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道連れを求めて


 金が無いなら生活と関わりのあるものないもの全てに重税をかけて国民から搾取せよ、逆らう者には難解を極め過ぎて儂等でも理解できてない法の下に犯罪者のレッテルを貼れ。

食料がないなら全ての国民を農奴の身分に付け、皆が原始的な暮らしを営み、共産主義の下に無給・無休で働けば生産量は莫大に上がり国が富む。

兵士がいないなら強制兵役制度を設けて国民から戦力を募り、食料確保と領地防衛と高圧外交の尖兵と他国侵略と軍上層部が長生きする為の捨て駒兼護衛と軍需産業の確立と反対思想を持つ愚民の抹殺を行わせれば良い。


「って恐いわ!! 何その恐怖政治!! 秋渓、あんた大丈夫!?」


「全て現実に起きた歴史だ。流石にやりたくないが……こうも物資がないのであれば……」


「……そんな事は私がさせないから。兎に角、無い物ねだりしても仕方ない。先ずは一緒に戦ってくれる仲間の勧誘をするべき。三軍は得易く一将は求め難し……ってね!」


「仲間集めかぁー。……俺達の相性値は確か呉系の筈」


 武将一人一人には相性値が設定されている。

それは実際の歴史に基づいたものであり、ソウソウ率いる魏の国に所属した武将はソウソウを基準にして彼と近い相性値、リュウビ率いる蜀の国に所属した武将はリュウビ寄りの相性となっている。

そして俺達の相性は呉系、即ちソンケンを始めとする孫呉(三国の中で最後に滅んだ勢力。大陸南東が本拠地)に近いものとなっていた。


「この280年のシナリオだけど、スタート時点で在野(どこの勢力にも属していない)の身分かつ、優秀な武将が多く配置されている。呉系武将も、その例外じゃなかった筈」


「確かに……テイホウやリョハンにショカツタン。シュカン、ゼンソウ、リョウトウ、リョウソウ。彼等に至ってはスタートと同時に在野として発見された状態だったな」


 発見状態の在野武将と、未発見状態の在野武将。その違いを簡単に言えば、情報画面に名前が表示されているか、されていないか。されていればプレイヤーも他勢力も登用が可能、されていなければ両者とも登用不可な上に面会も無理。

未発見武将は個人ターンの際に、行動力を20消費する「見聞」を都市で行う事により、ランダムで発見できる。


「発見されていない武将にも優秀な人物はいるよ。でも発見された状態の武将を勧誘するのが優先。…………特にソンケンが治めている盧江の都市に居るテイホウなんかは、早く誘わないとソンケンにとられちゃう。……どうやらリョハンの所在地も同じく盧江みたいだけど……確か、彼の能力は全部が平均的すぎて戦闘にも特化してない筈だから、余裕があれば勧誘するって感じ?」


 テイホウ。80超えの武力と、70超えの知力を持つ呉国末期の名将だ。

リョハン。史実では結構名の知れた人物であるが、このゲームではかなり空気。うろ覚えだが、能力値もあまりパッとしない感じだった筈。


「それと、他勢力や他都市の情報なんだけど……」


「ああ、武将の名前以外は分からないんだろ」


「うん。ゲームに忠実になってて、やっぱり偵察や訪問しない限りは分からないみたい」


 このゲームでは、他勢力・他都市・都市所在武将等の情報を定期的に調べる必要がある。

調べる方法は主に三つ。個人ターンの際に行動力を20消費する「訪問」で現地に赴くか、軍議の際に偵察を行って調べるか、城壁を見聞してランダムで出現する旅大好き爺さんから聞くしかない(たまに爺さんの代わりに、未発見武将を見つける事がある)。


