仲間の加入
テイホウは怜華の説得に応え、放浪軍加入を表明した。
怜華は尚も信じられない様子で、もう一度聞き返す。
「大将は変態で、今は兵も兵糧もない放浪軍ですよ!? 本当にいいんですか!?」
「はい、構いません。私が全身全霊を尽くした主君ソンケン様(息子の方)は、このシナリオでは一臣下の立場です。故に私がソンケン殿(パパの方)に仕える理由は薄く、我が身の置き所は何処かと考えておりました。そんな時にお二人は現れ、私の事を強く求めてくださった。それに殿路殿の筋肉、あれは守るべきものを知る鋼の鎧とお見受けした」
「はぇっ? 筋肉……?」
再び素っ頓狂な声を上げ、次は唖然とした怜華。
どうやら彼女は重要な勧誘に緊張し、ある事を忘れてしまっている様だ。
それを思い出させるのは、当然ながら俺だろう。
「テイホウは呉国の守護神だ。長年仕えた主君ソンケン(ソンケンの息子の方のソンケン)が没した際、呉は魏の大軍による侵攻に曝された」
「うん、確かシバシ(陳留守将・シバイの長男)が10万の兵力で攻め込んだのよね」
「その時テイホウは、軽装の兵士3千を率いて魏軍に奇襲を仕掛け、見事勝利を掴んだ!」
「うん、それと筋肉にどういう関係が?」
ここまで言っても、怜華はまだ分からない様だった。
俺は彼女の後ろで仁王立ちするテイホウを指差し、彼女を振り向かせた。
「ちょっ!? 何でテイホウ殿まで半裸になってんの!?」
「無論、呉を守る為に軽装となったのですよ」
テイホウは既に上半身裸! 守るべき存在を守る為に鍛えた肉体を遺憾なく露にしていた。
怜華は筋肉自慢に前後を挟まれた状態となる。
「軽装!? 無装の間違いじゃな……ちょっと二人とも何で近付いてくるの!? 怖いんだけど!」
俺とテイホウの筋肉は激しい共鳴を示した。
もはや俺達の間に言葉は要らず、誰が挟まれていようが関係ない。
「丁奉、今後とも宜しく!」
「此方こそ、宜しくお頼み申す!」
俺は両手をそのまま前に出し、丁奉は両手を交差した状態で前に出す。
そして怜華の首を中心に、その左右ギリギリで拳を交わして彼女を閉じ込めた。
(なにこれぇ……! なにこのふたりぃ……! もうやだぁーー!)
丁奉と俺は怜華の頭上越しに目を合わせ、互いを語り合う。
「殿路殿の拳、岩より硬く太陽が如く熱い! 正に漢足り得るものです!」
「丁奉の拳、歴史を感じられる程に重い! これが大将軍たる所以なんだな!」
『丁奉は殿路秋渓の配下となりました』
『推挙の成功により、姫崎怜華の名声と功績が200上がりました』
『推挙により行動力と金を10消費。怜華殿の残り行動力は110、残り金は10です』
怜華の説得が功を添うし、先ずは道づ……仲間一号を獲得。
彼女の目前、即ち俺にとっても目前に情報が表示される。
『殿路秋渓殿、丁奉をどの様に歓迎しますか?』
すると今度は、放浪軍頭領である俺に対する選択肢が表示された。
それは放浪軍・正規勢力関係なく、武力若しくは知力が80以上ある武将の推挙が成功した時に表示される選択肢。
丁奉の能力値は武力81 知力71 政治55 魅力71と、武力が80を超えていた。
一方、所持スキルは巡察の心得、反計、弓兵指揮、水軍指揮。戦法は乱撃Lv4 火矢Lv2 放射Lv4 水禍Lv2 奇襲Lv3といった状態であり、戦闘に特化した知勇兼備の武将と言える。
「無論、新たな仲間を祝って宴会だ!」
宴会を行う、武芸を試してみる、知識を試してみる。
この三つの選択肢から俺は、一番上の宴会を選んだ。
実はこれを選択するだけで、武将の功績値が1000の状態から始まり、階級も一番下の九品官ではなく下から二番目の八品官となる。
尤も放浪軍に階級制度はなく、いくら功績があろうと昇格もない。
それ故、放浪軍にとっては別段有り難みのない選択肢ではあるのだが、純粋に仲間の加入を喜んでパーティー(なぜか無料という有り難仕様)を開いた方が気分が良いというもの。
