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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
二章 シルヴェニスタ編
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17. 二人の結末

 王宮に着いてからのことは、格別特筆すべきことはない。


 何故か離れていったアルマは置いておいて、コーネリアに案内されルーベンの執務室へ向かう。

 そこにはルーベンだけでなく侍従や書記官の面々が集っていた。


「説明を」


 と、言葉少なにルーベンに促され、私の前に初老の男性が歩み出た。身なりの良い上品な男性は、エミルの父親かと思った。探していたペットを見つけた感謝を告げられるのかと思ったが、そうではない。

 よくよく見ると顔の特徴がシルヴェニスタ国民に合致する。

 訳もわからず目の前の男性にひとまずことの顛末を説明した。と言ってもただペットが見つかっただけという、何とも間抜けな報告だ。この緊張感溢れる室内の雰囲気に合致しない。

 勿論見つけたのは侍女であることを付け加える。聡明な侍従の手柄である。


 話を聞いた男性はにこやかに微笑むと私に感謝を告げた。難度な会議中のちょっとした息抜きにでもなったのだろうか。

 首を捻るとルーベンが私に告げる。


「ロラ、仕事は終わりだ。帰っていい」

「かしこまりました」

「あと暫くお前の侍女を借りるぞ。大事な侍女と離れて寂しいだろうから後日暇つぶしを自宅に送る」

「?」


 アルマに一体何の用だろう? そして暇つぶしとは?


 疑問が浮かぶがとても質問できるような空気でなかった為、粛々と一礼して部屋を出た。コーネリアが名残惜しそうな目でこちらを見ているのが印象に残った。


 そして後日、『暇つぶし』と呼ばれたものが届く。

 中を開けると暇つぶしとはとても言えないもので、言葉を失った。アルマのことは気がかりだが、彼女のことを考える余地などない一切の手加減なしの『暇つぶし』。その対応に追われ、私の時間はあっという間に奪われた。


 暇つぶしもひと段落付き、あとは黙ってアルマの帰りを待つばかりだ。いつも通り学校に通い、両親に代わって領地の指揮を執る。税収の計算と次年度の予算作成、領民との会議に出席し、目まぐるしく一日一日が過ぎている。

 アルマがいた時も同じく業務をしていたが、彼女が愛らしく彩を加えてくれたのでちっとも苦ではなかった。……しかし当の本人は私が当主代行業務を行っていることに気付いていない節がある。いつも「ロラちゃんロラちゃん」と、そればかりで周りが見えていたのか怪しい。

 弱小者の身ではあるが、何故私がこのような執務に就いているのか、偏に両親共々多忙な身で、殆ど領地にいないためだ。下手をすれば国内さえもいない。

 アルマを一緒に連れまわして、次期当主へと教育を進めたつもりであったが不発に終わってる感が拭えない。


 長期間アルマと離れたお陰で、寂しい反面確かに良いことがあった。

 アルマと結局どうなりたいのか、その結論が見えてきた。

 彼女のことが好きで、大好きで、ただただ彼女の行く末の幸せを描いていた。それが詰まるところ次期当主という誉れであったのだが、その青写真はルーベンによって破り捨てられる。

 確かにアルマはずっとずっと、耳にタコが出来るぐらい伝え続けてくれていた。彼女の望みを。


「でも、成就したからってその先があるのかしら?」


 進んだ先の答えにずっと悩んでいる。悩んで悩んで、それでも理想のゴールが見えない。

 そして更に悩んで考えるのを放棄した。そもそもこんなことを考える方がナンセンスなのだと、それが答えである。

 二人の未来なのだから私一人で結論を出さず、アルマときちんと話し合うべきなのだ。その先に本当の未来があるのだと。

 そう思い至り、私は閉じていた参考書の山に手をかけた。





「ただいま」


 何時間、或いは何日経ったのか、

 アルマが帰ってきた。


 しばらくぶりに見た彼女はどこか疲れており、いつもの呑気な天使の笑みがない。

 金色の瞳は寒さに凍えたように濁り、つい私は彼女の元に駆け寄った。


「おかえり、アルマ」

「んー」

「長かったわね。何をしてきたの?」

「内緒ー」


 ふふ、と笑って嘯くので私は眉を釣り上げた。


「主人に向かってその物言いは何なの。聞かれたのなら嘘偽りなく秒で答えなさい。まさかルーベン殿下に何かされたの? ……ちょっと抗議してくるわ」

「待って待って」

「だって、貴女、そんなに疲れて」


 再度顔色を覗き込むと、その瞬間ギュッと抱きしめられる。思いの外力が強く、息の逃げ場を求めて彼女の肩口から顔を出した。

 随分身長伸びたなー。


「疲れてないよ。寧ろ楽しんだし。ちょっとスイッチの切り替え出来てないだけ」

「スイッチ?」

「ロラちゃんにくっ付いてたら元に戻るから」

「…………」


 縋るように身を寄せられ、何とも言えない。心臓は高鳴るが、もっと別の場所で感情の波が飛沫をあげた。

 仄暗い暴力的な闇を孕んだ金色。その闇を見た途端、私の思考も凍える。けれど口調だけは戯けていて、口から飛び出すのはいつものおねだりだ。


「ね、キスしていい? ロラちゃんに触りたい」

「…………ええ」

「……だよねー」


 動かないアルマに「あら?」と思う。了承を示したが聞き流されてしまった。


「ロラちゃん、大好き。僕と結婚してー」


 これもいつもの定型文である。何度も何度も聞きすぎてもはや挨拶の域だし、本人も自分で何を言っているのか理解していないだろう。

 けれどそれにも同意したが、大きな反応を示さず「えへへ」と幸せそうに微笑むだけだ。

 疲れていないと言っていたくせにやはり疲労が溜まっているのだろう。尤もこちらの話を聞かないと言えばそれもまた、いつものこと。

 やや呆れてため息をつくと、突然どこからかどんぐりが飛んできてアルマの頭に直撃した。


「えっ?!」

「…………?!」


 驚いてアルマが顔をあげて、ある一点を見て濁った瞳に光が走った。私もアルマが見た方向に目を向けたが、コンマ一秒で残像だけ残して何かが消えた。

 ……カンペのように見えたが、あれは一体。

 まさか、アルマの『気配のないお友達』が屋敷にまでいるなんてことは。いや、深く考えると怖い。ひとまず現実逃避しよう。


 不意に体を離され、アルマがモジモジと顔を染める。

「あう……」と、瞳を泳がせること数分、意を決して放たれる次の言葉を私は静かに待った。別に私から言っても良いのだが、折角挨拶とは違う、意味のある言葉で気持ちを告げてくれるのだ。このちょっとしたひと時が何ともくすぐったい。

 真っ赤になっていくアルマが可愛くてつい笑みが溢れる。じっと見つめていたら意を決したアルマはゆっくりと口を開く。


「ド、ドローレス様。僕のお嫁さんになって下さい」

「喜んで」


 差し出される手を受け取る。

 彼女の顔はかつてないほどバラ色に染まり、髪の毛が逆立つ。愛らしい唇は小刻みに震え、小さく嗚咽が漏れた。じんわりと瞳が潤んだのでそっとハンカチを差し出した。


 ちょっと場当たり的だったが、ひとまず気持ちは伝えられただろう。課題はあるが二人で乗り越えれば何とでもなるに違いない。

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