三つともに共通していえる事は、一年が経過すると白紙状態となる事、都市を調べれば武将の能力も分かる事、勢力が持っている都市を全て調べるとその勢力の情報が分かる事。

まぁ、とあるスキルを極めればそんな事も必要なくなるが。


「だが安心してくれ。仮に武将の名前すら分からない状態でも、さっき言った武将達の所在地は頭に入っている。それと、未発見武将が何処の都市に隠れているのかもな」


 奴等の隠れ家は俺の頭の中に入っている。

故に、奴等が俺から逃れる事はできないのだ。


「……流石にやりこんだだけはあるわね。じゃ、頼りにしてる」


「……とは言うが軍師殿。俺の行動は終了しちゃったので、いま頼りになるのは貴女だ」


「そうだね。なら早速、盧江へ向かおうか」


 怜華は城壁に向かい、そこで訪問コマンドを選択し、ソンケン領の盧江へ向かう。

一方、行動を終了して何もできない筈の俺でも、何もできない事を条件に怜華に同行する事はできる様だった。この辺りの仕様変更は助かります自称・許劭さん。


『訪問により行動力を20消費。怜華殿の残り行動力は120です』


 盧江に着いた俺達は、飯店へと向かう。

在野武将や特定のグラフィックを持つ旅人は、この飯店で会う事が可能であり、ここでは「会話」と「推挙」のコマンドが選択できる。


「極太眉毛に素敵なチョビヒゲ……そして赤色の兜! 間違いない、彼がテイホウだ! 兄の方のテイホウはあれだ!」


 兄のテイホウと言うように、実は弟の名前もテイホウだ。

弟は赤ら顔に天狗っ鼻が特徴的 。能力値は兄の劣化と言った感じで、兄よりも短命。


「では軍師殿、お頼み申す! 拙者は何もできないながら、ラムの真似をして応援を――」


「一応確認するけどさ、羊の真似ってまさか裸になるとかじゃないよね? メェーって、鳴く方の真似だよね? ラムは毛があるから大丈夫だけど、秋渓は――」


「さ、行かれよ軍師!」


「なるなよ!? 裸になるなよ!? 私がテイホウ殿説得している時にテイホウ殿がニヤケたりして説得失敗したらあんたのせいだからね!?」


 姫崎怜華、知力100は伊達ではない様だ。まさか俺の応援を未然に阻止するとはな。

彼女は二度ほど振り返って俺に釘を刺した後、改めてテイホウに歩み寄る。そんなに警戒しなくとも大丈夫だというのに。

仲間から信頼されていないのが、これ程まで心に響くとは思わなかった。


「テイホウ殿、お初にお目にかかります。私は殿路秋渓に仕える姫崎怜華と申します」


「おお、私の名前を知っておいでですか。では改めて……私はテイホウと申します。貴女は姫崎怜華殿でしたな。以後、お見知りおきを」


 話し掛けてきた怜華に応え、テイホウも軽く挨拶する。

とても腰が低く、素敵なチョビヒゲに相応しい紳士的な笑顔を見せる男性だった。

ならばこそ、俺がする事は只一つ。先ずは深緑のマントを外そう。


「テイホウ殿、貴方の知勇を見込んで頼みたいことがあります。我が主君・殿路秋渓に、貴方の力を貸してはくれませんか? 私達は放浪軍を立ち上げたのですが……まだ兵も将もなく、貴方の才覚が必要なのです」


 怜華の説得は続く。頑張れ軍師殿! 俺とラムも1月だと言うのに薄着で耐えているぞ!


「これから私達は全ての勢力に戦いを挑み、それに打ち勝って大陸上から争いを無くします。テイホウ殿、大将軍の経歴を持ち、呉国を七十年に亘って支え続けた貴方の存在と底力が、今の私達には必要なんです!」


「怜華殿……それほどまでに私を必要とし……ぶふっ!?」


「テイホウ殿? 一体どうされました?」


 赤色の戦闘衣を脱いで上半身裸となった俺は、テイホウの視線先の床上で高速腕立て伏せを開始。背中にはラムと友達羊一匹が乗っており、二匹共が激しい上下運動を経て顔の筋肉を強化させ、凄腕スナイパー13顔負けの厳つい顔つきになる。


「テイホウ殿? 私の後ろがどうかし…………何してんだてめぇー!!」


「ぐあぁっ!? 武力100が武力50に……負けたなんて……! 誰か、嘘だと……言ってくれ……」


「メェー!」


「そうか。……そうだよな……ありがとよラム……なんだか俺はぁ、眠くなっちまったよ……」


「そのまま寝てろ」


 脇腹に蹴りを入れられた俺は、二匹の羊が邪魔で悶絶する事すら叶わず。

無念なり。怜華が言う通り、俺はこのまま無力にも横になるしかないのだろうか。


「…………見苦しい所を見せてしまって、すみません。これが放浪軍の頭領・殿路秋渓でして……その……嫌、ですよね? どうか先程の話は忘れて……」


 そんな俺を余所に、怜華は説得失敗と決め付けてテイホウに謝罪する。

すまん怜華、力不足な俺を許してくれ。…………というか俺が悪いんだな、うん。


「構いませんぞ」


「……はへっ? いっ……いま、なんて……」


 だが然し、テイホウはやはり紳士的かつ話の分かる人物であった。

素っ頓狂な声を上げる怜華を前に、彼はもう一度意思表明をする。


「殿路殿の放浪軍に加わりましょう。怜華殿に次いで、私が第二の加入者になります」


「えっ? えっ!? 本当ですか!? こんな非常識な上半身裸の変態が纏める軍ですよ!?」


 怜華よ、自分から勧誘しておいて、それは無いんじゃないか?

俺が非常識かつ上半身裸な変態であるのは認めよう。だがせっかく仲間に加わる事を決めた賢人の心を逆撫でする様な真似は、あまり良くないのではないか?

……そうは思っても、うつ伏せになっているので言えなかったのだが。


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