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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
四章 アリビア編
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12. リカルドの人徳

 アルマンドと別れ、道中を急ぐ。


 音もなく黒のローブを被った三人の男が現れ、私の周りを囲んだ。足に自信にある私に、余裕で付いてくる男たち。顔は被り物でよく見えないが、彼らがアルマンドの従者なのだと感覚でわかった。


「アンドレだけで良いと言ったのに」

「アンドレとフラグが立つことを懸念された殿下の采配です。ご理解を」

「……その発想まで行くと、もはや病気では?」

「病気の元は姫です。きちんと責任とって下さいね」

「それは勿論」


 納得いかないが、とりあえず頷いた。アルマンドの暴走を止められるのは私だけ。光栄身に余る。

 従者たちも返事を受け取り、嬉しそうに空気を和らげた。アルマンドにぞんざいな扱いを受けている割に、忠誠心は深い。


「それで、姫。我々は何を?」

「殿下に何も言われて無いんスよ。姫を守れとしか」

「あら、それでいいわよ」

「はい?」


 不思議そうな声が返る。


「言ったとおり、何かあったら守ってほしいの。表立っては私が動くから。貴方たちは保険ね」

「それはつまり」

「普段通りで構わないわ。だからもう姿を消してね」

「え」

「寧ろ大人数だと悪目立ちするもの。さあ、早く」

「……我々の折角の出番」

「くどいわよ」

「ご無体な」


 えーん、と泣きながら全員姿を消した。


 着いた先はファルフ亭。

 以前カルメンが言っていたのだ。リカルドがよくここに出入りしていると。

 扉を開けると強面な店主が私を睨む。薄暗く、煩雑な店内。不摂生を感じる頬のこけた客たち。


 しかし私を見た瞬間、一気に空気を和らげた。


「あら、ドローレスちゃんじゃない。こんな時間にどうしたの?」

「おうおう。一人でなんて危ねえじゃねえか。いつもの坊主はどうした」


 彼らは全員顔見知りである。市中は野党や人攫いで物騒だが、一つ地下に潜れば善良な市民たちの憩いの場だ。

 アルマンドが橋渡しをしてくれ、彼らと友好な関係を築くことが出来ている。

 心配の言葉に頷いて応えた。


「ちょっと人探しをしているのよ」

「なに。人探しなら俺に任せろ。誰を探してるんだ」

「リカルドという、金髪金眼の麗人よ。ここの常連だと聞いて」

「その男ならシーラたちが詳しい。いつも一緒にいるからな。おいシーラ」


 男が呼ぶと、向こうの円卓で女性が顔を上げた。妖艶な雰囲気の女性は、入店と同時に私を見ていた。睨んでいると言っても相違ない。

 シーラへ自分の身元を伝え、リカルドの動向を探ると不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 何やら不可解な言葉を吐かれたが、行方不明であると言うと途端に顔色を変える。シーラだけでなく、店中の女性が一斉に顔を上げたので一瞬腰が引けた。

 男たちは完全にビビっている。店が吹っ飛ぶ規模の人的竜巻を目の当たりにしたのだから。


「何なのそれ。そういう事情なら早く言ってよ」

「えー、リカルドのお兄ちゃんいなくなっちゃったの?」

「つまり何。あのお方が犯罪に巻き込まれたってこと? そんなまさか」

「なんじゃと。そんなバカにゃ。わしのリカルドちゃんが」

「男たちには散々釘を刺していたのに。こうなったらこっちも本気出すわよ! ジャミラ婆、連絡網!」

「ほらきた! 女ども、全員配置につけッ」

「目的はリカルド様の救出! ご命令のあったハーレムの維持は目下優先順位を下げる!」


「…………」


 どこから湧いてくるのか。窓から、床下から、次々に女性たちが現れ、急に店内が騒がしくなる。

 女性の面子は年端も行かない女児から足腰の弱ったご老体まで様々。リカルドの名を出した途端、シャキッと背筋を伸ばし機敏に指示を出した。そして一斉に全員が煙を立てて店の外に飛び出して行ったのだから男たちの顎の力が抜ける。


 どこからかアンドレが私に囁く。


「姫の言っていた『よい手』とはこれですか」

「ええ。人探しは人海戦術が基本よね。彼がハーレムを築いていたのは知っていたから、支持者である彼女らが必死に殿下を探してくれるでしょう」

「さすが姫。俺はリカルド殿下のフラグを立ててしまうのではないかとそっちを心配してたっス。ルート回避見事です」

「なんの話かしら」

「ご謙遜を」

「まあいいわ。それじゃあぼやぼやしていないで、貴方たちも仕事をなさい」

「は?」


 三人同時にハモった疑問の声に眉を釣り上げる。本当に察しが悪い。


「だからリカルド殿下の『姫』たちを守りなさい。いくら数で勝負とはいえ、武器を手にした男を相手にしたら不利だもの。三人で手分けすれば余裕よね」

「え、え、え。ざっと百人くらいいましたよ。しかも方々に散って行きましたし」

「安心なさい。連絡網が回ればその六倍にはなるわ。一人頭二百人ね。やりがいがあるお仕事、素敵よ」

「旦那が旦那なら、嫁も嫁だなッ!」

「この横暴者ッ!」


 従者たちが半泣きになりながら捨て台詞を吐く。風が巻き起こり、彼らも店から飛び出していった。

 ようやく身の回りが静かになり、くるりと後ろを振り返る。先ほどの情報屋の男に改めて向きなおり、謝礼を渡した。


「それで、本題なのだけど」

「は?」

「私が探しているのは別の男性なの。この方をご存知かしら」

「……嬢ちゃん」


 示した人相書きを見て、男は口を引きつらせた。


「どこでこれを?」

「うふふ。ちょっと伝手で」

「悪いことは言わねえ。こいつはやめとけ」


 止める声を無視して、もう一つの金袋を上乗せする。二段になった硬貨に、情報屋は目を丸くし言葉を詰まらせた。

 目の前の男ではない、別の男が口を滑らせる。焦ったように情報屋は大声で遮るが、もう遅い。大方聞こえた。


 再度礼を述べて、私も店を出た。

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