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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
二章 シルヴェニスタ編
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10. 恋愛初心者

 好きだと、自覚してしまってからアルマに会うのが辛い。


 今までもムカついたり、可愛いと心踊ったり、アルマを思う気持ちは忙しかったけれど、この「好き」という感情はどの感情も比較にならない。

 暴風雨の中に立っているかのように気持ちのコントロールがままならず、何かふとした時に失態を犯してしまいそうだ。

 世の人々は皆恋をすればこんな爆弾を抱えてしまうのか。ずっと恋愛脳だと馬鹿にしていた。無知でした。ごめんなさい。


 アルマと会う機会を極力減らし、日々勉強に没頭した。

 勉強さえしていればあのぐちゃぐちゃした底なし沼に嵌らなくて済むのだから。単純に逃げの行動に走った。




「ろ、……ドローレス様」

「…………」


 入浴を終えて廊下を歩いていたら、自室の前でアルマが待っていた。

 真夜中であるのに大輪の花を周りに咲かせ、私を見ると嬉しそうに頬を染めた。


 この子、こんなに可愛かったかしら?


 猫のイラストが入った抱き枕を小脇に抱え、ヒラヒラのネグリジェを着ている。明らかに寝の姿勢であるそれに、次に何を言い出すのか容易に想定でき私は唇を噛んだ。


「お疲れでしょう。そろそろ寝ませんか?」

「…………」

「ぼ、……わ、私も一緒に寝ていいですか? 最近寒くて」

「…………」


 私、今どんな顔をしているのかしら。

 ちゃんと笑えているかしら。主人に相応しい威厳は保たれているかしら?


「ごめんなさいね。まだ勉強したいから」

「……う」

「客室を貴女のために開放しているでしょう?寒ければ暖炉を炊きなさい。湿気ってるかもしれないから掃除をしてから使うのよ」

「………」


 脇を抜けて自室の取っ手に手をかけると、キュッと手首を握られる。

 ……握られたところから熱くなって、意識してその感覚を振り払った。


「あのあの、ドローレス様」

「まだ何か?」

「さっき、窓ガラスを割ってしまいました。申し訳ありません!」

「ドジね。家政婦長には報告した? ……そんなことより怪我はないの?」

「怪我は、ちょっと自分じゃわからなくて。見てくれません?」

「何故私が?」


 扉を開けて中へ案内すると、アルマの頭から耳が生えた。嬉しそうに部屋へ入り、怪我をしたであろう腕を捲ってみせる。

 細腕を想像していたが、思っていたよりも筋肉質だ。男性を思わせる腕を見て、怪我がないことを確かめると「大丈夫よ」と頷いた。


「怪我はないみたい。次からは気をつけなさいよ」

「あの、触ってくれませんか?」

「触らなくてもわかったわ」

「じゃあ叱ってください」

「とっくに家令に叱られたでしょ。私が二度叱る必要があって?」

「…………」


 アルマの瞳が不安定に揺れた。

 その悲しみを全面に押し出した瞳を目の当たりにして、私の経験値不足が彼女を傷つけたことを知る。


 だって、どう接すればいいのかわからない。

 好きだと彼女に伝えたらいいの? 今まで散々「その気はない」と彼女の気持ちを弄んでおいて、今更そんなことを言っていいの?

 結局、私はアルマとどうなりたいのか、その結論も出ていないというのに。


「あの、僕、ロラちゃんに何かした?」

「え?」

「何か嫌われるようなこと、したかな。謝るから、一緒にいたいんだけど……」

「…………」


 おずおずと上目遣いにこちらを伺ってくる。

 伸ばされた腕を寸前で避けて、「いいえ」と言いながら胸が痛くなる。本当に厄介だわ、コレ。


「私の都合だから気にしないで。アルマは悪くないわ」


 ただちょっと考えて整理する時間が必要なの。と言外に伝えるも、当然うまく伝わらなかった。アルマの瞳はますます悲しみで濡れる。


「都合って、あにう……、ルーベン殿下のこと?」

「え?」

「舞踏会に行ってから、ロラちゃんの様子変だもん。ルーベン殿下が気になるの? みんな、お似合いだって言ってたよ」

「……?」


 急に無関係かと思われる人物の名前が出てきて拍子抜けしてしまう。

 何故ルーベン? 一回踊ったから? ……あ、婚約者だからか、一応。

 見当違いの憂いに私は笑みを浮かべる。随分と馬鹿みたいな嫉妬をするものだ。


「殿下は関係ないわ。アルマは見ていて気付かなかったの?」

「何を?」

「婚約者、なんて言われているけれどそんなの嘘だもの。殿下が女性問題でお困りだったから体よく使われただけよ」

「…………」


 その絶妙な間に、やはり気付いていたか、と私は頷いた。本来であれば殿下の了解なしに口外してはならない事実であるが、アルマならば感づいていてもおかしくはない。

 私もルーベンも互いに興味はない。アルマを囲む男たちのような熱量を互いに発してはいないのだから。


「勿論これは内緒よ。時期が来ればこの役割は解雇になるから。それまで他の皆には黙っていてね」

「……解雇」

「そうよ。だから貴女がヤキモチを焼く必要はないわ。わかったら早く寝なさい。アルマが思うような心配なんていらないのよ」

「ロラちゃんも兄上と似たような事を言うんだね」

「兄上?」


 アルマにはお兄様がいるのか。そういえば、アルマの家族関係全然知らないな。


 見つめると、彼女はハッとして返答をぼかした。今度時間があった時ゆっくり聞こうと思い、私は部屋の扉に手をかける。


「さ、早く休みなさい。もう夜も遅いわ」

「……だから、一緒に寝たいって言ってんじゃん」

「その口の利き方、失礼よ。改めなさい」

「ロラちゃんが『うん』って言ったら改める。っていうか、ずっと我慢してたけどいい加減欲求不満なんだよね」

「はい?」


 先程まで控えめだったくせに、急にふてくされ始めた。再び手が伸びてきて開きかけた扉を内側から閉める。


 まさか、また。


「貴女、眠いと随分図々しくなるわね」

「そうさせるのはロラちゃんでしょ。僕をずっと放置した分甘やかしてよ」

「いつも甘やかしてるわ。ちょっと、手離して」

「…………やだ」


 冗談とも取れそうな声色でアルマの顔が近づいてくる。天使の瞳の奥底で傍若無人な炎が燃え上がり、私は暴れる心臓を精一杯押さえ込んだ。

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