第九話 迷宮商人2
男は俺の左腕についているプロテクターを指差し言った。
「………」
俺は何も言わなかった、いや戸惑っていたと言うべきだろうか。さっきまでのお調子者感が消え、その男は剣呑な目をしていた。
「バットピグ一体に慎重になるレベルの冒険者が手に入れられる代物じゃねぇ…、何処で手に入れたか教えてくれねえか?」
男の声、目からは完璧にさっきまでの雰囲気は消えている。
「それを聞いて…、どうするんですか?」
男の迫力に押されつつも、俺も少し強く言い返す。
すると男は、
「俺の前いた迷宮…、第二迷宮での出来事だ…。ある中級冒険者がいつものように狩りをしていて、幸運にも迷宮装備をドロップしてな。そして、そいつはその迷宮装備を拾い上げて処遇を考えるために先に一人で帰ったんだ」
と、話はじめた。それから続けてこう言った。
「後日、そいつは自室で死んでいるのが見つかった。」
「死んで…た…」
俺はそれを聞いて、背筋がゾワっとする。
それから、男は俺の左腕のプロテクターを見ながら
「俺はそいつと一時的にパーティ関係にあってな、ドロップした現場には俺もいたんだ、んで、そのドロップした迷宮装備ってのがあんちゃんのによく似た腕につける青のプロテクターなのさ」
と言い終え、何処で手に入れたか教えてくれないか、ともう一度聞いてきた。
「これは…、俺がドロップしたものですよ間違いなく…、モンスターはスライムです、ほら、ここに紋章が…」
俺はそう言うと、男にプロテクターの端にある黒いスライムの紋章を見せた。
すると男は安堵したかのように一息吐いた。
「スライム……、確かにこれはあの時の装備じゃねぇようだな…。まさかとは思ったが、そんな都合よく見つかるわけもねえか…。」
そして、すまなかったと言いながら頭を下げる。
迷宮内での事件は聞いたことがあるが、外の世界で、しかも自分の部屋で殺された。迷宮装備にはそれだけの価値があるということなんだろうか。人を殺して奪うほどの…。
「その…犯人は見つかったんですか?」
俺は男に尋ねる。
「いや、まだだ。迷宮装備も見つかってなくてな。オークションサイトや迷宮内の市場、商人仲間にも尋ねたが行方がわかってねぇ。多分、闇市に流れたか…、犯人が身内に渡したか。それとも、犯人自身が使っているか…。俺がこの第五迷宮に来たのは商売ってのもあるんだが、その事件の手がかりを追っているってのもあるんだ。だが、あんちゃんを疑っちまったのは本当にすまなかった。」
男はもう一度深々と頭を下げた
「や、やめてください。そんな事件があったんじゃ仕方ないですよ、数が少ない迷宮装備で、しかも俺のと同じ青のプロテクターなんて滅多に、いや俺のとその奪われた二つしかないかもしれない」
そう言いながら俺はプロテクターをさすった。
迷宮装備絡みの事件はあるのだろうとは思っていたが、いくらなんでも殺人事件は酷すぎる。
でも、この手の事件は俺が思っている以上に多いのかもしれない。夢中で狩りをしていると誰が倒したモンスターがドロップしたかも分からないし、考えてみれば大型モンスターならパーティで狩りをする。
俺は一人で狩りをして、周りに誰も居なかったから何も起きなかっただけなのかもな…。
もしもあの時、たまたま見ている人が居たら…、
そう考えて、俺は少し怖くなった。