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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい 作者:小竹

二部

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16. 確信が欲しい

 夜行性であるヤマネコは日の出と共に眠気を催し眠ってしまった。

 彼らは就寝前に水浴びを好むのだ。ヤマネコの習性を理解したアルマは敢えてこのタイミングを狙って湖にやってきた。夜間は活動的になっているため行動範囲が広すぎて捕まえることは困難である。

 エミルの言葉少ない情報だけで、ペットの正体と捕獲方法を弾き出していたのだ。


「解決したことだし、ルーベン殿下に知らせよう」

「そうね。馬車を手配しましょうか。二人で持って運ぶには大変だから」


 木陰で気持ち良さそうに眠っているヤマネコ。起こさないように優しく撫でると、刺すような視線を感じた。振り返れば、案の定侍女がこちらを見ている。


「もう触んないで。ロラちゃんの愛撫は僕だけのものだよ」

「気持ち悪い言い方しないで」

「焼きもち焼かせる方が悪い」

「な……」


 両手を取られ立ち上がる。ヤマネコから手を離した瞬間、その姿が消えた。「え?」と、驚いて黒い肢体のありかを探すが魔法のようになくなってしまった。何で?


「ヤマネコは三バカに運ばせる。ロラちゃんは僕が運ぶ」

「え、あっ!」


 抵抗する間も無く抱き上げられた。俗にいうお姫様抱っこというやつで、瞬時にお腹の奥から恥ずかしさがこみ上げてくる。

 降りたくて仕方がないが、下手に暴れてアルマが怪我をしたら大変だ。どうしようどうしよう、と熱を帯び始める頭で考える。

 焦った顔色を悟られたくなくて両手で顔を覆うと、クスリと大人びた笑いが降ってきた。


「ロラちゃん」

「…………」

「真っ赤になってて可愛い。僕のこと、意識してくれてる?」

「……バカ」

「また勘違いだったら悲しいから、確かめていい?」

「?」

「嫌なら避けて」


 地面に降ろされ、ホッとしたのも束の間、頬に手を添えられる。視野に影がかかり見上げるとアルマの顔が目前まで迫っていた。

 長い睫毛に縁取られた金色が、愉悦に染まっている。薔薇色の頬が愛らしく、形の良い口元が弧を描いた。つい思わず見惚れてしまう。「大好きだよ」と、唇に直に息が降りかかり何をされるのかわかった。


「ア、アルマ……」


 心臓が痛いほど胸を打つ。合わさりやすい位置へと顔を傾け、アルマの唇はすぐそこだ。

 このまま受け取っていいのか、純粋に気持ちを返していいのか、悩む時間が足りない。


「ちょっと、待っ」


「ドローレス様ーーーー!!!」


 ガクッ


 アルマの甘やかな瞳が瞬時に濁った。無念に顔色を変えた彼女は私の肩口に顔を埋める。「何で今……」と呟いたその先にいたのは。

 見知った顔が見えてホッと胸を撫で下ろす。あの蜂蜜のようにねっとり甘く、身動きの取れない空気がものの見事に飛散し、やっと頭が働くようになった。


「コーネリア」


 可愛い騎士の少女が馬車から降りて駆けてくる。


「探しましたよ。朝イチで宿に行ったのにいないから」

「アルマがエミルのペットを見つけたのよ。でも良くここがわかったわね」

「ルーベン殿下に相談したらここだと」

「…………」


 ということはルーベンもペットが何かわかっていたことになる。それなのに何故昨日は無駄足を踏ませたのか、アルマもルーベンも回り道が好きなのか。




 ******




 長兄の騎士と共に王宮へと向かい、城に着くや否や僕は馬車から飛び降りた。ドローレスとコーネリアは不思議そうに僕の挙動を一瞥したが今は構ってはいられない。


 城内で女物のお仕着せを着ている所を誰かに見られたら。絶対に変態の烙印を押されてしまう。

 ドローレスは言うまでもなく、コーネリアも変なフィルターがかかっているのか、幸いにも僕がアルマンドだとは気付いていない。単純に長兄以外に興味がないだけだろうが。


 誰にも見られたくないが、中でも次兄に見られたら頓死する。僕が死ぬときはロラちゃんのベッドの上で、と神に誓っているので絶対にあってはならない。

 二重生活も楽ではないのだ。


 三バカはヤマネコ処理に向かっている為、この窮地は僕一人で切り抜けるしかない。こそこそと植木の合間を縫い、馬鹿広い園庭を横断していく。途中身を隠すのに無理がある噴水広場があり、僕はいっそ堂々と歩き切った。隠れて歩く方が寧ろ目立つ。

 膝下まで伸びる長いスカートが脛に柔らかく当たり、羞恥に顔が染まりそうだ。普段であればドローレスが隣にいるので、女装の一つや二つあまり気にならない。

 隣にいるだけで落ち着く。男として守りたいのは前提として、彼女が主人として使用人を守ろうとするあの心地よさ。言動が厳しい割に彼女の周りにあるのは常にぬるま湯だ。一度浸かれば抜け出せない。その緩さに甘えて、子供のように要求を押してしまう。


 園庭を抜け、正門脇の貧相な小部屋に体を滑りこませる。掃除用具やちょっとした馬具でいっぱいになっている部屋はあまり嗅いでいたくない土臭さだ。

 城内には昔からの隠し通路が幾つかある。代々王族に伝えられるそれではなく、幼い頃から三バカ従者と遊びまわり、偶然に発見した通路だ。この小汚い小屋もその一つで、道具が詰まった棚の一番下が隠し扉になっている。大人一人が何とか通れる扉を抜けて、石段で築かれた地下通路に繋がるのだ。明かりが殆ど無く見通しは悪いし、ツンと黴た匂いもする。まあ、実際は黴だけの匂いではないのだが。


 これから長兄に命じられるであろう面倒な案件に、またあの部屋を使わなければならない。

 ぬるま湯の残像を恋しく思いながら、僕は闇に染まる階段へと一歩踏み出した。

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