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悪役令嬢は侍女にぎゃふんと言わせたい  作者: こたちょ
一章 令嬢と侍女編
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11. 結局ボタンは掛け違う

 人生の転機は意外な所から来るものだ。

 アルマから告白され、初めは茶番だとムカついたがどうやら本気だったらしい。

 愛らしい頬を真っ赤に染めて私に愛を紡ぐ彼女の姿は地上に舞い降りた天使と見間違う。超絶に可愛い。これは世の男どもを敵に回したな。


 常々アルマに勝ちたいと願っていた私にとって、ある意味これは勝利なのではないか。

 人の気持ちに勝敗を付けるなど下世話な話だが、これはこれで気分がいい。初めてアルマを掌で転がしている感じだ。いつもいつも私ばかりが割を食い、振り回され、粗暴に扱われてきたが少しばかり痰飲が下りる。


 これで家を出てもいい。今この瞬間の為に淑女教育をしてきたのだ。私の代わりになるよう、ミラモンテスの令嬢として恥ずかしくないよう。

 アルマの気持ちを利用するようで悪いが、この気分の良さはなかなかに心地いい。今までの冷遇、全部許してやる。

 アルマも私を許してね。結局はミラモンテスの栄誉も財産も全てお前の物になるのだからおいしい話よね。



 告白の後、全てを吹っ切ったアルマは態度を隠さないようになった。

 家でも学園でもどこにいても、腕を組んだり手を繋いだり、恥ずかしげもなく愛を語る。


 園庭でランチをとりながら、アルマが「あーん」とスプーンを差し出した。

 一人で食べれるし、周囲からの視線が痛い。鬱陶しい。


「貴女って結構恋愛脳なのね」

「僕も意外。ロラちゃんのせいで人格改変中だよ」

「気持ちは嬉しいけど、実らない恋は不毛よ。次に行きなさい」

「嬉しいなら良かった。それに次もその次も、永遠に続く列は最後尾までロラちゃんだから。やる事は変わんないよ」

「……可哀想に。どこかで頭でも打ったのかしら」


 差し出されたスプーンを受け流して、自分のランチを食べる。

 恋人同士の空間とはかけ離れたそれに、周囲がなんと言っているのか。噂話が普通に声がデカくて聴こえた。

 この状況を「百合」と言うのだ。侍女と主人のいちゃいちゃと、仲睦まじい様子に周囲が黄色い悲鳴を上げる。


 女生徒がチラチラとこちらを見る。男子生徒もだらしなく口を開けたまま見ている。

 私に引力はないので、全部アルマのせいだ。相変わらずの魔性を秘めている。


「はー、幸せー」

「何がよ。私たちの関係は変わってないわ。恋人とかじゃないんだから勘違いしないで欲しいわ」

「その辺りはおいおい。……それよりも」

「?」

「ロラちゃんに嫌われなくて良かった。好きって言って無視されたり、無かったことにされなくて良かった」

「いくら何でもそんな事しないわよ」

「ロラちゃん、したことあるよ」

「いつよ」

「一年前。あれは結構辛かった」

「?」


 アルマが僅かに悲しそうにしたので私は首を捻る。彼女に会ってから好きと告白されたことも、告白を無視したこともない。

 それとも時々言っていた主従関係の好きを言っているのか? あれにもちゃんと返したではないか。

 疑問を浮かべる私にアルマは笑う。


「あの時は告白してないから、状況違うけど。でも全然僕を認識してくれなかった」

「何それ。夢じゃない? 貴女を無視するなんてあり得ない。記憶にないわ」

「ほーら、やっぱ覚えてない」


 拗ねるように頬を膨らませ、けれど瞳には甘さが零れんばかりに溢れている。本気で幸せそうである。こいつ、マジか。

 好かれる要素が何もないにも関わらず、好意を示してくれるアルマはどこまでも真っすぐである。素直で純粋で天使だ。


 私には合わないわねー。


 捻くれまくっている自分と良い関係になるとか、やっぱり想像がつかない。自分で言うのも何だが、私の性格は悪いし結構面倒くさい。

 どうせ付き合うならもっと私に似たタイプがいい。べたべた触ってこず、お互いに関心を示さず、時間も場所も共有しないドライな殿方がいい。要はアルマとは正反対のタイプだな、うん。


 アルマにはアルマの幸せが有るはずである。私との未来は描けないので、やはり主人として責任をもって結婚相手を探してあげよう。殿方だけでなく令嬢も選択肢に増えたので選びたい放題である。

 淑女教育に加えて婿(嫁)探し、一気に忙しくなりそう。


「期日は決めないとね。だらだらしちゃうもの」

「ロラちゃん?」


 どういう意味かとアルマが首を傾げる。ちょっとしたサプライズでもあるので今は教えてあげない。侍女から貴族の娘に昇格するなど滅多にあることではないからきっと喜ぶだろう。


「時期が来たら私の全てを貴女にあげるわ」

「…………ッ!」

「ふふ。楽しみにしててね」


 一気に顔を真っ赤に染めてアルマがコクコクと頷く。

 その様子を見て、アルマも薄々感づいていたらしい。つくづく抜け目のない女である。

 まあそんなところも可愛いのだけれど。

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