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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
二章 シルヴェニスタ編
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【番外編】こどもの日 ドローレスver

脈絡なくこどもの日。時系列は無視です。

 朝起きたら隣に子供が寝ていた。

 私に背を向けて寝る、こんもりした山からキラキラと輝く金髪がのぞいている。


 子供を起こさないように静かにベッドを抜け出ると、思わぬ段差にすっ転んだ。


 あら、おかしいわ。ベッド、こんなに大きかったかしら?


 腰の高さまであるベッドの下で尻餅をついて、傷むお尻を撫でる。時計を見て、暦を見て、今日が何日かを確かめた。

 何だか頭がぼんやりする。昨日までのことが霞がかかったようにはっきりしない。

 けれどカレンダーを見たおかげで、徐々に思考が働き始める。


 今日は赤日ね。幼児舎はお休みだから、教会に行って勉強でもしようかしら。


 部屋を出ると、屋敷の中はシンと静まり返っていた。平日であれば使用人たちが忙しく働く時間であるが、休日はみなみな暇に出している。

 使用人に世話をされなくても一通りのことは出来るし、むしろ自分で片付けたいからだ。あるいは昼過ぎまで寝ていても叱られたくないからか。

 休日を各々の裁量で過ごすのが我が家の家訓である。


 玄関を出て、家畜小屋へと回る。朝生まれたての卵を回収し、畑からは適当に野菜を引っこ抜いた。


 朝食はエッグベネディクトとニンジンスープにしよう。


 馬屋の前を通って、ふと両親の馬がいないことに気付く。既に外出したのか、それとも夜少し屋敷に帰ってすぐに職場にとんぼ返りしたのか。


 あの金髪の子供も両親の仕業に違いない。大方その辺で迷子の子供を拾ってきて、面倒になって私の寝台に投げたのだろう。

 二人ともドが付く自由人で、私は度々その後始末に追われる。


 朝食を作り部屋に戻ると、子供はまだ寝ていた。

 柔らかな髪に指を通して、驚かない程度の音量で声をかける。


「おはよう」

「ん」


 子供は少しばかり身動ぐが、枕から顔を上げることはない。


「ご飯が出来たわ。温かいうちに食べましょ」

「うっせえ、クソババア」

「…………」


 乱暴に手を振り払われて、小さな手と手がぶつかる。ペチンと音がして、金色の子供は「え?」と布団から顔を出した。

 私の顔を見てわかりやすく固まる。数秒見つめ合い、子供は不機嫌を露わにドアの外に向かって叫んだ。


「おい、ババア! 変な女がいるぞ! 捕まえて処刑しろ!」

「………」

「いないのか?アン、ドゥ、トワー! こっちもいない? つかえねー」

「いないと思うわ。ここは私のうちだから」

「つまり誘拐されたのか。……ってか見張りが子供一人とか、舐めてんの?」

「はいはい。何ごっこか知らないけれど、ご飯食べてくれない? 片付かないから」

「は?」


 テーブルにはまだ湯気の立つ朝食が並べられている。温かさがご馳走なのだから、美味しいうちに食べて欲しい。

 しかし子供はテーブルを見て大きくため息をつく。


「そんな犬の餌みたいなのを食べろって? 人参とか臭いもん出してくんな」

「あら、そう。ならお先に頂くわね」


 悪態をつく子供に構わず、私は一人テーブルに着いた。さっさと食べ始める私に彼は目を丸くし、けれど舌打ちをしながら正面の椅子に座る。

 全力でまずそうな顔をしてスープをすすり、「あれ?」と唇を舐めた。それから音もなくスプーンを口に運び、あっという間に皿は空になる。

 吐き出される口汚さとは対照に、食べ方は非常に上品だ。


「おいし。何これ、お前が作ったの? 砂糖いっぱい入れた?」

「塩だけよ。うちの野菜は甘みが多いから生のままでも美味しいのよ」

「あっそ。おかわり」

「あ」


 言うよりも早く、子供は私の皿を取り上げてしまう。二杯目も平らげ、卵料理も残さず食べ終えた。満足したのかそのままベッドへと倒れこむ。

 呆れて後片付けを始める私に、子供が「おい女」と声をかけた。


「何かしら」

「なかなか料理が得意なようだから、特別に家来にしてやる。これから毎日僕にご飯を作れ」

「あら、光栄ね。でも結構よ」

「は?」


 どういう意味だ?、と子供は横柄な態度で首を傾げた。断られる可能性を考えていなかったのか飲み込めないでいる。


「お断り、と言ったのよ。おわかり?」

「……なっ! 僕のいう事を聞けないのなら処刑するぞ!」

「まあ怖い」

「嘘だと思ってるな! 僕を誰だかわかっているのか! 高貴にして強大なシルヴェニスタ王家の第三王子、アルマンド様だぞ!」

「アルマンドというのね。私はドローレス。よろしくね」

「アルマンド様と呼べ! 女っ!!」


 一人ぷんすか怒っているのを見ながら、今度こそ後片付けを再開する。

 幼児舎の男の子同様、目の前の子供も正直苦手だ。妙に偉そうなところとか乱暴なところとか、女の子に比べて男の子はみんな意地悪だ。

 いつもスカートに手をかけてくるし、子供じみた悪口を言って追いかけてくるし、まともに相手をしても良いことがない。


 朝の支度をしたらさっさとリリースしよう。


 アルマンドの着替えを手伝って、「出かけましょう」と手を握る。やはり彼は怒りに任せて「気安く触るな!」と怒鳴ってきたが知ったことではない。

 領主の娘たるもの、迷子の世話くらいわけはないのだ。



 少し歩いて駐在所に着くが、不運なことに駐在のおじさんは不在であった。

 威嚇するアルマンドに、室内の椅子に座るように促す。着席を確認して私は小さく一礼した。


「それじゃ、私はここで失礼するわね」

「はぁ? どゆこと?」

「もうすぐおじさんが見回りから帰ってくると思うから。迷子だって言えば保護してくれるわ」

「……な! ……ぼ、僕が迷子だってッ?!」

「強がらなくてもいいわ。道に迷うのは誰だって経験することだし」

「いちいち無礼だな! お前!!」

「痛ッ」


 髪を引っ張られ反射的に声をあげると、引っ張ったアルマンドの方が驚いて手を離す。動揺するように瞳が不安定に揺れ、けれど直ぐに怒りへと感情を傾かせた。


「僕が迷子なわけがないだろう! 謝罪しろ!」

「申し訳ありません」

「…………ッ!」


 望み通り丁重に謝罪するとアルマンドは息を飲んだ。

 持ち上げたスカートが風に揺れ、密かに子供の様子を伺うと何故か真っ赤に顔を染めている。

 口がモゴモゴと動き、次なる暴言が飛び出す前に私は踵を返した。


「……え? ……あ、」

「それでは、お元気で」

「ちょ、待て!」


 そんなに気に入らなかったのか。

 迷子のアルマンドは尚も暴言を吐きながら、私の後を追って来た。振り上げている拳に嫌悪が走る。


 本当に、男の子って乱暴で大嫌い。

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