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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
一章 令嬢と侍女編
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15. 国王誕生祭

 国王誕生祭は別名結婚祭とも言われている。

 国王様の誕生日に挙式をしたカップルは未来永劫仲睦まじく結ばれる、という曰くがあり挙式の数が普段に比べ格段に多い。

 挙式だけでなく、告白やプロポーズもこの日に肖って決行されることが多く、街中がもはやピンク色である。


「ほんっと、この街恋愛脳ね。幸せなことで何よりだわ」

「僕たちもいずれ仲間入りです。愛してます、ドローレス様」

「…………」

「ふふっ。僕もジンクスにあやかってみました」


 帰省のために馬車に乗り込むアルマは、嬉しそうにそう言った。

 正直だんだん可哀想になってきたところだ。

 掌で転がすのが楽しかったのは始めだけで、健気に毎日愛を寄せてくるアルマに対し、私は一体何をしているのだ。

 生産性がまるでない仕打ちに自分の悪女ぶりが際立つ。

 元より聖女だとは思っていないが、清らかな天使にすることではない行いに、前はなかった罪悪感が芽生え始める。


 あんまり一緒にい過ぎるのも良くないわね。


 情が移ってたまらない。

 頬を染めて手を振るアルマを見送り、私は私の支度のために家の中に入る。


 支度部屋では両親共に誕生祭パーティーの支度で大忙しだ。お母様は連日のエステ通いでお肌の調子はバッチリ、お父様は筋骨隆々な体を更に鍛え、もはや怪物である。

 各自自慢の肉体美に煌びやかな衣装を纏い、あまりのキラキラ具合に私は「うっ」となる。気合が入りすぎて目が痛い。

 私に気づいた両親が手招きをして部屋の中に誘う。


「アルマちゃんはもう行ったかしら?」

「はい。今日も相変わらず、……いえ、何でもありませんわ」

「何だ? またプロポーズでもされたか? お前もいい加減意地になってないで受け入れなさい。見ているこっちがもどかしいぞ」

「そうよぉ。あんなに想ってくれる人はそうそういないわ。あまり焦らしていると嫌われちゃうわよ。お母さん、アルマちゃんが泣くところ見たくないわぁ」

「……はい?」


 思わず目が点になった。別に意地になってもいないし焦らしてもいない。

 ちゃんときっちりきっぱり何度もお断りしている。

 っていうか両親的に女同士の結婚はいいのか? 身分差とか気にしないのか?

 あっけらかんと「アルマアルマ」と連呼する両親にしばし言葉を失った。

 アルマは確実にうちの両親から外堀を埋めてきている。やはり抜け目がない。怖い。


 両親は何やら的外れの激励を飛ばして、アルマに続いて出て行った。何だかどっと疲れた。

 まあいい。私だってなんの準備も無いわけではないのだから。今のうちにせいぜい「アルマアルマ」してろ。直にもっと「アルマアルマ」になって脳内が幸福のあまり壊れるのだから。

 どうぞ、お幸せに。


 私は家族とアルマの安寧を願った後、自分の支度へと移行した。




 参加した従姉妹の結婚式はそれはそれは素晴らしいものであった。

 さんさんと降りしきる陽光のもと行われた、オープンガーデンでの挙式。爽やかな風が気持ちいいし、料理もおいしい。

 挙式を知らせる祝福の鐘が協会から鳴り響く。これで今日何度目だ。でも幸せな知らせに違いないので嫌な気分にはならない。

 フラワーシャワーが頭上から降り、色とりどりの花びらがカーテンのように空中を浮遊する。

 式場でひと際輝いているのはやはり新郎新婦である。純白の衣装に身を包んだ二人は非常に幸せそうだ。私もついつい頬が緩む。


「ご結婚おめでとうございます、従姉さま」

「ドローレス、来てくれたのね。嬉しいわ」

「素敵な挙式に呼んでくださり感謝しております。今日の従姉さまは一段とお綺麗ですわ。女神もきっと嫉妬している事でしょう」

「あら、ドローレスには負けるわ。今日この日くらいは主役を譲って頂戴よ。ほら、みんな貴女を見ている」

「ご冗談を」


 うふふ、とお互い笑いあい、私はふと従姉の腹部に気付いた。新婦はゆったりとソファーに着席していたので初見ではわからなかった。ウェディングドレスのデザイン自体腹部に余裕を持たせて作られており、ボール大の膨らみがある。


「まあ、従姉さま」

「ふふ、やっと気付いた」

「二重でおめでたい席でしたのね。ご気分は大丈夫なのでしょうか」

「そうなの、悪阻がなかなか酷くてね。でも折角だしみんなにこの子の分も祝福して欲しくて」

「ご無理をなさいませんよう。何か私に出来ることはありますか?」


 気を使って出た言葉に従姉はキランっと目を輝かせた。まるで私がこういうのを待っていたかのようだ。

 悪戯っぽい目を即座に奥に引っ込めて、今度は悲しみを前面に押し出して顔を覆う。


「ね、従姉さま……?」

「ああ、私の優しい従妹、ドローレス!」

「?」

「実はとっても困っているの! もうすぐ、臨月だと言うのにまだ王様に祝福を頂いてないの」

「何だと、それは大変だー」


 隣で新郎が驚いた風に立ち上がる。台詞は棒読みである。

 一連の下手な芝居を見てわかった。芝居が下手なのは我が一族の血だな。新郎も新婦の遠い親戚であったし。

 おいおいとハンカチに涙を零す二人に、やや呆れながら問いかける。結局私に何を求めているのだ。


「ドローレスが王宮に代わりに行ってきて。私はおいしいご飯を食べるのに忙しいか……ゲフンゲフン」

「大変申し訳ない、従妹殿。妻はこのとおり体調を崩していて。これが赤ん坊の名前だ。男の場合と女の場合の二通り用意した」

「…………」


 強引に子供の名前が書かれた布を渡される。

 二人とも「ごめんなさいね、ありがとう」と言う顔をして、次の招待客の挨拶に移る。

 その後ろ姿が早く行け、と言っている。


 ちょっとカチンときたが、身重なのは本当だしね。

 国王からの祝福は別に生まれてからでも良いのだが、出産は必ずしも母子共に無事だとは限らない。

 万が一に備えて、先に祝福を貰いたい心情は理解できた。

 それに生まれたら生まれたで、赤ん坊の世話で忙しくてゆっくりする暇もなくなる。今のうちに新郎新婦二人の時間を楽しめば良い。


 そう思い直して、ため息をつきながら王宮へと向かった。

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