貸切・浴衣を着る・コーヒー牛乳を飲む・縁日で夕涼み・金魚すくいをする・射的をする・尊敬の眼差しを受ける・そのままチュー・カジノに行く・大胆なドレスを着てもらう・バニーガールも可愛い・ディーラーのイカサマを見破る・ゲームに圧勝する・尊敬の眼差しを受ける・怖い人に裏に呼ばれる・殴られるふりをする・心配してもらう・拮抗したふりのバトル・何とか勝ったふり・泣いたドローレスを慰める・そのままチュー……」


 これが一ページの内容で、最終ページまで続いている。シルヴェニスタのシの字もない内容だから驚きだ。

 徹頭徹尾、ドローレスといかにいちゃつくかしか書いていないので、両親が見たら絶対泣く。


 正直、僕に愛国心などない。ドローレスが頑張っているから、歩調を合わせるために公務を行なっているだけ。下心しかない。


 あー、三男坊で良かったー。

 国の重大事は全部長兄任せ。次兄はその補佐。三男なんてそのおまけのおまけだよね。


 いずれ長兄が国王として戴冠する。それに異論はないし、むしろ望んでいる。

 三男の僕は今までも、そしてこれからも、身軽に自由に勝手気ままにドローレスとの日々を謳歌しよう。


 幸せいっぱいのため息をついたが、その実幸せは長く続かなかった。

 トランクに衣服を詰めながら、嫁がことも無げに言ったのだ。


「シルヴェニスタとタリタンが参加するE9会談があるの」

「ふうん」


 当然ついて行くつもりで僕も準備をしようとしたら、手だけで止められた。


「ルーベン殿下とコーネリアと合流するから大丈夫。アルマンドはお留守番よ」

「え? 何で?」

「だって貴方の公務日程と被ってるもの」

「たかがイベント訪問だよ? 僕がいてもいなくても変わんないじゃん」

「上がいないと国民の指揮が下がるわ。すぐに帰ってくるからいい子で待っていてね」


 頬にキスが掠め、もう黙るしかない。心は不満に溢れているが。

 部屋を出る彼女を見送りながら、けれど恨み節は忘れない。


「ちゃんと仕事終わったら、ご褒美ちょうだいね」

「勿論いいわ。寧ろ今、前払いでも」


 ドローレスの視線が不意に僕の背後にずれた。寝台を見ているのだとわかり、気づいた瞬間鼻の奥が痛くなった。

 公務服が赤くて良かった。


 僕の動揺に彼女は瞳を揺らし、楽しげに微笑む。そして手を振ってあっさりと僕の前から姿を消した。

 ずっとずっと僕の心は弄ばれている。けれどこの感覚は決して嫌ではなく、寧ろ心地よい。やっぱり彼女の周りはぬるま湯なのだ。


 始め侍女として近づいたおかげで、今の距離感を勝ち取ることが出来た。でなければもっと関係性は違っていただろう。

 僕といる時のドローレスはとても彼女らしくて優雅で楽しそう。僕以外にああいう姿を見せていない。


 その事実に優越感を抱きながら、階下で彼女の馬車が出発するのを見送った。


 いつまでも、いつまでも。




  Fin

こちらで本編は終わりです。長らくありがとうございました。

拙い話でしたが、ブクマ、評価してくださった方も本当にありがとうございます。とても嬉しかったです!


残り二話は完全蛇足な別CPエンドです。大丈夫そうな方はお次もどうぞ。

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