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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
一章 令嬢と侍女編
7/86

7. 人気投票

 とある日の朝。

 アルマと連れ立って校門に歩いていると掲示板の前に大勢の生徒がひしめき合っていた。小さな掲示物を見て、生徒が何やら楽しげな声をあげて笑っている。


「なんでしょう、あれ」

「知らないわ」


 何故かアルマはいつも私の隣を歩く。侍女なら数歩下がって後ろに従うものじゃないの? お前は友達か。


 意識をきりきりとアルマに向けるが、当の本人は天使のように軽やかな歩調で目の前の群れに入っていく。主人から勝手に離れていく奔放さ、朝から恐れ入る。

 天使に気づいた男どもは道を開けながら頬を染める。


「あ、アルマちゃん」

「今日も可愛いね。おはよう」

「おはよう! みんな何を見てるの」

「……え、あ」

「アルマちゃんは見ないほうが」

「アルマちゃんには刺激が強いかも」


「えぇ〜、なんでなんで〜?」と無邪気に男子生徒と乳繰り合いながら、アルマが掲示板に向けて首を伸ばす。


「…………」


 その瞬間、無邪気な瞳に影が落ちた。すぐに私の元に戻ってきて腕をとる。ちょっと痛いくらいに乱暴に手を引かれ、掲示板から遠ざけるように昇降口へ向かっていく。


「ちょっとアルマ? どうしたの?」

「何もありませんよ。ドローレス様には取るに足らないことです」

「?」


 教室に着くと、そこでも生徒たちが黒板を向いて賑やかにおしゃべりをしている。掲示板に貼られたものと同じ内容のようで、しかし拡大された印刷物は教室に入った途端、内容がしっかりと見て取れた。


『緊急発表! 学園ナンバーワンの美女は誰か?!』


 大きな見出しに「あ〜、はいはい」と思う。

 どうせアルマが一番なのだろう。別に統計を取る必要もないくらい周知の事実にアルマは時間の無駄だと私を遠ざけたのだ。

 まぁ、確かに知ってるしね。


 そう思って再度掲示物に目を向けると、思った以上にくだらない内容に私の気持ちが冷える。


『守ってあげたい部門 第一位 アルマちゃん』


 これはいい。納得だ。私も守ってあげたいし。


『泣かせたい部門 第一位 ドローレス嬢』

『愛人にしたい部門 第一位 ドローレス嬢』


「…………」

「…………」


 お互いに無言になって、私は成る程、と頷いた。アルマはこれを見せたくなかったわけか。

 ここでも私の悪女ぶりがフォーカスされているのか。学園の天使であるアルマをこき使い、虐げ、傍若無人な振る舞いはさぞ周囲に悪どく見えるのだろう。

 私はただ、アルマが立派な淑女になるよう鍛えてるだけなのだが。


 さておき愛人の位置づけがちょっと笑えた。確かにミラモンテス家はそこそこの名家なのでお金に困っていない。

 愛人になってお金を巻き上げようと言う魂胆が見え見えである。


 うふふ、と笑う私にアルマが影のある笑みを向けた。


「ドローレス様、どうかお気になさらず」

「気にしているように見えて? むしろ面白いと思ったわ」

「(僕以外がロラちゃんを)泣かせるなんて、許せない」


 言外に言われた言葉に当然気づかず、「優しいのね」と流す。

 アルマには見えていたのだ。アルマだけでなく、私以外の全員が「泣かせたい」の枕に付いている小さな小さなフォントの存在に。

 ベッドの上で、と形容詞が付いている。


 本気で怒っているらしいアルマを見て、私は「まさか」と口に手を当てた。


 まさか、アルマったら全部が自分じゃないからって悔しがっているの?


 とんだ豪欲張りだ。少しくらい他に分け与えろ。

 私にはアルマには一つでも勝ちたいと言う野望があるが、これはあてはまるのだろうか?

 いや、ただ恨みを買っているだけの投票だから無意味だな。


 投票結果に興味を失った私は自分の席に着く。もうすぐ授業が始まる。

 アルマも小さくため息つきながら私の隣の席に着く。怒りを外に逃がすようにして吐かれる息が何だか重い。

 またわかりやすくへそを曲げているな、と思った優しいワタクシはアルマへと話しかける。


「守ってあげたい部門受賞おめでとう」

「なかなか不本意な結果でした。私ならドローレス様にもっとふさわしい賞を選べますのに」

「例えば?」

「妻にしたい部門とか、結婚したい部門とか、愛してる部門とか」

「あらあら、直球ね。愛人だなんて貶められたから慰めてくれてるのね」

「…………」


 じっとアルマが私を見つめるので、可笑しくてつい私も揶揄うような口調になってしまう。


「そうね、私もアルマに贈りたい賞があるわ」

「! 何でしょう?」


 前のめりになるアルマを手で制し、言葉を続ける。


「シバきたい部門とか、淑女に育ててあげたい部門とかね」

「…………」


 アルマが机にガンと頭をぶつけて脱力する。

 何を言って欲しかったのかわからないが、恨めしそうな瞳に優雅な笑みを送る。

 アルマの受賞した部門が悉く面白い。


 妹にしたい部門、後輩にしたい部門、お菓子をあげたい部門、おもちゃを買ってあげたい部門、などなど。


 このネタで一週間は軽く笑える。

 ゆるく微笑みながら、私はカバンから参考書を取り出した。

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