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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
四章 アリビア編
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1. 揺らぐ心

 この妨害は度々あった。


 シルヴェニスタにいた時はどんぐりだったが、タリタンでは調達できなかったのかコーヒー豆に変わった。

 タリタンはコーヒー文化が栄え、市場に大量に並んでいる。中でもタタンという品種がフルーティーな甘味と酸味が絶妙で、格別に美味しい。


 それはさて置いて、豆を飛び道具に使うのはアンドレだ。彼がいるということは自ずと連想される人物がいて、ズキズキと頭が痛む。

 きちんとお別れしたのに、どうして。


 離席の旨リカルドに断り、豆が飛んできた方向に向かう。操舵室の周囲をぐるりと周るが、人の隠れるところはない。けれど彼らはいつも気配なく物陰に潜んでいる。

 絶対どっかにいる。


 カサコソカサコソ。ゴK(略)のような動きをしながら執念で探していると、どこからかため息を聞こえた。


「殿下なら部屋です。我々じゃなくて殿下に構ってあげてください」

「もう無関係よ」

「はいこれ、部屋番です」


 私の意図を汲みもせず、ひらりと紙切れが降ってきた。

 予定外の流れに歯噛みをしながら、示された船室へと向かう。そして部屋番を見て目を疑った。私に割り当てられた部屋である。相変わらずズカズカと土足で懐に踏み込んでくる。精一杯意識して表情筋を固めた。


 自室であるのにノックして部屋の中に入る。

 しばらくぶりであるのに一切の時間を感じさせず、綺麗な天使はこちらを振り返る。


「ロラ」


 窓からの逆光で輪郭が淡く光る。神秘的ともいえる美しさに目の奥が熱くなり、慌てて感情を閉じ込めた。可愛すぎる。怖いくらいに。

 小さく息を吐いて、心音を整えた。


「あら、アルマ。偶然ね。こんなところで何をしているのかしら」

「きちんと話出来てないから。追いかけてきちゃった」


 エヘ、と愛らしい微笑みに腰が砕けそうになった。本当に破壊力が半端ない。私の決意を容易に砕きそうな微笑みで、効果はバツグンだ。

 震える唇を引き締め、極低温の視線を放った。

 アルマなんか知らない、興味ない。圧縮された箱の中で、思いが溢れてパンクしそう。


「私に話はないわ。帰りなさい」

「僕にはある。そういえば、ロラ。僕の正体わかってるんだからちゃんと名前で呼んでよ」

「あら、従者に聞いたの?」


 頷くアルマンドに私は首を傾げる。何となく言わないと思っていた。アンドレはアルマンド絶対主義なので傷つくような真似を避けるのではないかと。

 ここも予想と違う。


 スカートの脇を少し持ち上げ、頭を下げた。長い髪がサイドに流れる。アルマンドの喉が鳴った。


「王国の若き太陽アルマンド殿下。これまでの数々の無礼、切にお詫び申し上げます」

「……もう一回言って」

「王国の」

「名前だけでいい」

「アルマンド殿下」

「くうッ!」


 鳥が首を捻られたような叫び声がして、思わず顔を上げる。……なんかめっちゃ泣いてる。

 ダイヤモンドの大特価セールに呆気にとられ、思わずハンカチを差し出した。


「えーと、大丈夫?」

「もっかい呼んで」

「アルマンド殿下」

「ありがとう。僕の夢が一つ成就した」

「…………」


 すがすがしいほどの泣き笑いに私の眉がよる。


 毎度のことだが、本当にこの人私の話聞かないな。


 人の都合などお構いなしで、アルマンドは自分のペースに巻き込んでゆく。

 何とか足に力を入れて踏ん張るが、徐に彼がポケットからチェックリストを取り出し私に見せる。目の当たりにして眩暈がした。


「あと15789項目あるから、今後ともよろしくお願いします」

「そういうのは隠しなさいよ」

「生憎だけど察してちゃんは卒業したんだ。ロラにもう隠し事はしない」

「結構酷い別れ方をしたと自負しているのだれど。そこまで執着していただくほど私に価値はなくてよ」

「価値は僕が決める」


 そう言って彼の手が私に伸びる。当然のように抱き寄せる手のひらを払いのけ、絶対零度の視線を投げた。


「男に興味はないわ。触らないで」

「嘘。そういうことにした方が都合がいいからでしょ」

「貴方、本当にしつこいわね」


 アルマである時、結構傷つく言葉として用いたことがある。けれどダメージゼロの涼しい顔はにこやかに笑うばかりだ。


「プリシアに聞いた。君の本当の両親のこと」

「はい?」

「聞いた当初、かなり凹んだけど、一周回って開き直った。あれは仕方なかった」

「……本気で言ってるの?」

「弁解はしない」


 まさかの一言が強烈なブローとなって私の鳩尾を襲う。精神的な攻防は一方的に私の方が負けている。

 一体どうしてこうなる。プリシアもプリシアだ。私たちの秘密を軽々と張本人に話すなんて。

 考えがまとまらず、ぐるぐると思考の闇に落ちそうになり、


 突然船が揺れた。


 よろめいた体をアルマンドが支える。私を労わる柔らかい声が耳に落ち、見上げると蜂蜜色の瞳が心配そうに揺れる。

 こういう時、こういう顔をするのは本当にずるい。


 感情の波が津波となって押し寄せる。そんな愚かな気持ちを悟られないよう、そっと彼から目を外した。

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