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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
三部 タリタン編
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13. 尋問

 檻の中に拘留されて三日が経つ。


 僅かばかりの天窓から外の明るさが見え、格子の先で野草が揺れている。牢屋は半地下に位置していることが分かった。

 拘留されて以来、食事の運搬以外にここを訪れる者はいない。完全に隔離された状況に外の事情が入ってこず、不便さが募る。


「ちょっと貴方、外の様子見てきてくれない?」


 そっと空中に独り言を溶かすと、すぐに「無理です」と、どこからか返答があった。

 隠れる場所などないのに、一体どこに身を潜めているのやら。


「姫の安全が最優先なんで」

「ならまず助けを呼ぶという発想はないのかしら」

「お一人にはさせられません。それとも脱獄したいとおっしゃるのなら喜んでお手伝いしますが」

「理由があって拘留されているのだから、無駄に立場を悪くする真似するわけないじゃない。そうじゃなくて」

「なんでしょう」


 不思議そうな気配に唇を噛む。


「察しが悪いわね。いい加減身を清めたいのよ。少しでいいからどこかに行って」

「…………」


 微妙な沈黙が続き、うろたえた様な息が漏れた。


「すぐ側にいます。姫の方は絶対に見ませんから」

「うざいわよ。そもそも警察署の真ん中で危険なんてないのよ。律儀に殿下とやらの命令を遵守しなくても」

「しかし」


「失礼します」


 突然回廊の扉が開き、二人揃って口をつぐんだ。

 カツカツと石畳を踏む足音が響き、やがて私の牢屋の前で音は止まる。格子の向こうに立つのは、前髪を中央で割り、ぶ厚い丸メガネが特徴的な女性である。

 

 カルメンだ。

 彼女は外務省の同僚で、私と同じく補佐役の教育係を任せられていた。対面するのは初めてである。


 彼女は私の様子を見て不快を露わに眉を顰めた。汚いと、嫌悪の瞳が物語っている。

 カルメンの背後には看守がついており、私を指さして早口に抗議の口火を切った。


「ちょっと、なんなんです。この汚物。今日尋問を行うことは通達があったでしょう? それならば先を見越してもう少しまともな恰好をさせるべきでは? こんな汚い女と一緒の空間にいるなんて数秒でも耐えられない。相応の準備ができるまで、検察に手なんか貸さないわよ。ただでさえ本省が多忙を極めているというのに、こんな雑用……。あ、もう帰っていいかしら?」

「しょ、少々お待ちをッ」


 カルメンの迫力に圧倒された看守はおろおろと足を踏み鳴らす。


「さっさとお湯、石鹸、清潔な布、着替えッ。本当にのろま。おんなじ人間だなんて信じられない。恐竜並みの脳処理スピードね。もういいわ、私がするから」

「!」


 話しながらカルメンは持っていた鞄の中から水筒を取り出し、避ける間も無く中身をぶちまける。

 天井の隅で僅かに動く気配がし、彼に向かって「黙って」と、手だけで制した。

 頭からお茶を被った私を見て、カルメンが嘲笑う。


 私、この子に何かしたかしら? 


 省内で水を被ることは珍しくないが、いつも相手の姿は見えなかった。こうして真正面から悪意を向けられ、逆にいっそ感動した。


 看守に鍵を開けられ、カルメンが牢屋の中に入ってくる。私の着衣を乱暴に剥ぐと、入り口側の鉄格子に引っ掛けた。丁度目隠しのようになり、回廊側の様子がわからなくなる。

 肌を守るものがない状態で、カルメンが私を平手で叩く。乾いた鋭い音が牢の中に響き、驚いて彼女を見上げるも残虐な瞳でこちらを見返すだけであった。



「姫、大丈夫ですか?」

「ええ」


 カルメンが帰り、ぐったりと薄い寝具へ体を横たえる。時間にして三十分ほどか。


「あの女、消しますか? 姫がお望みであれば」

「どういう意味?」

「苦しそうな声してましたよね。助けを求めてくだされば、俺は」

「あら、そういうルールがあったのね。ずっと見ているだけだと思ってたわ」


「でもお構いなく」と、痛む体を起こして今後のことを考える。カルメンは明日も来ると言っていたし、それまでに何らかの対策を立てなければ。


 無駄に痛い思いはしたくない。

 何か言いたげな気配でいる男を無視して、私は思考の海へと身を投げた。


 翌日、カルメンは背中に大道具を背負って来たので誰しもが口を引き攣らせた。牢の中にするりと入って来て、背中の大きな衝立を格子側に展開していく。

 完全に向こう側が見えなくなり、これから始まる処置に私はげんなりとする。看守の方も雰囲気を察して回廊から逃げていった。


 音だけでも十分行為の凄惨さに想像が掻き立てられるのか、衝立の向こうの男までも剣呑な空気を出していた。


「さあ、始めましょう。ドローレスさん」

「お手柔らかに」

「今日こそは話してください。貴女の企みを、ね」

「……ぅ」


 肌に食い込む激痛にたまらず声が漏れる。


 こちらの言い分を聞かない一方的な問いかけに、息が出来なくなる。呼吸の逃がし方を忘れ、行為の制止を求めるも、彼女は楽しげに笑うだけだ。

 こんなの茶番だ。一瞬なんでこんなことをしているのかわからなくなるほどに意識が飛ぶ。


 気づいたら本当に気を失っていたらしい。体の具合を確かめ、微妙な気持ちになる。

 カルメンは既に牢の中にはいない。


「姫」


 心配そうな声がかかり、少し罪悪感が芽生えた。「大丈夫よ」と、声をかけ私は再度思考するため頭を持ち上げた。

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