「おっ! 丁奉さんが推挙されたぞ! こりゃめでたい事だ! 送迎会だ!」
(……無料で開かれる宴会って、そういう事だったのね)
丁奉ほどに高い能力値を持つ武将は、飯店の店主から一目置かれている様で、言ってみれば店主が武将の活躍を期待して奢ってくれるという事だった。
美味な食事を味わいながら、俺と怜華と丁奉の三人は盃を交わす。
流石に俺と怜華には酒を出されなかったが、コク深いミルクが充分過ぎる旨さだった。
「殿路殿。次は誰を勧誘するか、決めておられますか?」
「そうだな……次は誰を誘おうか……」
「次はショカツタン殿を勧誘しようと思っています」
丁奉の突然の問いを前に、明確な答えを返したのは我が軍の軍師・怜華。
彼女は既にある程度の計画を立てており、水餃子を食べる手を止めて説明に移る。
「私が持っている所持金はあと10しかありません。即ち、推挙できる人物は残り一人」
「でもなぜにショカツタンなんだ?」
ショカツタン。彼は本来、魏の臣下でありながら呉に寝返った人物。
それが影響してか、彼の相性値は呉系に限りなく近い数値だった。
「ショカツタン殿は高い魅力値を持っている。それは呉系の在野武将の中でも一、二を争っていた筈。彼が仲間になってくれれば、外交の使者としてとても心強いの」
外交の使者と言うからには、影響する能力値は政治だと思われるものの、このゲームでは魅力の高低が交渉の成功率に関わってくる。
「それに彼は武力と知力がともに70超え。戦法も充実しているから外交官の役割だけでなく、戦争でも活躍できる。だだし、彼は異様な早さでソンケンに仕官するから、このターン中にでも登用しておきたいの」
続けて怜華は丁奉に謝罪する。
「丁奉殿、本当は貴方の弟さんにも声を掛けたいのだけど……ご免なさい。今はお金にも余裕がない状態なので、他の方を優先させてください」
この盧江には丁奉の弟のテイホウが居る。
今日見る限り、この飯店には丁奉しか居ないようだが、盧江にはテイホウ(弟)の他にもリョハン、リョキョといった在野武将も居た。
「分かりました。弟には待つ様に伝えておきます。ホウは広域偵察のスキルを持っておりますから、放浪軍の偵察係として役に立つでしょう」
「ああ、早いうちに彼も誘いに行くよ!」
兄である丁奉が、弟も仲間に加えたいと思うのは当然と言える。
盧江を治めるソンケンがテイホウの登用を行わない内に、ソンケン配下の武将がテイホウを推挙しない内に、テイホウ自身の気が変わらない内に、勧誘を行うべきだろう。
丁奉(字:承淵)
呉の武将。丁封の兄。孫策の跡を継いだ孫権によって広く人材が集められた際、武官として召し抱えられた一人。
周瑜、呂蒙、陸遜といった時の名指揮官の下で、確実に武功を立てた叩き上げの豪将。彼は同世代の将軍や若輩者の陸遜が華々しい戦果や名声を残していく中にあって、堅実な戦いぶりを示していた。
そして呉国を支える名将が次々と亡くなる一方、老齢にも拘わらず前線に立ち、国内外の障害を排除して大将軍に任命される。言わば遅咲きの花を咲かせた老将軍。
ゲーム内では207年に孫権軍所属で盧江に登場。以降は常に最前線に立ち、本筋のシナリオでは最後を飾る263年(蜀滅亡シナリオ)まで即戦力として活躍します。というより最後の方のシナリオに至っては、丁奉と陸遜の息子ぐらいしか即戦力足り得る人材が居ません。
余談ですが三国志○戦3では彼はバッファロー軍のエースにして、殆どの合戦に参加(酷使とも言う)する、居なくてはいけない武将でした。別名は「赤髪のライオンキング」。他の武将とともに特技の「防柵」で万里の長城もどきを作り、そこから射程延長と武力上昇と敵の移動速度を低下させる遠弓麻痺矢の雨を降らせたものです。やっと万里の長城を壊せたとしても、暫く立てば軍師の呂蒙さんが一瞬で完全修復&魔改造します。……あの時見せた友達の絶望に満ちた顔は、今も忘れていない。
因みに丁奉さん曰く、「将軍として無様な戦は見せられん!」だそうです。