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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
一章 令嬢と侍女編
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16. 王宮での再会

 王宮は祝福を求める市民でごった返していた。


 普段神々しい姿を相見えることが出来ない国王が、今日この日だけ大々的に表に立って市民に祝福を与える。

 頭上のテラスから一人雄大に手を振り、背後から侍女がバスケットの花を撒く。


 従姉の子供の名前は男女で部分的に混じった物だ。ベースは同じでどちらも子供が無事に成長するよう願いが込められている。

 布をギュッと握りしめながら祝福の花を受け取るべく手を出す。


 その瞬間、出した手ごと肩を抱かれ、マントの中に包まれた。急に視界が暗くなり何事かと頭上を見上げる。

 煌びやかな赤い装飾が施された公務服。がっしりとした胸板が見えて、呆れたようなため息が吐かれる。


「お前はこんなところで何をしている」

「…………」


 視界を覆っていたマントが捲られ、日の下に輝く金色が見えた。

 殆ど表情筋が動かない顔には、わかる人にはわかる呆れが滲んでいた。


「おい、吃驚するな。大して触ってないだろう」

「…………」

「まさかまた忘れたのか。つい先週会っただろう」

「暫しお待ちを」


 男のことは知っている。むしろこの国の住民はみんな彼を知っている。

 ただ名前が出てこないだけだ。少し考えれば思い出すはず。


「俺からは言わんぞ。ロラが自分で思い出せ」

「あ、大変失礼しましたわ。殿下」

「名前は。殿下でごまかすな」

「ルーベン殿下。嫌ですわ、忘れてなんかおりません」

「先週は思い出すのに二時間もかかったくせに」

「二年ぶりですもの。仕方がありませんわ」

「四年だ。ロラは尽く男の記憶を削除していくな」


 ルーベンはマントの上から私の肩を抱く。男性に触れられるの嫌だと、彼は知っているのだ。直には触れず、やんわりと群衆の中から誘導する。

 王宮の裏口まで来て、そのまま私を室内に迎え入れた。無表情の顔が僅かに歪む。


「そもそもなぜあんなところにいた。貴族ならば室内に入れたのだぞ」

「庶民的目線で催事を拝見したかったのです。ああして芋洗い状態で祝福を受けるなんて、楽しかったですわ」

「理解に苦しむ。そんな格好で出歩けばまた乱暴されても文句は言えんぞ」

「大袈裟ですわ。本日は先日と違って一般的な参列用のドレスでございましょう? 町民もみな似たような格好でおりますわ」

「……お前はもっと自分の見てくれを自覚しろ。ヒヤヒヤする」


 ルーベンとは先日夜会にて再会した。アルマの配偶者を見繕いに行った、あの夜会である。




 あの日、適当に男と踊って別れようとした時、相手が足を痛めたと言った。医務室まで付き添って歩いていると、流れるように灯りの無い部屋に案内された。

 男は内側から鍵をかけ、何事かを言い服を脱ぎ始める。バカみたいな光景に頭が冷え、「さて、どうしましょう」と考えていたら突然外側から内に向けて扉が蝶番ごと吹っ飛んだ。


「またお前か」


 長い足が振り下ろされ、無残に転がる扉の残骸を蹴飛ばす。

 廊下の光が部屋の中で扉の形になって切り取られる。金色の髪がきらやかに輝き、その下の無表情の顔がため息をついた。


「もしやと思ってついて来てみれば、案の定か。それともこれは合意か」


 無表情の男が部屋の中で半裸になっている男を一瞥する。半裸の男は完全に固まっている。


「いいえ、合意ではございませんわ」

「ならばいい加減学べ、このバカ」

「…………」


 私をバカと呼んだ男は来ていた上着を脱いで私の頭に落とした。意外と重量のあるそれはボフッと音を立てて私の重心を崩す。


「着ろ」

「…………」

「バカみたいな格好をしているからこうなる。帰るぞ」

「………」

「ロラ?」


 動かない私に男が怪訝な顔をする。私も男を見る。どこかで見たことがある顔だと思った。人をバカバカと容赦ない。悪どいと罵られても馬鹿と呼ばれたことはない。

 いや、ずいぶん昔あったような。


「貴方、随分馴れ馴れしいけど。どちら様?」


 私を愛称で呼ぶのは家族とアルマと教会の人たちくらいだ。素直に疑問を発したら金色の男も半裸の男も揃って見えない雷を落とした。

 無表情から微妙に怒りのオーラを感じる。

「?」と疑問を飛ばしながら部屋を出ると、男が上着の上から私の腕を取る。


「気が変わった。俺を思い出すまでは帰さない」

「…………」


 まあ、悪い男では無いのだろう、と直感が告げた。意図して私に触れず、熱量の低い金色の瞳をこちらに向ける。感情の読めない無表情がまた印象的だ。そのまま馬車に誘われ、特に考えずに彼と共に乗る。


「あ、そうでしたわ。連れと共に参りましたの。彼女も連れて参りますのでお待ちくださる?」

「用があるのはお前だけだ。連れには伝言を残すよう手配する」

「あら、そう」


 じっと金色の瞳を覗くと、彼の方も私をじっと見つめる。


「ノーヒントだ、ロラ」


 そう言って足を組み、馬車に積んでいた本を手に取り読み始めた。もう私に目を向けることはない。

 本を捲る彼を観察し、ようやく誰だったかを思い出した。

 その間、街をぐるりと一周した。彼は二冊目の本を読み始めた。

 そのくらい時間がゆうに過ぎていた。

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