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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
二章 シルヴェニスタ編
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6. まだまだ成長期

 あっという間に約束の日になった。

 コーネリアが迎えに来てくれ、誘導されるままに馬車に乗り込むと、しれっとアルマも一緒についてきた。始終くっついてくるアルマにコーネリアは呆れた視線を投げ、私も首を傾げる。


 今日の彼女は随分と妙な衣装を着ている。ドレスを隠すように分厚いコートを羽織り、鍔の広い羽根つき帽子を目深に被っている。コーネリアの視線を避けて私の隣に身を寄せた。


「侍女の貴女は呼んでません。お帰りを」

「ドローレス様に悪い虫がつくといけませんもの。私も一緒に行きます」

「悪い虫も何も、ルーベン殿下の婚約者殿にそんな真似をする輩はいません。それに万が一の時は私が対処するのでご安心を」

「失礼ですが女性の貴女に出来ることなど限られてます。私の方が」

「アルマさんこそ女じゃないですか」

「……う」


 アルマは悔しそうに言葉を飲み込む。言い合う二人の間に「まあまあ」と割り込んだ。


「アルマは私を心配してくれてるのよね。嬉しいわ」

「ろ、……ドローレス様」

「ねえ、コーネリア。今回はアルマも同席してはいけないかしら? 折角彼女もお洒落してきているようだし」

「……ドローレス様は甘すぎます」

「それに今回は各国からのお客様が沢山いらっしゃるのでしょう? その中にアルマの配偶者に足る人がいればいいと思うの」


 うふふ、と笑うと隣のアルマがギシリと固まった。コーネリアは不快を露わに眉を寄せる。


「ああ成程。そういうことでしたか」

「?」

「アルマさんの日頃の行いは耳に入ってきております。ご自分の配偶者探しにドローレス様を利用するのは結構ですが、ゆめゆめ主人の評価を落とさないようお願いしますね」

「あら? 何か勘違いしてない?」

「馬鹿なドローレス様は黙っていてください」


 ぴしゃりと言われて反射的に口を噤んだ。この私にこういう物言いをする人間は珍しい。加えて素直に自分の気持ちを吐き出す姿勢は結構好きだ。

 それはそれとして、コーネリアが有らぬ誤解をしているようなので説明を加えようとしたが、何故か隣のアルマに口をふさがれた。

「こういう誤解ならむしろ都合がいい」と耳に囁かれ、「何故」とそちらを振り返る。瞬間、馬車が揺れ至近距離にあったアルマの頬に唇が掠める。


「…………」

「…………」

「…………」


 真っ赤になって離れるアルマと対照的に、コーネリアは「わざとらしい」と眉間にしわを寄せた。



 王宮に着くと、アルマはそそくさとどこかに消えてしまった。

 主人から勝手に離れる侍女の姿に「やはり」と騎士の少女はため息をつく。


「大方男漁りでしょう。彼女の対応は後でするので、ドローレス様は私についてきてください」

「うふふ、漁るほどアルマは不自由ないのよ。老若男女問わず、みんな天使な彼女の虜なの」

「本気で言ってるのなら相当な馬鹿ですね。あれは全部計算ですよ」

「計算?」


 首をかしげる私の手を取り、白亜色の中央階段へと誘導する。手すりには薔薇の蔦が巻き付いている。


「ああやって純朴を演じて周囲の関心を引き寄せているだけです。ドローレス様に叱られるのも織り込み済みで、悲劇の少女に浸っている。貴女が言われなき非難を受けていると、お聞きしましたよ」

「そうね。確かにムカつくことは多々あるわね」

「なら何故解雇しないのですか。あんなのを側に置いておいても、無益なだけですよ」

「計算なら計算で、強かで好きだわ。それにアルマが私を利用しているのだとしたら、それはそれで嬉しい誤算ね」

「どういう意味ですか」

「私も彼女を利用しているから。罪悪感が無くなっていいわね。うふふ」


 笑うと、コーネリアは嫌そうに目を細めた。

「アルマさんじゃなくて、私を側に置けばいいのに」という小さな呟きを華麗に流す。心配してくれているようなので嬉しいが、コーネリアはルーベンの騎士である。親切で告げられた言葉をそもそも正面から受け取るつもりはない。


 階段を登り、ホールへ入ると華やかな音楽が会場を満たしていた。

 ダンスホール脇の壇上でオーケストラが円舞曲を奏で、色とりどりに着飾った男女が仲睦まじく踊っている。


「ドローレス様、こちらです」

「うん?」


 ホールでは無く、その脇のゲストルームに連れて行かれる。ドアが解放されたままのそこは、会場に負けず劣らず人で賑わっている。


 その人の波の中心にいるのはいつかどこかで見たことがある無表情の男である。男は私に気がつくと右手を軽くあげて自分の元に来るように合図をした。

 普通に考えてあの男はルーベン殿下だろう。男の顔をあまり覚えられないので、会うたびに微妙に顔が変わっている気がする。自分でもこの忘却癖はヤバイと思っている。


 彼の前に立ち挨拶を済ませると、ルーベンは僅かに眉を寄せた。私の姿を眺めて小さくため息をつく。


「贈ったドレスはどうした。それは自前か」

「失礼ですが色が私にふさわしくないと判断しました。それに」

「それに、サイズが合いませんでした」


 すかさず脇からコーネリアが追随する。こんな人前で太ったとか恥ずかしすぎる言い訳である。

 っていうか、ルーベンも私のサイズを知らないくせに適当に送って来るな。悲しくなるから。


「サイズが合わない? ……そんなはずは」


 言いかける彼に、コーネリアが私に背を向けたままジェスチャーを送った。胸元で何やらサインを作っているが私からは何をしているか見えない。

 コーネリアの合図を見たルーベンは目を瞠り、虚空に視線を泳がせた。微妙に恥ずかしがっているように見える。


「まさかまた」

「きちんと採寸しませんと。試しに無理やり縛りましたが苦しそうな吐息が唆られました。あのドレスはお二人の時にお楽しみ下さい。あ、失言失礼しました。」

「……コーネリア」

「兎も角、私が採寸しておくのでドレスの作り直しをお願いします」

「……わかった」


 ヒソヒソと二人で何か話しているので私には届かない。私の不摂生によるデ(略)の陰口を言っているのだとわかるが少しは配慮してほしい。

 幸いにもルーベンを囲んだ客人は諸外国出身の者が多く、会話の詳細はわからなかったようだが。


 留学地のみならず各国に知り合いがいるなんて、ルーベンの顔は非常に広い。その事実に驚きつつ、私は二人の内緒話が終わるのを待った。

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