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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
三部 タリタン編
51/86

【番外編】梅雨の日

アルマ視点。

時系列は二章辺り。人物相関等々、色々と無視です。

 しとしと雨の日。

 雨音のオルゴールを耳に、テラスでドローレスと愛を語らうに最適な日。


 そんなことを思っていたら、突然の乱入者。

 瞬く間に何者かに体をぐるぐる巻きに拘束され、次に目を開けた時には見たこともない貧相な石造りの部屋の中にいた。出口には南京錠がかけられ、側にはタイムリミットを示す砂時計が置かれていた。

 ぱっと見、様相は僕の拷問部屋に似ている。その手の器具はないものの、床や壁、天井に酸化した血の飛沫が飛んでいて、行為に熱が入ったためか部屋中破損が激しい。


 この部屋にいるのは僕だけではない。僕と同様に粗末な椅子に縛り付けられた長兄と次兄の姿があった。長兄のルーベンの方は先に起きており、物珍しそうに辺りを観察している。僕と目があうと焦った様子もなく無表情に首を傾げた。


「アルマンド、大丈夫か」

「はい。兄上は?」

「俺も大丈夫だ。しかし、変わった趣向だな、これは」

「こういうの、前に本で読んだことがあります。きっと誘拐犯は僕らに殺し合いをさせたいのでしょう。密室に閉じ込めて制限時間を設け、時間内に課題をクリアし扉を開けさせる。クリアできない参加者は死ぬのみ」

「いや、違う」


 言っている最中にルーベンは眉間にシワを寄せ、唯一自由な足を思い切り地面に叩きつけた。爆風でも上がったかのような衝撃に砂埃が舞う。

 突然の行いにわけがわからずルーベンを見ると、その瞬間天井が割れた。


 え?


 石造りかと思われた密室はただの衝立であった。四方にバタンッと部屋の絵が描かれた壁が倒れ、空から緩やかな雨が落ちてきた。


 瞬間歓声が上がり、ルーベンは顔を崩さず周りを見やり、僕はパニック、次兄はまだ寝ている。耳を劈く大音量が王宮内にこだまする。

 ハリボテの外は王宮内の演習場であった。観客席にはあふれんばかりの見物人がひしめき、それぞれの陣営で僕たちの名前を掲げている。


 なんだあれは?


 その疑問はナレーションの声に吹っ飛ばされ、同時に解決する。


「ジメジメ雨の日を吹っ飛ばせ! 第一回にして最終回! シルヴェニスタ王国王子の王子による王子のためのビッグな祭典が始まります! その名もドローレス様争奪戦! 数々の困難を乗り越えた王子に、優勝賞品として愛しの姫をプレゼントいたします!!」

「…………」

「……は?」


 無表情のルーベンの顔が呆れに変わる。僕はまだ混乱中。


「初戦である密室脱出は見事ルーベン殿下により突破されました! みなさん拍手!」


 わー! とルーベン陣営から拍手と歓声が上がる。コーネリアが先頭に立ち、喜びのあまり飛び跳ねている。

 一方で静かなのは僕とリカルドの陣営。僕のところは三バカが気配を消して空中で「殿下、ファイト!」と横断幕を掲げ、ドローレスの家族が応援旗を降っていた。リカルドのところではタリタンのライネリオがやる気なさげにメガホンを握っている。


 状況がさっぱりわからない。司会者がさらなる追い討ちをかける。


「まだ飲み込めていないアルマンド殿下! 頑張ってください! 本気出さないとやばいですよ!」

「なに?」

「なんせドローレス様は今までないくらいやばいです! 放送コードギリギリです!」

「……?」

「あちらの大きなプレゼントボックスをご覧ください!」


 指し示す方向を見ると、演習場のど真ん中にどでかい箱が台座の上に構えていた。賞品と書かれた箱は綺麗にラッピングされ、人一人ゆうに入れる大きさだ。


「まさか」

「はい、そのまさかです! 流石はルーベン殿下、御慧眼! あちらの箱の中には全裸の姫がお入りです!」

「やっぱり。……全裸だと?」

「全裸ッ?!」


 全裸のワードにルーベン共々目を剥いた。揃って背後からドス黒い炎が吹き出し、司会者が焦る。


「あ、あ、……全裸と言っても、未着衣というわけでなく…、リボンで巻かれてます。……全裸に」

「…………」

「…………」


 エッロ。

 想像して鼻の奥が熱くなり、赤い滴りを垂らしながら僕は憤慨する。

 エロいのは大好きだけど、僕以外誰かが彼女にそうしたのだと思うと憤りが止まらない。

 準備段階で誰が彼女を裸に剥いた? 誰が彼女をリボンで縛った? 手をかけた奴、企画発案した奴、ついでに司会者、関係者、まとめて全員処刑だ。


 憤りに同調した兄上が僕の肩を叩く。兄上がこんなに怒るなんて珍しい。


「アルマンド、お前がゲームに勝ってロラを助けろ」

「え?」

「国民の遊戯に水を差すのは憚れるが、ロラを見世物にはしたくない。適当にお前が勝つよう流れを作るから、彼女が大衆の目に触れる前に助け出せ」


 コクコクコク。


 かくして僕と兄上の八百長遊戯が始まった。



 そしてその瞬間目が覚めた。


「あれ?」


 目の前には見慣れた天井。身に馴染んだ寝具。聴き慣れた寝息。

 隣に目を向けると毛布に身をくるんだドローレスが寝ている。長い睫毛が緩やかに揺れた。


 なんか、すごく変な夢を見たような。


 だが、夢の詳細が思い出せない。随分とリアルな夢だったような気がするが。


 そろりと、彼女の頭を撫で、耳の形を確かめるように線をなぞり、肩へと這わす。


「?」


 違和感が伝った。指の腹がサテンの生地に触れたのだ。寝巻きにしては布地が細い。毛布の下を恐る恐る見ると。


「!」


 あまりの衝撃に、何度目かも知れない昏倒が僕を襲う。昏倒するたび記憶が飛ぶので実はあれから数時間経っていることに気づいていない。

 見かねたルーベンがこっそりとドローレスのリボンを外したことも。やがてドローレスが目を覚まし、何事もなく支度を始めたことも。


 全てが普通の日常に戻るが、不意に蘇る刺激的な光景が、時折残像となって僕を苦しめるのであった。

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