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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
二章 シルヴェニスタ編
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7. 独りよがり

 あまりにも暇だったので適当に挨拶回りをして過ごした。

 暫くしてコーネリアを従えてルーベンがやってきた。私を見て何か言い合いをしている。


「ロラ」

「ドローレス様、勝手にどこかに行かないでください」

「ごめんなさい。お二人共ご多忙に見えましたので」

「だからと言って供も連れずにフラフラするな。コーネリアを同行をさせろ」

「……供」


 それにしてもアルマはどこに行ったのかしら?


 あちこち挨拶回りをして探してみたがあの可愛い天使の姿を見つけることができなかった。アルマの周りにはいつも大勢の人が集まり、教祖様が驚かんばかりの礼拝崇拝が行われている。その中に私が一歩踏みいれようものなら異教徒よろしく弾劾されるのだが。

 一目見ればわかるはずの人の山が見つからず、気になってそれも兼ねてフラフラしていたのだ。あの子が何か危ない目にあっていなければいいのだけれど。


「ロラ?」

「はい」


 キョロキョロと辺りを見回していたら、ルーベンに手を取られた。互いにグローブをはめているので素肌は触れない。

 いつも配慮を重ねてくれる彼に、他の男性のような嫌悪を抱いたことはない。このスマートで完璧な男が女性に振られまくるというのだから世は本当に不思議なものだ。世界七不思議に認定しよう。


「折角だから踊るか?」

「光栄でございます」


 ぐいっと引き寄せられ、すっぽりと私の体は彼の腕の中に収まった。なぜかコーネリアが真っ赤に顔を染める。


 見つからなかったアルマはホールで踊っているのかもしれない。男性をよりどりみどりに楽しんでいるから、挨拶の場では姿を見かけなかったのかも。

 ホールの内側から探せば見つかるかしら。

 踊っている相手が類稀なる聖女であるアルマに見合うのか、ワタクシが直々に判定してやろう。


 うふふ、と自然に笑みが浮かぶ。


「ロラ」


 何度目か呼びかけられ、私は顔をあげる。金色の瞳に見下ろされ、甘さを含んだ声が耳に落ちる。かかる息がくすぐったくて顔を背けるが、揶揄うように大きな手が追ってくる。


「誰か探しているのか?」


 頬に掌が置かれ、首が動かない。意識を周囲に散らしながらルーベンへと視線を向けた。

 間も無くしてワルツが始まる。彼のリードは非常に上手で、意識をどこかに向けていても歩調が外れることはない。とても踊りやすい。


「ええ、私の侍女を。先ほどから見つからないものですから」

「侍女?」

「とても可愛くて愛らしい、天使のような子ですの」

「ふむ」


 ルーベンも首を回して辺りを見るが、すぐに私の方に視線を落とす。


「ここからはわからんな。ロラはその侍女とは親しいのか」

「ええ、親しいと自負しておりますわ。私は好いております」

「そういえば先日の夜会も連れと共に来ていたな。その彼女だったか?」

「ええ」

「なるほど」


 ステップを踏み、くるりと回るが、相変わらず体は安定している。

 凄いな、この男。ルーベンも気もそぞろのはずなのに促される歩調に迷いはない。無理のないリードに疲れを感じず、いくらでも踊れそうだ。


「侍女は一生懸命で良い子なのですの。少々ドジなところが玉に瑕でございますが」

「そうか」

「彼女の幸福を願っておりますが、なかなか上手くいかず。私もずっと共にいられるわけではございませんもの。あ、そうですわ。殿下が彼女を正室にお迎えになられては如何でしょう。自慢の侍女ですのよ」

「何を勝手なことを」

「確かに。早急な話でございましたわ。では初めに顔合わせを」

「そうではなく……」


 曲が一旦終わる。話していたのに二人ともちっとも息が切れていない。半数以上のパートナーがホールから離れる中、私たちは見つめ合いその場を動かない。

 次の曲が始まり、また足が動き出す。


「話を聞くに、侍女の方もロラが好きなのではないか?」

「あら? そのように聞こえましたでしょうか?」

「聞こえなかったが、そう理解した。だから『上手くいかない、共にいられない』のだろう?」

「…………」

「好いてる相手に他の相手を充てがわられても迷惑なだけだ。それよりも実を結ばずとも共にいられるだけで、その侍女は充分幸せなのではないだろうか」

「……それ、不毛じゃございません?」

「不毛かどうかは本人が決める。ロラが勝手に人の幸せを決めるな」

「…………」


 言葉もない。

 当たり前のことなのに言われて初めて気がついた。

 私はどうやらアルマのことが好きすぎるようだ。一般的な思想も、アルマが関わると全て影がかかり私の寸尺で彼女の幸せを測ってしまった。

 何度も何度も好きだと告げられているのにこの体たらく。耳が痛いし、ついでに心臓が痛くなる。……何かしら、これ。


「最近市井で流行りのロマンス小説がございまして」

「急になんだ」

「庶民の少女が王子に見初められて正室に成り上がる、シンデレラストーリーなのですわ。なんとなく殿下と侍女を重ねて読んでおりましたの」

「……はあ」

「思慮が浅はかでございました。お耳汚し、申し訳ありません」

「馬鹿なのは知っている。ロラはもう少し周りをよく見て見識を広めろ。勉強ばかりでは結論が独りよがりな発想になる」

「おっしゃる通りですね」


 しゅんとなる私の頭にルーベンの掌が降って来た。なでなでと頭を撫でられ、少し恥ずかしくなった。

 ルーベンは度々兄のように上から接してくるのでムカつくが、言っている内容はだいたい的を射ている。素直な心があれば受け入れられることも、生まれ持った反抗心からついつい噛み付いてしまう。

 けれど、いつまでも物事の決断が自分の感情第一、希望第一ではあまりにも幼い。幸せにしたいと願うのならもっと他のやりようがある。

 そこに気づかされて、改めてルーベンの懐の大きさを思い知る。


 いつか、この男にも勝ちたい。


 そう思って見上げると、甘やかな蜂蜜色の瞳が揺れた。

 数秒見つめ合って、ルーベンの視線が他に流れる。私から体を離し、いつの間にか背後に立っていた人物へと肩を押した。


「彼にも、夢のようなひと時を」


 振り返ると、ルーベンによく似た金色の瞳を持つ男性が私を待っていた。

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